「日本には地域によって色々名物となる郷土料理があるな」
「ええ、そうね。代表的なのは品川区のフライドポテトかしら」
「……品川区っていうよりお前の家だけって気がするけど」
「そうかしら。どの品川区の家でもきっとフライドポテトは食べるはずよ。でもそんな事を言ったらフライドポテトは世界中の郷土料理と言っても言い過ぎではないわね。郷土料理ではなくて全土料理かしら。死んだ後だってずっと食べ続けたいから冥土料理とも言えるわ。となると他の料理の話なんて無視してジャガイモを栽培する土地についての話をするのが最も適切で有意義という雰囲気になってしまったわね。まず誰でも知っている基本的な情報からあえて説明するけれど、ジャガイモの栽培には酸性の土地が適していると言われていて……」
「ちょ、ちょっと待った!郷土料理じゃなくてジャガイモの話になってるぞ!」
「うるさいわね。全世界共通の郷土料理に欠かせない食材だからそれでも良いじゃないの。それなら板橋区の何だか名前の分からない得体の知れない日々の食べ物について話したいのかしら?」
「それってまさか僕の家の料理の事を言ってるんじゃないだろうな」
「あら、あなたにとって郷里の土地の料理じゃないの。何も間違った事は言っていないはずよ」
「いや、その土地にしか無いのにその土地では誰もが知ってて、場合によっては他の地域でも広く知られるようになった料理、ってのが郷土料理じゃないのか?僕の家の料理は別に板橋区全域で食べられてる料理ってわけじゃないしな」
「あらそう。あなたの家の土地に住んでいる人なら誰でも知っている料理ばかり食卓に出されているような気がするけれど、私の思い違いだったのかしら。意外とあなたのお母さんは料理のバリエーションが豊富だったのね」
「そりゃ僕の家の土地に住んでるのは僕の家族だけなんだから知ってるに決まってるじゃないか!」
「うるさいわね。あなたの家にあなたの家族だけが住んでいると思ったら大間違いよ。油断しているといつか屋根が抜けるわよ。危ない箇所があるから早く修理してちょうだい」
「……完全にストーカー目線になってるぞ……と、とにかく、僕が言いたいのはもうちょっと広い範囲というか……例えばさっきから言ってるように板橋区だけで食べられる料理とかさ」
「あらそう。それなら炊いたお米の事かしら?板橋区の水で炊いたご飯は板橋区でしか食べられないし、板橋区の人なら誰もが知っている料理よ」
「うーん、言葉って難しいな……どうやっても言いたい事が伝わらない気がしてきた」
「まぁ、言葉を料理する事を諦めてしまったのね。独自の言葉を放棄してしまって、残念ながら私達は何も郷土会話を持たない身になってしまったんじゃないかしら。一体どうなってしまうのかしらね。いつかこの場所も失って放任会話士や浪人会話士になるのか、それとも誰が言っているのか、何について言っているのか全く分からない無責任会話士になるのか、今までの会話を売って細々と生活をする商人会話士になるかもしれないわね」
「何を言ってるのか全く分からないぞ!既に無責任会話士とかいう状態になってる気がする」
「うるさいわね。それなら私に訊かずにあなたが郷土料理だと思う料理を言ってみれば良いじゃないの」
「え、うーん、そうだなぁ。大阪の串揚げとか、沖縄のサータアンダギーとか、長崎の……」
「品川のフライドポテトと同じね。揚げ物だもの」
「……長崎の皿うどんとか、讃岐のうどんとか、名古屋の……」
「品川のフライドポテトと同じね。細長いもの」
「……名古屋の味噌カツとか、秋田のきりたんぽとか、山梨の……」
「品川のフライドポテトと同じね。美味しいと思う人がいるもの」
「最後はちょっと苦しくなってたぞ!」
「うるさいわね。私の言いたい事に先回りして意地悪をしたあなたが悪いのよ。結局あなたが好きな郷土料理は何なのかしら?」
「さっき例に挙げたのは全部好きだぞ」
「あらそう。何とも気の多い性格なのね、いかがわしい。二度と私に近寄らないでちょうだい」
「お前にとってのフライドポテトみたいな感覚を求められても困るぞ!」
「読んで食事する前にまずクリックよ」
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