恐怖の臨死体験~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

撮影中、本当にあった恐怖体験です。

 

 

 銃声と共に、ぼくの腹部から勢いよく血が吹き出す。

 トンネルの中をよろよろと壁伝いに歩きながらアスファルトの上に倒れる。

「先輩!」

 若い刑事が駆け寄って来た。

「しっかりしてください」

 抱き起こされてにっこり微笑み、ぼくは全身の力を抜いてこときれる演技をした。

「先輩!」

 刑事が慟哭した時、ぼくはそこにいなかった。

 中空から二人を見下ろしていたのだ。

 二人だけではない、撮影中のカメラマンも、モニターを見ているカメラマンも、マイクを抱えている音響係も、ぼくはトンネルの天井近くから見ていた。

 こ、これは話に聞く幽体離脱というやつだろうか。

 しかし、ぼくは実際に死んでるわけではない。

 アクションドラマのシーン撮影中、殉職する刑事を演じているだけなのだ。

 なんとか元の体にもどる方法はないのだろうか。

 ぼくは焦った。

 自身の下で展開するドラマを見下ろしているうちに、

 さらにぼくを焦らせる現象が目に入った。

 若手のイケメン俳優演じる後輩刑事にゆすぶられているぼくのズボンの前のチャックが開いているのだ。

 しかも、ゆすぶられる振動でそこからはみ出した白いワイシャツのすそがヒラヒラ動いている。

 ぼくはとにかく潜水で泳ぐ要領で空気をかいて体を沈め、自分の“死体”のファスナーに触れようとした。

 なんとか閉めようと試みたのだが、物質には触れることが出来ないらしい。

「カット!」

 声がかかった。

「何か白いモヤモヤしたものがカメラに映りこんでるので、もう一回お願いします」

 カメラマンの説明で、若手刑事が慟哭するところから再び撮影が始まる。

 どうやらぼくの幽体はカメラに反応するようだ。

 今度は監督のところへ行き、事態を伝えようとしてみた。

 残念ながら、撮影に集中している監督はぼくの存在に全く気づく様子はない。

 モニターを観てみると、幸いぼくの上半身と若手刑事の顔がアップになっていた。

 自分の下半身が映っていないことに少し安心しているとカットがかかる。「次、同じカットを引きで撮ります」

 今度は全体像を撮るわけだ。

 つまり二人の全身が映るわけで、仰向けに倒れているぼくのズボンは正面からしっかりカメラに入る。

 万事休すだ。

「時間がない。寄りのカットだけでいいだろう」

 監督の一声で決まり、

「じゃ、このカットOKです」

 の声と共にぼくの幽体は元の体に吸い込まれるように戻った。

「みぶさん、凄いです。本当に死体みたいでした」

 若手刑事役イケメン俳優くんの言葉を背中で聞きながら、ぼくはこっそりとファスナーをあげて胸を撫でおろした。