おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。
皆様にご相談です。
実は、困ったものに憑かれてしまいました。
「そこの、あなた」
いきなり易者に呼び止められたのは、二週間で八回オーディションに落ちてくさくさしながら夜道を歩いていた時だった。
同時にメールが来て、九つ目のCMにも落ちたと連絡がはいった。
「何でしょう?」
「お主、大変なものが憑いておるぞ」
「大変なもの?」
「このところ試験や面接に落ち続けておるであろう」
「え、ええ、まあ……」
「さもありなん。お主には“おち神さま”が憑いておる」
「何です、それ?」
「元来は洗濯物や食器の汚れを落とす神さまだったのだが、洗濯機や皿洗い機が普及して出番が減ってきたので、人に取り憑いて試験などに落ちる働きをするようになったのじゃ」
「そんな迷惑な」
「ところで、家のトイレはシャワートイレか?」
「違いますけど……」
「それでおち神さまが寄って来たのであろう」
「関係あるんですか」
「おち神だけに、カミが落ちる所に来る」
何やらうさんくさい易者だったが、藁にもすがりたい心境のぼくはおち神を祓って貰うように頼んだ。
「相手は神さまなので除霊するというわけにはいかぬが、この依代の方に移っていただこう。今から三日以内に、このお札を天満宮に奉納せよ」
礼を言って、安くない料金を支払う。
翌日、早速天満宮にそれを持って行くと、
「みぶさん」
いきなり声をかけられた。
「あ、八福師匠」
噺家の桂八福師匠だ。
「みぶさんもこちらにお参りされるんですか。私も繁昌亭の後はいつも寄るんですよ」
「こちら、ご利益ありますか?」
「そらもう、杉花粉に檜の花粉を混ぜてブタクサの畑にばらまいたくらいの凄い効き目でっせ」
「もっとましな例えはできないんですか。ところで、この依り代のお札はどこへ奉納したらいいんですか」
「あ、お札持って来はったんですか。ほな私に貸しなはれ。こちらとは心易うしてますんで、ただで納めといてもらいますわ」
「ありがとうございます」
八福師匠に礼を言い、お参りだけしてその日は帰ることにした。
それから二週間後、師匠からメールが来た。
「この間のお札ですが、社務所へ持ち込んだところ“こんな強力なおち神は見たことない。とても、こちらでは預かれません”とのこと。しかたなく持ち帰ったのですが、以来、高座に上がると落ちの切れが良くなり毎回の大爆笑、仲間から“八福は一皮むけた”などと言われる始末。さすがおち神さまだけに、落語の落ちにも半端ない力を発揮するようです。神主さんによると、みぶさんにはまだまだ強力なおち神さまがいっぱい憑いていらっしゃるとのこと。効き目がなくなったら、また、貰いに行きますね。ほな」
確かにまだおち神さまは憑いているらしく、この二週間で十六個のオーディションに落ち続けている。
いい加減落ちるのにはうんざりだ。
ちなみに、この話に“落ち”はない。