蒼介、和奏の腰に手を…。そして和奏を見て。
和奏も蒼介を見て、ふたり共に頷いて。
部屋の中で久我、椅子から立ち上がり和奏にお辞儀を…。和奏も久我にお辞儀を…。
そして久我の目の前の男性、隣の妻の左腕を…。
その時蒼介、
「あっ、そのままで…。はい。」
和奏、女性の顔を見て、目を凝視する。頭の中で、
「…この人が…。」
髪は肩に掛けてのロングヘア。端正な顔立ち。
しかも、スーツを着れば、多分和奏とも張り合えるような…。
姿勢はキリッとしている。崩れている仕草は全く見受けられない。
ただ、その表情以外は…。目鼻立ちは整い、まるでドラマに出てくる女優の如く。
残念なことに、目だけは暗く、寂しそうな目で、焦点が合っていない。
和奏、
「あの、久我さん。こちら、彼女、自分で名前は…???」
その声に久我、申し訳ないような声で、そして首を振り、
「申し訳ない。」
そして久我、
「残念ながら、お二方、こちらに来られて、奥様の方は…、私らも、まだ、吃音程度しか、聞いてないんですよ。」
その声に和奏、
「…吃音って…。まさか…、そんな…???」
久我、徐に頭を下げて、
「えぇ…。…ただ、何かの切っ掛け…、と言うか、思い出したのか…、分かりませんが、時折、大声を発すると、こちらの…、吉武さんが…。」
和奏、
「よし…たけ…さん。」
久我、
「吉武優也さん。旦那さんと、奥さんの美波さん。」
目の前の女性を見ているのかどうなのか、時折顔をわずかに左右に動かす程度の美波。
和奏、
「お子さんの方は…???」
その声にも久我、首を振る。
優也、頭を抱えながら、
「逆に、子供の方が、母親を怖がる始末。」
和奏、問い続ける。
「お子さんの方は…、今…、何歳…???」
優也、顔を上げて…、けれども視線は下を向いたままで、
「5歳の息子と、3歳の娘。」
その声に蒼介、
「あ~~。」
和奏、いきなり口に手を、
「えっ…???…そんな…。」
蒼介、
「責任能力…どころか…。」
和奏、
「子供たち…。どっちも…、トラウマ…。」
久我、重い口が…、
「えぇ…。我々も、奥さんの責任能力もそうなんですけど…、一番が、子供たちの…、これから…。今回のこの事で、子供たちにとっては、かなりの衝撃。トラウマにも成り兼ねないと…。」
和奏、左手で左耳に手を当て、そのまま髪を梳きながら首に…。
「ん~~~。」
小さな声で、
「蒼介~~。」
首を振る。
蒼介、そんな和奏に首をコクリ。
和奏、久我に、
「久我さん、お二方、こちらには、まだ…。」
久我、
「えぇ~~。結果が出ない事には…。とにかく。はい。こちらの方で…。まだ、今後考えられる様々な手続きが、全く前に進まない状況で…。」
和奏、
「分かりました。」
けれども、
「…でも、この件、もしかしたら、私たち夫婦だけでは…。」
その声に蒼介、和奏を見て、
「和奏さん。」
「えぇ。理沙にも、話さないと。後で、後々後悔することになると思う。」
そして、
「何かしら、あの子、こういう事に関しては敏感だから…。しかも、負けず嫌いとなると、事実を話しておかないと…。」
蒼介、
「うん。」
「じゃないと、逆に私たちの方が悪者になっちゃう。」
久我、
「娘さん、頑張ってますよね~~。今じゃ車椅子バスケ。」
その声に和奏、
「お蔭様で…。」
そして和奏、
「では、私たちは…。」
椅子から立ち上がる和奏。そして蒼介も立ち上がり、久我に手でお辞儀を。
久我、
「すみません、ご足労を…。」
優也も椅子から立ち上がり、妻の肩に手を。
女性はそんな夫たる男性に顔を見上げるような…。
和奏、ドアに向かいながら、
「失礼します。」
廊下に出て、そこで久我はふたりにお辞儀を…。
南はそのままふたりに…。そして警察の玄関で…。
蒼介、南に、
「南さん、ありがと。うん。ここでいいよ。」
南、蒼介に、
「ご苦労様でした。また。」
和奏も、
「わざわざありがとうね。」
そしてふたり、共に…。
和奏、
「あ~~ん、理沙~~。」
蒼介、
「参った~~。」
けれども蒼介、
「…でも、今の段階では…、とにかく、事故は事故。そして被害者と加害者。」
和奏もその声に、
「だよね~~。…でも…、なんかね~~。状況が、状況…。」
信じて…良かった。 vol.131. 「5歳の息子と、3歳の娘。」
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