カーネーションの女~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

桜の季節ですが、花とぼくの心が通じた思い出をお話ししましょう。

 

 

 一説によると、植物には人間と同じ心があるという。

 “大きくなれ!”と声をかけ続けて栽培した野菜は立派に育つとか、“可愛いね”と話しかけていると花がいつまでも枯れないということが証明されているそうだ。

 では、根のない切り花にも同じく心があるのだろうか?

 去年の五月、母の日を終えて売れ残っていた安いカーネーションを買って帰ったのは、それを試してみたいと思ったからだ。

 コップに生けたカーネーションに、“綺麗だね”“いつまでも咲いていてね”と朝晩話しかけてみた。

 驚いたことに、九月の半ばになってもそのカーネーションは一向にしおれたり枯れる気配がない。

 その夜も、晩飯を食べながらカーネーションに話しかけていると、トモコから電話があった。

 先週、遊びに行った沖縄で珍しいお酒を見つけたので明日の晩にでも持ってくるとのことだ。

 時間を決めて電話を切ろうとした時、不意に背後から声が響いた。

「ここは私の部屋よ」

 振り向くと、真っ赤なワンピース姿の女性が立っている。

 彼女には顔がなかった。

 

「部屋に顔のない女が入って来る夢を見てね、目を覚ました時は体中に汗をかいてた」

 トモコの持ってきた泡盛を飲みながら昨夜の話をする。

「疲れてるのよ。真ちゃん、暗示にかかりやすい方でしょう」

 彼女は冷静だ。

「そうかも知れない。植物には心があると聞いてから、この花にも毎日話しかけてるくらいだからな」

 コップのカーネーションを指さす。

「そのせいか、五月に買ってからいまだに枯れてないんだ」

 トモコは興味を持ったのかしばらく花を見つめていたが、いきなり茎に手をかけてコップから引き抜いた。

「このカーネーションは枯れたりしないわよ」

「……どうして?」

「だって、これ造花だもん」

「造花?」

「ええ、うちの会社で作ってるのよ。切り口が変色してるように見えるでしょう?わざとこんな色をつけて本物らしくしてあるのよ」

 トモコから手渡されたカーネーションをしげしげと見つめる。

 なるほど、本物にそっくりだが、作り物のようだ。

 ちょっとがっかりして花をコップに戻した。

 

 その夜、夢の中にまた顔のない女が出て来た。

 女は後ろ向きになり、何も言わずに一本道を歩いて行く。

 “この女は枯れたりしないわよ”“この女は造花だもん”とトモコの声が、何処からともなく聞こえる。

 女は寂しそうな背中を向けて去って行った。

 

 翌朝目を覚ますと、テーブルのコップの中で枯れるはずのないカーネーションが枯れていた。