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綾は ふと 電車に1人で乗るのって 久しぶりだな と気づき 胸が躍った。
さっきまで一緒にいた 夫の雄太と 娘のあゆが 恋しいが それでも浮き足だった。
3歳になったばかりのあゆは 駅から夫と歩いてるのだろうか?
ママがいないと 泣いてないだろうか? 夫は あゆをトイレに連れて行けるのだろうか?
そんなことを考えながら 綾はふと 車窓に映る自分を眺めた。
すっかり夕闇に包まれた家々は ぬくもりのある家庭の象徴のように 電気が灯っている。
年末の電車の中は 遅めの通勤客が作り出す 就労後の倦怠感が漂っていた。
その中で ジーンズにダウンコート姿の綾が 浮いていることは 明らかだった。
夫と娘という 自分のシンボルがいない状況。
ただの一人の女として 電車に乗っている自分自身を 車窓で観察した。
伸ばした髪を 茶色のゴムで止めているだけの ぼさぼさ頭。
あゆの肌に触れる という理由から化粧しなくなり まったくのすっぴん。
動きやすいように と履き始めた ジーンズ。
荷物が多くなったからと 肩掛け鞄に変え 両手が使えるようになっている。
空けたままのピアスの穴。
綺麗に切り揃えた 無色の爪。
ハンカチより タオル。
ヒールのある靴より ぺたんこ靴。
・・・・・・・・ 機能的? それで いいんだっけ??
妻であるより 母である自分を 誇らしく思うからこれでいいと 思ってたのに
どうして こんなに惨めな気持ちになるのだろう・・・
あゆがいないことで 母である証明がなくなり 心許ない感覚に陥った。
左手の結婚指輪を そっと回してみたが なんのおまじないにもならなかった。
買い物を終え 帰宅寸前に うっかり売り場に忘れ物をしていることに 気がついた。
すでに 駅の構内にいたので 夫と娘と別れて 一人で取りに戻った綾は
ちょっとした開放感に 酔っていたはずだった。
孤独より幸せ。 自由より束縛。
そんな日常の ちょっとした開放感を 噛み締めるつもりが 思いがけず
みすぼらしい自分の姿を 映し出された 社会の鏡という 車窓。
逃げるように帰宅し 4年ぶりに 化粧ポーチを出してみた。
鏡の前で 化粧をし 髪をセットし 表情を作って 笑ってみる。
子供をあやす笑い方になることが 幸せなのに 落ちぶれたような気になった。
あゆを寝かしつけた夫が 綾を見て 驚きながら
『懐かしい顔だねー』 と笑った。
『さっき なんだか 惨めになったの。』 顔のない世間に辱められた感覚を語ると
『かみさんが綺麗でいたら 夫としても 誇らしいよ。』
久しぶりに 子供のことでない会話をしたね と2人で微笑みあった。
雄太を見送る前に化粧することを 一日の習慣に取り入れ始めたので
あゆの朝ごはんは 雄太の仕事になった。
ほんの 10分の女時間が 夫の心を1日男にする。
ほんの 10分の化粧時間が 綾の心を妻にする。
日曜日には 美容院にも行ってみたい と思うようになった綾の心は
あゆの成長と共に 女へと立ち返り始めていた。
読んでいただいてありがとうございます。
押してください 笑 小説ジャンルに登録始めましたーー。
これ ちょっと実話 笑
自分の経験から書きましたーー
こんなこと感じる母って ワタシだけかね?? 笑