親子丼を脇目も振らず食べ終えると、ヒトミがお茶を煎れてくれていた



この後どれだけアルコールを飲むにしても
食事、特に和食のアトは日本茶


このオカマはホントによくわかっている



「うん、最高だった
卵もいい卵を使ってるな」


オレは口中の脂が、玉露で後口良く洗い流されるのを感じながら言った



「明日は卵焼き作ってあげるわよ」



「オレ、今日は泊まって行こうかな」



「とうとう決心したわね」



…何を?…




…まあ、ヒトミとはいつもこんな調子だ


「ジンちゃん、お酒は?」



「最高のトリュフチョコがあるんだろ?」



「今まで作った中じゃベストスリーに入るわね」



「じゃあ、グレンフィディックをトゥワイスアップで」



「OK♪」



ヒトミが片目を瞑ってみせる



…いや…それはやらなくていいぞ オッサン…




グレンフィディックは、世界中でイチバン売れているシングルモルトウイスキーで
ライトで後口も軽やかな飲み口には、チョコレートやケーキなどのスイーツがよく合うのだ



ストレートやロックで飲むのも悪くはないが

オレはウイスキーと水を1:1で割り、氷を入れないトゥワイスアップで飲るのが気に入っている



(この章続く)


「はい お待たせ」



蓋をした丼と刻んだ三つ葉を入れた小皿がカウンターに置かれた



「蓋を取るのは、〆張鶴をもう一杯飲んでから
三つ葉は後入れね」



ヒトミは、こういう小さな心配りが味を変えるコトを知っている



2杯目の〆張鶴に唇を付ける



今度は口中に酒を含み、息を鼻に抜くようにして芳香を楽しみながら
ゆっくりと味わう



酒が五臓六腑に染み渡り食欲が猛然と湧いてくる




丼の蓋を取ると、卵と鶏肉の甘い香りが鼻腔をくすぐる



三つ葉を入れると、そこに爽やかな涼味が加わり
美味のハーモニーが奏でられる



四方柾目、吉野杉の木箸でかき込むように食べる



美味いモノは喉で味わう



ガツガツと食べるコトで、より美味く感じる食べ物もあるのだ


(この章続く)


備前焼の酒器に注がれた〆張り鶴を飲み干し目を閉じる




胃の奥のシコリがゆっくりと溶けていく



至福のひと時




目を開けるとヒトミが微笑みながら、オレを見ていた




……ま いいか




「ホント美味しそうに飲むわね」



「美味い酒に美味い料理
人生における快楽の半分はこの店で手に入るな」




「お望みなら残りの半分も手に入るわよ」




…おいおいオッサン




「同じ半分でも、オレは反対側の方だよ」



「コッチ側に来るのを気長に待ってるわ」



「その時はヒトミにオレの師匠を務めてもらうよ」



「まあ!オカマ喜ばせてナニ企んでるの?」




男だろうがオンナだろうが、オカマだろうが


気の合う友人というのは人生の財産だ




人間の中身は外見や性的嗜好とは関係ない



こんな当たり前のコトをヒトミは再認識させてくれる



この40手前のオカマは、オレの数少ない大切な友人なのだ



(この章続く)