バンクシー「世界一眺めの悪い」ホテル | * たびばな * 旅好き女子のあちこち歩き

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主に鉄道でヨーロッパ34カ国、世界57か国をぐるぐると駆け回り、とにかく歩き回った、充実した旅の記録です。いろんな人に出会ったり、いろんなものを食べたり、旅のワクワクを少しでもおすそ分けできれば嬉しいです。持ち物やルート、予算についても情報いっぱい。


2019年 1月。

 

イスラエル、パレスチナ自治区のベツレヘムにやってきました。

 

本日の宿は、正体不明のストリートアーティストとして有名な(日本でも昨今とても知られるようになりましたね!)バンクシーが ’世界一眺めの悪いホテル’ として 2017年にオープンしたThe Walled Off Hotel。

 

 

 

 

 

入り口にはドアマンやポーターがいるような、ヒップでおしゃれなホテル。

バンクシー人気が世界的に高まる昨今、なかなか予約がとれないホテルになりつつあります。昔からバンクシーが好きだった連れがどうしても泊まりたくて頑張りました。

 

特徴的なのは、その立地。このホテルは、Walled Off(壁に囲まれた、遮断された)の名の通り、パレスチナとイスラエルの境界線に張り巡らされた分離壁の目の前、壁に囲まれた場所に建っているんです。

 

 

 

 

分離壁で国を分断するというイスラエルの政策に疑問を呈しているバンクシーは、分離壁はもちろん、ベツレヘムの町中に政治的メッセージを込めたアートを描いています。バンクシーに続いて多くの人が声をあげ、壁にメッセージを残せるよう、ウォールアートのショップも併設。すごく、コンセプトがはっきりしたホテルです。

 

 

 

ホテルの中はまさにアーティスティックなブティックホテルという趣き。バンクシーがあえて壁の目の前に作ったホテルなのでそれに関わるアートがたくさんあるのですが、グロテスクになる一歩手前でギリギリ品が良く、政治的に振れすぎないのがすごく賢いと思った。

 

 

 

いまや彼の代表作のひとつである、火炎瓶ではなく花束を投げる少年のウォールアートを、実際の花瓶の花と重ね合わせたもの。

 

 


これも有名な、防御壁に建つ見張り台で遊ぶ子供たち。

 

 


猫に狙われている籠の中の鳥をパレスチナに見立てているのだろうな。

 

さて、チェックインしてお部屋に向かおう…と思ってボタンを押してもエレベーターの扉の向こうは 「壁」 でした。

 

 


お部屋に向かうには、実はこっちの本棚。カギをかざすとこの本棚がスライドして、奥に続く宿泊フロアに入ることができるんです。秘密の入口ですね。

 

 

ホテルに併設されたミュージアムやショップ、ロビーでのお茶なら宿泊者以外でも楽しめますが、この仕掛けを楽しめるのは宿泊者の特権。


 

本棚内部も快適な空間。だけど、「世界一眺めが悪いホテル」 ゆえに、かけられた風景画にはすべて鉄格子がかかっていました。

 

 

 

宿泊フロアの部屋には何種類かあり、いろんなアーティストが装飾を手掛けているのですが…

 

 

今回、予約の時期が早かったことと、なにより運が良く、バンクシー本人が手がけた 「バンクシールーム」 を取ることができました!

 

 


壁には、まくら投げで戦うイスラエル国境警備隊とパレスチナ人の姿。


 

TVのように見えるアートは、「Breaking News」 という文字の出ているTVのスクリーンが、中から投げられた石によって割れている(Breakとかかってる)、というもの。

 


 

アメニティも素敵で、ホテルとしては今回泊まったどのホテルよりも美しくて快適で、スタッフも気持ち良かった。お値段もそこそこ張ります。

 

…だけど、窓から見えるのは分離壁と見張り塔なわけです。

さすが世界最悪の景観を誇るホテル。

 

 


曜日や時間帯によっては、見張り塔にいる銃を構えたイスラエル兵の姿が見えたりするんじゃないかな。わざわざこんな場所に高いお金を払って泊まるのは嫌だと感じる人もいると思う。

 

 

少し時間があったので、1Fのカフェフロアに降りてビール一杯。

キリストが生まれた町でもあるベツレヘムらしい、「Shepherds(羊飼い)」 というパレスチナビールを。

 

 


このあと、朝のうちに予約しておいたホテル主催のウォーキングツアーに参加しました。パレスチナ難民の方が難民キャンプを案内してくださるツアーで、これが、…とても、ガツンと来て、以降の旅がすっかり変わってしまった。

 

その後、併設してあるミュージアムを見学。

… このホテルの存在価値というか、意義をすごくすごく感じる体験でした。


 

「バンクシー」 は人気アーティストなので、パレスチナに興味や関心がない人でも彼のプロデュースしたオシャレなホテルなら泊まってみたいって思う人は世界中にいて。ここじゃないと買えないグッズや、彼の手による作品もあるし、町中に散らばる彼のウォール・アートをタクシーで巡るのも、ここでの定番の観光になってる。

 

その過程で、少なくとも、かならず誰もが、目の前の壁と見張り塔を目にするし、パレスチナの現状を目にすることになる。

 

オシャレで居心地のよいホテルにすることで、世界中から人が集まって来てパレスチナにお金を落とすし、ここでの体験を各自の国に持って帰ってくれる。発言力のある人が来てくれたら、それぞれの国で広く拡散してくれるかもしれない。

 

なので、バンクシーのような有名人が自分をある種「エサ」にして人を集めて啓蒙活動を行うことはものすごく意義があると思ったんです。

 

※ 若い人やファミリーなどいろんな人が泊まれるように、バンクシーは同じ場所にドミトリータイプのユースホステルも併設しています。


 

翌朝の朝食も、盛りだくさんでとても美味しかった!

 

 

 

こういう、「政治的なメッセージだけじゃなくて、ホテルはホテルとしてきちんと快適なものにする」 っていうところがすごく良かった。

 

パレスチナに滞在した満足度を上げることは大事なことだと思うから。


 

ベツレヘムに、また、訪れることがあるだろうか。

今回、泊まれる機会が得られて本当に良かったと心から思います。