「将来的には人間の寿命ってどれくらいの長さになるんだろうな」
「さぁ、どうかしらね。永遠になるんじゃないかしら」
「え?それはまた……」
「引っぱたくわよ」
「何でだよ!何も言ってないぞ!」
「うるさいわね。【いくら僕にぞっこんで二人の関係まで永遠に続行させたいからって適当な答えを言うなんてずいぶん腑抜けたものだ。毒を抜かれた蛇なんて怖くも何ともない。ほとんど肉まんが置いてあるようなものだ】と思ったんでしょう?余計な脂肪なんてほとんどないのにどうして肉まん扱いをされなければならないのかしら、失礼な」
「シュール過ぎて言ってる意味が全く分からないぞ!またずいぶん極端な意見だな、って思っただけだ!」
「あらそう。温かい肉まんの心に免じて許してあげても良いわよ。それで今日は何の話なのかしら?ピザまんの存在くらいわけが分からないわ」
「まぁ全然ピザの生地じゃないからな。って、そうじゃなくて、人間の寿命はどれくらいまで長くなるものなのかと思ってさ。さっきは永遠とか、しっかり僕の質問を理解して答えてたような気がするんだけど……」
「さぁ、過去の事はどうでも良いじゃないの。まずは何をもって人間が死ぬ状態と定義付けるかが問題だと思うわ。何もかもが完全に停止した状態が死なのか、肉体の死なのか、もしくは脳の死なのか。今回のテーマと関係があるかどうかは分からないけれど、感情とか心の死というのも一つの死の概念として捉えても良いかもしれないわね」
「なるほど。それでお前はどれが人間の死だと思うんだ?」
「さぁ、どれも立派に生きているんじゃないかしら。例え何もかもが停止していても、肉体がちゃんと物体として存在しているんだからそれで充分価値があるのよ。肉まんと同じよ。それに引き換え私やあなたなんて……」
「ちょ、ちょっと待った!僕達だってちゃんと存在してるぞ!ほら」
「……ちょっと、ここぞとばかりに手を握ったりしないでちょうだい、いやらしいわね。しかも素早い動きで服を全部脱ぎ捨てたりして、何を考えているのかしら。中の餡が出てしまっているじゃないの」
「こら!ウソを言うなウソを!手を繋いだだけじゃないか!」
「うるさいわね。冗談よ。でも今ので分かるように、私達の存在を証明する上で言葉よりも大切なものは無いと思うわ。言った事がそのまま私達の住む現実の世界として認識されてしまうのよ。あなたがまた服を脱ぎ始めた理由は分からないけれど、私が言わなければあなたが裸かどうかも皆には分からないのよ。要するに私達の場合は脳が命みたいな認識で良いんじゃないかしらね」
「結論は良いとしても、途中の僕の状態の説明がほとんどウソだから混乱するな……最初に永遠って言ってたけど、脳が命だと定義すると永遠の命になるのか?」
「ええ、そうね。倫理観や死生観や宗教観、もちろん技術的な面でも障害は多いでしょうけれど、そのうち脳にコンピューターを埋め込む事は可能になるんじゃないかしら。最初は記憶力や思考力の補助としてね。そのうちその人の脳の運動パターンを計算して、感情や想像まで受け持つようになると思うわ。そうなれば肉体がなくてもその人の意識はずっと残って働き続ける事になるわね」
「ほとんどSFみたいな話だけど、将来的には可能なのかもしれないな」
「そうね。人間がそうなる事に否定的な気持ちを抱いているだけだと思うわ。本気で研究を進めれば意外と早く完成するかもしれないわよ」
「そうなったら世界はどうなるんだろうな。肉体は死んでもその人の思考パターンと記憶だけは生き続けるわけか。記憶の書き換えとか、電源を切ったりするのが殺人、って扱いになるのかな」
「さぁ、どうかしらね。でも都合の悪い記憶を消したりするのは簡単になるんじゃないかしら。愛情とか恋愛感情とか幸福感とか、そんなものも切り離して生きていけるわね。もう二度と体験したくないわ」
「こら!僕との記憶を全部捨てたがってるような言い方じゃないか!いくらなんでも酷いぞ!」
「違うわよ。もう一度体験してしまうわ、って言ったの。一度と言わず何度でも記憶を消してあなたへの想いが芽生える体験が出来て……って、何を言わせるのかしら、みっともない。あんな恥ずかしい体験をどうしてしなければならないのかしら」
「こ、こうして付き合った後でも充分新鮮なドキドキは続いてるけどな……」
「クリックは毎日新鮮な気持ちで体験してちょうだい」
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