会話
とりあえず、何か話さなくては。
そう思えば思うほど、言葉を見つけらない。
「お前なんか喋れよー」
大島くんが、谷くんの肩を軽く小突く。
「なんかって・・・」
困ったように、彼は目を泳がせた。
「ね、名前なんていうんだっけ?」
大島くんはにっこり笑いながら、あたしに問いかけてきた。
「あ、実優・・・です。」
「実優ちゃんか。今日はねー何でも質問があれば聞いちゃっていいからね。
この際だからどんどん聞いちゃおっか。なーんでも答えるよ、谷くんが」
「俺かよ」
「俺の話し聞いてもしょうがないだろー」
話の弾まない、あたしと谷くんに見かねたのか
大島くんが明るくフォローしてくれ、マイちゃんもそれに乗っかってきた。
「ほら、何座ですか?とか聞いちゃえ~」
2人に持ち上げられる形で、少しずつだけど会話が広がってゆく。
誕生日や血液型、家族構成、好きなアーティスト、食べ物。嫌いなもの。
初めはポツリポツリと喋っていた彼も、たまに笑顔を見せるようになり
あたしはかなり舞い上がってしまっていた。
それでも彼の表情はどこか冷静で、隙がない感じにも見えた。
・・そんな表情に、ついつい重ねて描いてしまうひとりの人を、
あたしは無意識に、頭の中から振るい落とした。
最初は心地よかった暖房も、緊張で顔を真っ赤にさせているあたしにとって、
こんなに邪魔なものはなかった。
これでもか、というくらいに顔の赤みは引く気配もなかった。
時間は刻々と過ぎ、外はすっかり冬の夜の顔をしていた。
大島くんの計らいで、谷くんの携帯番号も聞くことができた。
「今度遊びなよ、電話でもしてさ。また4人で会ってもいいし、2人でもいいし」
「ぜってー会話ないって」
軽く笑いながら谷くんが答える。
「でも、遊びたいよね。実優ちゃん、また谷くんに会いたいでしょ?」
「あ、うん・・・」
「じゃあ、またみんなで遊ぼうね」
最後まで優しくフォローしてくれる大島くんに感謝しつつ、
マイちゃんとの仲が進展するように と、心の中で強く祈った。
確かに、今日は楽しかった。
ドキドキしたし、もっと色々話したいと思った。
ただ、それが恋愛感情なのかはわからない。
実際、谷くんにはそんな気がないのだろう。
何枚もの破れなさそうな壁を感じた。
――その壁を、あたしは壊すことができる?
まだ火照りの消えない頬を、冬の冷たい風が心地よく撫で 通り過ぎていった。