無罪の誇り | 御苑のベンゴシ 森川文人のブログ

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 電車の時間を見誤り、遅刻しそうになり、珍しく駅からタクシーを利用してさいたま地裁の法廷に駆け込みました。ホッとする間もなく、書記官が裁判官を呼び出し、判決言い渡しです。「被告人は証言台の前に立って下さい」
 傍聴席には、被告人の兄、妻、そして、被害者の少年の母親、さらに、捜査に関わった多数の警察官ら、そして、裁判の動向を見守る被告人の会社の人事部の人らが固唾をのんで見守ります。

 「主文 被告人は無罪。」

 昨日、さいたま地裁第5刑事部で、自動車運転過失傷害及び道路交通法違反事件(いわゆる「ひき逃げ事件」)の無罪判決を獲得しました。昨年6月7日の事件で、逮捕は昨年11月24日、保釈で12月25日で釈放されましたが、裁判はその後、本年11月20日まで続きました。
 被告人の方はサラリーマンであり、保釈になっても勤め先からは休職扱いです。幼い子どももいるのに・・・それはそれは大変な苦労です。

 詳しい内容は、判決書が手に入ってから書きたいと思います(刑事事件の場合は判決言い渡しの時点では「下書き」しか出来ていないのが通例です)が、ともかく、全事件中1000分の1の確率の無罪を獲得できたことは弁護人冥利につきます。被告人と法廷でしっかり握手をしました。

 もちろん、検察官に控訴される可能性があり、全く油断出来ません。実際、裁判官が1時間弱に渡り告げた判決の理由もギリギリに悩み抜かれたギリギリの疑わしきは罰せずの中での無罪判断でした。起訴された刑事事件の難しさが凝縮した中での得難い勝利です。

 ともかく、いったん起訴され公判に持ち込まれた刑事事件で無罪を取るのは至難のワザであり、今回の無罪を大変誇りに思います。

 これまで、弁護人として無罪を三件(威力業務妨害、強姦、貸金業法違反幇助)を言い渡された経験はありますが、いずれも、当日の法廷で無罪を確信していたことはありません。上記のような確率では、到底確信出来ませんし、実刑が言い渡される可能性もありますので、昨日も再保釈請求の準備をしていました(かつて保釈中の被告人に実刑判決が言い渡されたこともありますので)。そもそも、無罪を争う事件の弁護人となること自体、稀であり、かつ、その上で、もちろん玉砕の数々も経験してきました。

 今回は弁護人は自分一人で、逮捕・勾留時の黙秘を貫いてもらう為の接見から、昨年のクリスマスイブの保釈獲得、そして、かなり原則的に闘った期日間整理手続き、警察官証人を弾劾しまくった尋問、力を入れた弁論などと弁護人としてやり切った感はありました。

 もちろん、こうすればよかった、ここはこうすべきだったというところはありました。ちなみに、判決ではそういう「弱い」ところは裁判所にはすべて見抜かれていました。

 やはり、刑事弁護は、本質的に権力闘争であり、検察官及び裁判官との徹底的な闘いでのみ勝利が獲得出来るものだと思います。「わかってもらえるだろう」「こうすれば裁判所は判断しやすいだろう」ではなくて、嫌われるくらい原則的にしつこく押し込んで押し込んで、やっと勝つのです。

 先日も、別件の公安事件の勾留理由開示公判という裁判の場面では厳しく裁判官を糾弾し「弁護人、口をつつしみなさい」と指摘を受けても「裁判官、あなたが間違っている」と食い下がっていたら、あやうく退廷命令を受けるところでした。

 先輩弁護士が指摘していましたが、裁判官から深い、本当の意味での弁護人への尊敬を獲得するためには徹底的に闘わなければダメだ、ということだと実感します。

 控訴はあり得るので、油断はできません。しかし、被告人と共に、捜査刑事らの前で裁判所から無罪をもぎ取ったという「結果」をまずは誇りとしたいと思います。