【読書感想】奥乃桜子『神招きの庭』(集英社オレンジ文庫) | 雪花の風、月日の独奏

雪花の風、月日の独奏

ゲーム、アニメ感想メインの堕落ブログ。
主にギャルゲ、時々百合。

 

予備知識なしで手に取って、思いのほか楽しめた一冊。

 

日本の中古時代の世界観をイメージした和風ファンタジー。

神をもてなす斎庭(ゆにわ)を舞台に、

友の死の真相を探るべく斎庭に入庭した主人公・綾芽と

今上の弟であり神と人の狭間にいる二藍の絆の物語。

同じレーベルの『後宮の烏』がヒットしたからなのか、

オレンジ文庫、またもや古風なファンタジーで攻めてきたぞ。

 

斎庭に務める妃宮たちは斎宮や斎院をイメージして造形されたと思われるが、

「神の嫁」である斎宮や斎院とは違い、

あくまでも帝の嫁として扱われている点に意外性があった。

女であっても斎庭に入庭すればそれなりの地位に立てるという

中古時代では考えられない制度も「甕の墓」の設定も面白い。

それに、神を心の底から崇め奉っているわけではなく、

「敬わないと面倒ごと起こされるから、いま宥めておいて、

問題を後世に先送りしている」という身も蓋もない理由にはちょっと笑った。

まあ、日本の神っていうか、アニミズムってそういうもんだよね。

一方、外来の神は意向に従わなければ、

問答無用で国を滅ぼすという厄介極まりない存在とされている。

さながら浦賀にやってきたペリーのよう…(世界観ぶち壊し

 

 

外来の神である玉盤の神のシステムが複雑なので理解するのに時間がかかったのと、

奈良時代と平安時代、どちらの時代をバックボーンに置いているのか掴みづらく、

世界観が脳裏に広がらなくて途中で読むのをやめようかと思ったが、

読み書きができない綾芽に二藍が書の手ほどきをするくだりから徐々に面白くなっていった。

初めての学びに歓喜する綾芽は、この上なく愛らしいし、

手を差し伸べたことに一喜一憂する二藍の心情描写には、ときめきを禁じ得ない。

その後も、順調に愛を育んでいく二人の姿に、にやつくばかり。

恋愛模様といえば、豪胆にみえて実は繊細な妃宮・鮎名様が

物言わぬ帝の隣でぽつりと本音を吐露する場面も良かった。

 

戦闘シーンはあれど、あくまでも「神をもてなす」のが本作の主眼なので、

黒幕との対決はあっさり終了させ、肝心の神との対峙の描写にページを割いている。

黒幕よりも神の方が手ごわかった。玉盤の神、めんどくさかった(オイ

 

------------------------------------------------------------------------

 

本作で、特筆すべきは、綾芽の親友で、故人の奈緒。

斎庭で罪を犯して処刑されたのだが、その真相がまあとんでもなかった。

国の滅亡を望む黒幕に操られた春宮の正気を取り戻させるために、

 

春宮との諍いで負傷した瀕死の寵妃にとどめを刺し、その首をチョンパ。

 

愛する妃の生首を目の当たりにしたショックで

春宮は正気に戻ったわけだけど、当然奈緒は死罪。

でも、その死罪すら自分の計画に組み込んで、

ひたすら親友が入庭してくるのを甕の中で怨霊となって待ち続けるなんて、

とんでもない度胸だな。

生前も死後も性格がカラッとしているので、余計に衝撃が大きかった。

恐らく2020年の小説界一、豪胆なキャラクターといっても過言ではない。

 

 

 

 

ラストを見る限り、本作、シリーズ化するのかな。

綾芽と二藍は相思相愛だけれど、二藍は妻が娶れない特殊体質なので、

現状、二人の関係は「友人」のまま。

今後は、この問題を解決するような話が展開されるのだろうか。

続刊も楽しみ……

 

 

 

 

と思っていたら、さっそく密林さんに続刊の情報が。

俄然アガってきたぜ!