「最近パンダがレンタルされたってニュースで言ってたな」
「ええ、そうね。それがどうかしたのかしら」
「いや、年間のレンタル料が8000万とか言ってたぞ。それってスゴイ事だと思ってさ」
「あらそう。驚いた様子の言葉のわりには目が白黒していないけれどね。本当にパンダの話をしたいのかしら」
「パンダの話のたびに目が白黒してたら大変だと思うぞ。そもそも目が白黒する事なんて実際には起こらないし」
「うるさいわね。せっかく冗談を言ってあげているのにいちいち揚げ足を取らないでちょうだい。高速でカラーコンタクトを付け替え続ければ何とかなるわよ。もしくはあらかじめ何枚も重ねて装着して、高速で一枚ずつ外していけば何とかなるかもしれないわ。それとも実際にはただの鏡のようなものを装着して高速で前方から映写機で……」
「ちょっと待った!今は別に目を白黒させる方法について話したいんじゃなくて、パンダのレンタル料について話したいんだぞ」
「うるさいわね。まずは目が白黒するのかしないのか、ちゃんと白黒つけてから次に進むべきだと思うわ。こんな灰色決着では誰も納得しないわよ」
「分かったよ!お前の言う通りやれば白黒すると思うぞ!その代わりかなり目は痛くなるだろうけどな」
「まぁ、ずいぶんと投げやりな態度をするのね、腹立たしい。そんな白々しい態度で早く話題を終わらせようという腹黒さを発揮しているつもりかしら?でもそこまでのあくどさを見せるなら私も考えてあげても良いわよ。実は私も既に白黒の話題に飽きてしまったもの」
「あくまで話題を変えるのは僕のせいになるわけか……まぁ良いか。パンダのレンタル料が年間8000万円ってどう思う?」
「あら、白黒の話題はもう終わったはずだけれど。仕方ないわね。たくさんの来場者が来てレンタル料に見合った稼ぎが見込めるなら別に構わないんじゃないかしら」
「なるほど。でもパンダを無理やり別の場所に引っ越しさせてお金を稼ぐなんてパンダが可哀想、みたいな意見もあるみたいだけどな」
「あらそう。それならパンダが自分達の収入として稼げば納得するのかしら?もしパンダ達に8000万円が支払われても、お金をもらったパンダが困ってしまうと思うけれど」
「いや、そうじゃなくて、ずっと暮らしてた場所から人間の都合で移動させるのは可哀想、みたいな意味なんじゃないのかな?」
「あらそう。パンダの気持ちが分かるのかしらね。興味深いわ。世界中を旅行出来て、パンダとして生まれて良かったと思っているかもしれないわよ。しかも全身茶色の熊として生まれていたら人の近くにいるだけで撃ち殺されてしまうわ。色々な知識をつけてしまった人間は見失いつつあるけれど、本来全ての動物は衣食住と子孫を残せる環境が整っているのが最も重要で幸せな事なんじゃないかしら。人間が思っているよりも環境の変化に強いかもしれないわよ。それにもし他の生物を使ってお金を稼ぐのが悪になってしまうと、まず世界中のレストランが潰れてしまうわね。それ以前に漁師も酪農家も仕事を失ってしまうわ。そもそも動物や植物など、他の生命体を殺さなければ人類が全て餓死して終わりじゃないの」
「まぁ確かにそうだな。牛や豚や鳥は良いけどパンダや鯨はダメって考えからして差別主義と同じようなものか」
「ええ、そうね。でももうこの手の話題は話すだけ無駄よ。世界中の全ての人が独自の価値観を持っていて、他にどんな価値観の人がいるのかも充分理解しながら自分の信念を貫いているもの。要するに誰も聞く耳を持たない話題ね。それぞれが持つ白と黒の基準は永遠に交わらないのよ」
「なるほど。何となく感情論になってる人も多い気がするしな……とにかく近いうちにパンダを見に行ってみるか」
「あらそう。意外と研究熱心だったのね。今後の会話を盛り上げるためにも、せめて万人を惹き付けるコツでも探って欲しいわ。いつまで経っても酷いだけだもの」
「うっ、僕だって会話が盛り上がるように努力はしてるつもりなんだけど……そんなに酷いかな……」
「違うわよ。一人だけだもの、って言ったの。良かったわね。あなたに惹かれる独自の価値観を持った人が一人いて」
「一人だけなのか……でもお前がその一人で僕は幸せだよ」
「攻撃されて追い詰められると意外と面白い反応をする事に私だけが気付けたというわけね」
「わざわざ妙な補足をしなくて良いだろ!」
「あなた一人がクリックしてくれれば充分よ」
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