「あのぉ、ジンさんですか?」



その声は


可愛いというより美しい、と形容されるコトが多いだろうと思われる容姿とはそぐわない、少し舌足らずで幼い調子だった




「ああ、ジンはオレだが」



先程まで自分をガン見していた男が、訊ねて来た当人だと知って、どう思うだろうか?

などと、下らないコトを一瞬考えたが、まさか別人ですとも言えない



彼女はオレが名乗っても、特に表情を変えるコトはなかった



ま コレだけのルックスなのだ

男の視線には慣れているのだろう



「わたし、竹宮ナオといいます、ジンさんにお願いしたいコトがあって来ました」


(この章続く)


オレは、口の中いっぱいに広がっているトリュフチョコの高貴な甘さを堪能しながら、ヒトミが促す方へと視線を移した




その瞬間




オレの知覚神経の大半が、それまでの味覚から視覚へと一斉に移動した





フツーに言えばそこに立っている女に目を奪われた




場所柄、クラブやラウンジといったミズショーのコや風俗嬢は毎日見かけるし、その中には目を見張る程の綺麗なコも決して少なくはない




しかし



今、オレの目の前に立っているコは明らかにレベルが違っていた




立ち姿が絵になっているのだ



身長はヒール分を差し引くと165くらい

小顔のせいか体全体のバランスがいい



明るい茶色の巻き髪が肩にフワリと流れている



目は大きいのだが、目尻がキリっと切れ上がり、知性と意志の強さが感じとれる




カタチよく整えられた眉は柳眉というに相応しい


スッと通った鼻筋は、綺麗な顔に品をもたらし、少し厚めの唇が目鼻の涼しげな感じとは逆に、何とも形容し難い艶っぽさを醸し出している



程良く、体のラインが浮き出るニットのワンピースからは、ナイスバディというよりも
グッドバランスと形容するのがしっくりする肢体が想像出来る



膝上10㎝からスラリと伸びた脚は、すれ違う男の視線を必ず惹きつけるだろう



素晴らしいカタチの良さだ




たっぷり10秒間はその女を、上から下まで眺めていたに違いない



完全にエロオヤジの視線だっただろう



ヒトミの咳払いで我に帰り、慌ててトリュフチョコを呑み込んでむせかえり、グレンフィディックをひと息にあおりまたむせかえる



ヒトミのククッと笑う声が聞こえる


このヤロー


ずっとオレを見てたに違いない



ヒトミの方をひと睨みして、改めて女へと向き直る



先に口を開いたのは彼女の方だった



(この章続く)


玉露の湯呑みが片付けられ、デザートグラスに盛られたトリュフチョコとグレンフィディックのトゥワイスアップ、チェイサーグラスが手際良くカウンターに並べられる



チェイサーグラスのミネラルウォーターで口内をニュートラルに戻した後


グレンフィディックを一口



独特のフルーティーな香りをゆっくりと味わう



そして、ヒトミ自慢のトリュフチョコをひとつ口に入れる




……… ………



その瞬間





浮き世の憂さは全て飛んで行った




ヒトミが今までのベストスリーに入る、と言うだけのコトはある



軽やかな甘さが幾重にも広がって、味らいを心地良く刺激する




ここでまたグレンフィディックを一口



グレンフィディックの豊潤な味わいが、トリュフチョコにより一層引き立つ




「……ちゃん」



「……ちゃん!!」




トリュフチョコとグレンフィディックの華麗な共演にすっかり心を奪われていたオレは、ヒトミがオレの名前を呼んでいるのにも全く気づかず、味覚がもたらす快感に陶酔していた



ヒトミの何度目かの呼び掛けに




「…ん?」



口中で艶やかに溶けていくトリュフチョコを舌先で探りながら、ヒトミの方へ視線を向ける




「来たわよ、ファンの女の子が」



(この章続く)