武夷山の仙人の話
続けて、私の大好きな武夷山の話をしたいと思います。
かつて重慶の友人と一緒の時に知り合った道士に会うために、一人で武夷山に行ったときの話しです。
道士とは、タオを修行する人のことです。
突然にですが、道士の先生は私のほうではなく、その少し横の方を見ながら、急に話し出すのです。
「この世の中、開運とかイメージで成功する方法とか、そんな簡単に運を良くする方法を尋ねられるけれど、あなたはどう思いますか?」
「はい、そうですね…」と私がどう答えようか思案しているうちに、道士は話を続けられます。
「開運というよりも前に、普段の生活の中でのことをきちっと押さえていき、そして健康に気を使い、身体を大切にしていく。やはりこれが基本だと思いますよ。
それが出来てから、こういうところに来て、神仏に手を合わすとか、商売をやっている者ならば、どうやったらもっと事業を大きく出来るかと考えていくものなのだよ。
もともと私たちの一派は腹気法という呼吸法を大事にしていたから、皆は長生きするし、大自然の気と一緒にあるから決して無理はせんのだよ。」
と言う話から始まります。
話し方がとても丁寧でした。
この道士は、20代後半です。若いけれど相当にできる人でした。
その後、いきなり山の中に連れて行かれることになったのです。
この写真の右側上の方の山のハゲたような所に、洞窟があるのです。
龍穴も見えています。
道士に連れられて登ったのは、武夷山の奥の三仰峯(サンヤンフォン)というところです。そこは、普通の観光客なら絶対に行かないところ、地元の人でも蛇が恐くて入って行かない山の奥で、下から歩いて2時間半ぐらいのところにあります。この武夷山も、最近開放開発され、蟻のように山を這うたくさんの人で賑わっていますが、昔は相当に辺鄙で、虎まで出たという話です 
武夷山の奥に入るには鷹嘴岩という鳥のくちばしに似た大きな岩の方から廻っていく道があり、こちらの方が比較的に楽なコースです。しかし鷹嘴岩の方は夏に入るのは、たくさん蛇がいるから無理で、桃源郷の桃源洞のほうから廻っていきます。
ここの地方は名産が蛇の酒漬けなんですね。
しかも、最上のものはコブラの酒漬けです
桃源洞からの道は坂が急で、ある場所なんかは両手両足を使って登らないと転がり落ちそうになるくらいに大変な所です。そんな道でも道士の先生はひょいひょいと息を切らさず走るように登って行きます。
・・・何か昔、子供のころにテレビで見た忍者・猿飛佐助の修業みたいな、そんな不思議な感じでしたね。
そして、急な坂道を抜けたかと思ったら、平らな道に出るんだけど、今度は深い草の中を歩くことになって、なんか草の中にいそうだな、と思ったらやはり黒い蛇が出てきたんですね。すると、道士の先生は右足を出そうとしたんだけど、さっと足を戻してうまく蛇を避けて、また、さっさと歩くんですね。私はというと、ちょっとビビッてしまいました。
どうしようかと思って立ち止まっていたら、急に暗い変な感じになって、冷たい空気が流れてくるんです。
ゾクッとして、ある方向を見ると牛ぐらいの大きさで猿のような猪のような、何かそんなのが10メートル先の方に見えちゃって、まぁ、本当に全身の毛が立つということがあるんですね。この時は、自分でもはっきりと体中の毛が立っているのがわかりましたね。さっきの蛇なんかはかわいいもんで、中国の山には、こういう物の怪がいるんだなぁ、と感心しましたね。
この時、私は蛇ににらまれたカエルの状態で、身体は硬くなって動かないし、あせっていると、道士の先生は、すぐに戻ってきてくれて、私を引張って行ってくれて何とか助かりました。あれは、この山に住む「山の精霊」だと説明してくれました。
しかし、妖怪とか、物の怪とかテレビや本では知っていましたが、まさか自分がそういうものを見るとは思ってもいなかったし、実際にそういう時は腰が抜けたように歩けなくなってしまうものなんですね。こういう目には二度と遇いたくないものです

その後に、道士の先生は「お前はこの山の精霊が見えるのか。
よろしい。では、お前に瞑想と山の呼吸法を教えよう。」と言ってある方法を授けて頂いたんだ。
まぁ、適当な物語りぽいようですが、本当の話です。
ただ今から30年も前の話ですね。
今からは、信じられませんが、こんな仙人みたいな人が未だ中国にはいました。
私は、人生の中で三回会ったことがあります。
次回に続く…