【ゲーム感想】『ニル・アドミラリの天秤』for ios&Android(4)考察&総評 | 雪花の風、月日の独奏

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主にギャルゲ、時々百合。

だいぶ今さらなんだけど、ニルアド、隠しルートの感想。

Twitterでフォロワーさんの

「ツグミはドラマの中心ではなくて隅っこにいる印象」

というコメントを受けて、はてな、と熟考した結果、面白い考察ができあがったので、せっかくだからブログに投下する。

 

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以下の記事でも書いたように、『ニル・アドミラリの天秤』という作品の裏テーマは「作家の悲哀」。

 

 

 

皆に自分の作品を読んでほしいという願いと自分が書きたいものは大衆が望むものではないという本音。

作家なら誰しも抱える懊悩を稀モノという特異な設定を通して見事に描き切っている。

 

では、『ニル・アドミラリの天秤』の表テーマとは何だろう。

華族令嬢であり長らく鳥籠で安寧と暮らしてきた主人公・ツグミの「女性としての自立」のようにも見えなくもないが、本作の本質はそこではなく、「久世ツグミという聖母による苦悩する男の救済」にこそあるのだと思う。

 

その本質がもっとも顕著に表れているのが、最終章である隠(なばり)由鷹ルート。

彼はこのルートで、悪役ポジションの炎の怪人ナバリ仮面(笑)として

八面六臂の活躍を見せてくれる(作風台無し)

 

 

かつて書生として久世の屋敷で暮らしていた由鷹。

ツグミとも親しい関係なのだが、言動が時折不穏。

「こんなことをしても優しいキミなら許してくれる」とつぶやいたり、毎夜子供のように悪夢にうなされたり、厨房の床に油をまいてツグミの転倒を図ったり、その挙動は、実年齢と精神年齢が明らかに合致していない。

隼人ルートでは、自分も何が望みなのか分からないと、帝都を引っかき回した割には途方に暮れたような発言をするが、隠しルートでは、「火事で死に別れた母の悪夢に苛まれている」ことが明らかになって、やっと彼の行動原理が腑に落ちた。

 

母親を焼いた炎。

 

それは彼の中でそのまま母の象るものになり、

 

「炎に帰りたい」という叫びは、

 

母の胎内に還りたいという母性希求の衝動。

 

つまり、彼は「母性」を求めて長い間悪事(本人無自覚)を働いていたわけである。

今回、運悪くその「母性」のターゲットになったのがツグミだったわけだ。

 

 

ツグミは、母性を絵にかいたような主人公。

架空ではあるが、大正時代という設定なので、良妻賢母教育を受けて女学校を卒業。

屋敷から出ても炊事洗濯に苦労することなく、寮での暮らしを難なくこなしてみせる。

さらには、甘えん坊の弟を世話していた時間が長かったせいか、その世話焼きは他人にまで及ぶ。

外れたボタンをきちんと留められた時の燕野くんのリアクションと隼人の不貞腐れ具合は、必見。

滉には「人妻っぽい」と突っ込まれ、翡翠には「お母さんのようだ」ともフォローされているように、これでもかと「母性」が前面に押し出されているシーンだ。

それでいて、純真無垢、初心、可憐という少女性も持ち合わせているという、まさに男にとって理想の存在。

「救済する聖母」として、これ以上ふさわしい人物像はない。

ギャルゲのメインヒロインみたいだな(無粋なツッコミ

 

そんなツグミだが、悪党としての正体が暴かれ追い詰められた由鷹を決して断罪することはなかった。

彼女は、彼を赦した。

赦しを求める彼に、大きな愛をもって応えた。

 

 

 

終盤の一枚絵。

 

聖母が罪人に赦しを与える構図にして、母親が子供に手を差し伸べる表象。

 

この一枚こそが『ニル・アドミラリの天秤』の本質を端的に表しているように思えてならない。

 

この時代に女性ながら長として人の上に立つ朱鷺宮女史。

留学・就職と自立の道を歩み、自分から意中の人に告白した小瑠璃。

そして、心を凍らせながらもその裡に復讐の炎を滾らせていた「氷の白薔薇」こと薔子様。

しっかりとした意志を持ち、自分の足で立つ他の女性キャラとは違い、久世ツグミは、「救済を求める男」という装置を得てその機能を発揮する彼女達とは対極的にあるキャラだ。

 

なお、こちらのナバリ仮面、バッドエンドでは恐怖のシスコン弟に火あぶりにされた。

手記で「姉と結婚するのが夢だ」と堂々とぶちまけ、

姉に母性を求めることに微塵も疑いを抱いていないヒタキくん。

行動原理はナバリ仮面と似通っている。

故に「ポジションかぶり御免被る!!」とばかりに、地下防空壕でキャンプファイヤーを始める始末。

怖えな、シスコン弟。

ちなみに、ヒタキは、漢字で「火焼」とも表記される。

炎上待ったなし…。

 

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『ニル・アドミラリの天秤』の攻略対象たちは、母性に固執するキャラが多い。

翡翠は母親の形見である絵本に執心しているし、累は実の母を売女だと憎悪を滾らせている。

昌吾と紫鶴は、母性に関する言及はされていないが、どちらもツグミの母性に救われている。

 

攻略対象の中で、母性に関する描写が最も顕著なのは滉だろうか。

彼は母子家庭で、その母を悲惨な形で失っている。

滉ルートで象徴的だったがバッドエンド。

愛しの薔子様を喜ばせるため(でも本人は自覚がない)に、ツグミに妾になることを要求する四木沼喬。

滉が駆けつけた時には、すでに時遅し。現実を目の当たりにして泣き崩れる滉。

そんな彼の頭をツグミは優しくなでる。

 

「大丈夫。私は何も変わってない」

 

少女性を失っても女であることに変わりはないのに、男はゴメンと悲嘆に暮れて号泣する。

聖母から少女性が失われることは、男にとっておそらく「聖母の喪失」と同義なのだろう。

非常に象徴的な場面。

 

攻略対象で唯一、ツグミに母性を求めなかったのがメインヒーローの隼人。

他キャラ同様、隼人にも過去の傷はあるが、彼は傷をこじらせたりしておらず、犯人に裁きを与えると前を向いて生きている。

だからこそ、メインヒーローの座を射止めたのかもしれない。

 

ちなみに、隼人の「隼」と由鷹の「鷹」。

隼と鷹は、生物学上は同じ生き物であり、体の大きさが異なるだけだとか。

隠しルートと隼人ルートが表裏一体であるように、隼人も由鷹も表裏一体。

一歩間違えば、隼人も彼のように道を踏み外していたという示唆なのかも知れない。

 

 

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ずいぶん真面目にしたためましたが、今日はこんなところで。

最後に大事なことを叫んでおきます。

 

 

 

 

薔子様は 俺 の 嫁 !!

 

朱鷺宮さんも大好きです。

以上、『ニル・アドミラリの天秤』は世界観、人物ともに大変考察しがいのあるゲームでした。

 

 

 

 

ファンディスクも評判良さそう。

薔子様の可愛い一面が見れるらしいので、買おうかな。

 

 

 

 

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評価 (★:1点、5点満点)

 

 シナリオ       ★★★★☆

 キャラクター     ★★★★☆

 システム面      ★★★★☆

 グラフィック      ★★★★★

 音楽          ★★★☆☆

 女の情念度     ★★★★★

 聖母救済度     ★★★★★

 総合          ★★★★☆

 

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