むかしむかし、あるところに
何にでも醤油をかける女がいた。
この女は、子どもの時から
食べ物には、醤油をかけて食べるものだと思っていたので
何にでも醤油をかけて食べていた。
また、そんな自分のことを
おかしいと思うこともなく生きてきた。
なぜなら、彼女の父も母も
食べ物に醤油をかけて食べる人だったからである。
ところがある日、
彼女は体調を崩してしまう。
彼女はおかしい、と思った。
なぜ、私は体調を崩したのだろう？
私は、いつもと同じように生活していただけなのに、なんで？？
体調を崩した理由が分からない彼女は、友だちに聞いてみることにした。
すると、友だちは口を揃えて、こう言うのだった。
「食べ物に醤油をかけすぎているからだよ」
彼女はムッとして、
そんなことはない！ …と言い張った。
私にとって、食べ物に醤油をかけて食べるのは、普通なのよ。
私の家族も、みんな同じように
食べ物に醤油をかけて、食べているのよ。
私が、おかしいはずがない！
しばらくすると、体調が良くなってきたような気がするので
彼女は、気にしないことにした。
少しガマンをすれば、どうということのないものだ、と信じていた。
ところが、それからしばらく経って
彼女はまた倒れてしまったのだった。
またもや、倒れてしまった理由が分からない。
友だちに聞いてみると、やっぱり友だちは口を揃えて
「醤油をかけすぎているからだよ」
と言う。
もしかしたら、そうなのかも…と思った彼女は
この時はじめて、自分や家族の生活習慣を疑ってみたのだった。
すると、もしかしたら
私の生活習慣は、おかしかったのかも知れない…と思い始めるようになった。
しかし彼女は、食べ物に醤油をかけないで食べる、という食べ方があるということを知らなかった。
自分は小さい時から、何にでも醤油をかけて食べてきた。
目玉焼きにも醤油、お刺身にも醤油、ハンバーグにも醤油、カレーにも醤油、甘いケーキにも醤油、真っ白いご飯の上にも醤油、お味噌汁にも醤油
醤油、醤油、醤油…。
醤油をかけないと、食べた気にならない。
彼女は、また食べ物の上に醤油をかけて、食べるのだった。
そのうち、彼女にも彼氏ができた。
顔はイケメン、というほどではないけれど、そこそこ良く
なにより性格が穏やかで、優しくて、
彼女は、自分に持っていないモノを持っている、彼の性格に惹かれたのだった。
ある時、彼が彼女に言った。
「もう、何にでも醤油をかけるのは、やめようよ」
「素材そのものの味を、ゆっくりと味わおうよ」
「たまには甘いものも、食べてみようよ」
しかし彼女には、分からなかった。
素材そのものの味って何？
甘いって何？
私そんなの、分からない…
今まで醤油をかけないで、食べ物の味をあじわったことのない彼女には
彼が言うことの意味が、分からなかったのだ。
それどころか、彼に自分のことを馬鹿にされた、と感じた彼女は
強い剣幕で言い放つのだった。
食べ物には、醤油をかけて食べるのが、普通なのよ！
なによ、あなた達ばかり、私を悪者にして！
あなた達の方が、間違っているんだからね！
さんざん喧嘩したあと、彼氏と別れた彼女は
どうして好きだったのに、あんなことを言ってしまったのだろう？
どうして自分は、醤油をかけることを止められないんだろう？
何度も後悔して、泣いたのだった。
開幕から長々と、すいません。
ここまでが、心屋流・何にでも醤油をかける女理論 です。
せいかくには、心屋仁之助さんがブログに書いていた
〝何にでも醤油をかける女理論〟を
夏河が勝手に、自己流にアレンジしたものです。
原作が気になる方は、仁さんのブログを探してみてください
この物語の中では、主人公の女の人が
何にでも醤油をかけてしまうので
そのせいで体を悪くしたり、
せっかくできた彼とケンカしたりしてしまいます。
だけど彼女は、自分の癖をなかなか直せない。
習慣が染みついてしまってるんですね。
読んでいて、もどかしいと感じると思います。
〝醤油〟というのは、もちろん例えです。
〝醤油〟は〝刺激〟と置き換えてもいいかも知れません。
小さい頃から、刺激を受けることが習慣になっていると
それが元で体調を崩したとしても、なかなか止められないし
気づきません。
それどころか
刺激が邪魔をして、本来、日常の中に感じるはずの
小さな幸せや、甘い幸せを
感じることができなくなってしまいます。
強い刺激を感じて、生きることが当たり前の人にとっては
何もしなくても、ただそこにいるだけで感じるような、当たり前の幸せや
何もしなくても、甘やかしてもらえるような幸せも、あるということが
分からない。
だから、今まで続けてきた習慣を止めるということに対して、抵抗があったりするんだよね。
刺激というのは、快楽のことばかりではありません。
憎しみ、苦しみ、悲しみ、怒り
人を信じられない時の緊張感や、警戒心
も
刺激です。
幼いころから、これらの刺激にまみれて生活をしていると
刺激を感じて生きることが、当たり前になります。
そして、大人になってからも
つい
同じような刺激を、求めて生活してしまいます。
そして〝幸せ〟とは正反対の方向に行ってしまう訳です。
幸せになりたいならば、
ここに気がつかないといけない訳です。
幸せというのは、例えて言うと
淡い味です。
淡いけれど、色んな味があります。
たくさん種類があります。
そして、そのたくさんある中から、けっこう選び放題だったりします。
また、幸せを得ることに、条件がいりません。
幸せって、そんな感じのものです。
もし、刺激に疲れている方がいましたら
そんな世界もあるんだなーと、思っていてください。
ふと、何かの折ひらめいて
気づく時があるかもしれません。
私たちは、気づくと変われます。
気づくことが、始まりです。
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