実務法曹というのは、「法律家」というよりも、「事実認定家」ないしは「見極め士(みきわめし*私の造語です)」みたいなところがあります。
修習生の頃、検察教官から「法律というのは官僚とかの方がよっぽど詳しい。だけど、実務法曹というのは、事実を認定する能力が大事なんだ」というようなことを教えられたと思います。ところが、弁護士になりたての頃、騙されてしまいました。「依頼者」にすっかり騙され、利用されそうになったのです。今となっては、いい経験だったと言いたいところですが、「世間の風は厳しい」と思ったものです。最後は、警察署の前で、「辞任」でした、やれやれ。
実際、多くの事件というのは、そこが問題となっていることがほとんどです。つまり、「実際、何があったか」ということ。
「そんなの法律家の仕事なの?」と思うかもしれません。だって、どなたにとっても、「実際、何があったか」は日々大事でしょうからね。しかしながら、「もめ事」というのは、そういうところから始まります。
「不貞関係はあったか否か」「その人が人を殺したか否か」「お金を借りたか否か」「本当に遺言は本人が書いたのか否か」などなど・・・。
法律の条文を当てはめるか否か以前に、「実際、何があったか」を見極めなければなりません。もめるのは、そこです。
「いや、会っていたけど、不貞はない」とか、「俺は、人殺しの現場にいなかった」とか「お金は貰ったんだ」とか「遺言を書いた時は判断能力はなかった」とか・・。
形に残っている「文書」「メール」「写真」それから、目撃したという人の証言、などから、「実際、何があったか」を判断しなければなりません。もしくは「実際、何があったかはわからない」が結論かもしれません。
「実際、何があったか」の証拠が完璧に揃うことはむしろマレです。たいていは、何かが欠けているのです。その欠けた証拠状況から何を導けるか、というのが、大事な見極めであり、そして、それを説得的に展開できるかが実務法曹の腕、ということになるでしょう。
そのためには、人から話を聞き出すテクニックも重要です。聞き出した内容の「確度」の認定も、もちろん大事。「目撃証人」のはずが、よく訊くと、その人の居た場所からは、肝心の場面は見えない、なんてことも結構ある話です。
日々の生活での「言った、言わない」から、政治的かつ歴史的な領土問題まで、「実際、何があったか」を見極めるのは大事であり、責任重大です。しかし、その力を磨くことは出来ます。「伝聞証拠」は鵜呑みしないとか、「証人」の話が、時を減るにつれ変遷していないか等々。そういう事実認定法則、みたいなものを適用して事実を見極めるのです。
これが・・・なかなか大変。そして、それを伝えるのも一苦労。日々、鍛錬し、事実を的確に見極めるようになりたいと思います。
