1階に大手チェーンのキャバクラ

2階から上はスナックやラウンジ
なんだかわからない怪しげな会社の事務所などが無秩序に入っている雑居ビル

『ポルコロッソ』は、そのビルの5階にある




イタリア風の店名だがイタメシ屋ではない


イタリアワインやパスタの類いもあるけれど
日によっては、刺身も出せば日本酒もある



見事に無国籍なダイニングバーなのだ



一度、店名の由来をヒトミに聞いたら

「憧れの人の名前よ」


と言って笑ってた



看板はなくフツーの鉄製のドアに、エアスプレーのシュールなデザイン文字で

『ポルコロッソ』

と書いてある





結構重たいドアを開けると



「いらっしゃいませ~」



いつものように、ヒトミのハスキーヴォイス




「あら~ジンちゃん~いらっしゃい
本当に30分で着たわね」




カウンターとテーブル席2つの小さなハコだ



客はまだ誰もいない


ほとんどが常連なので、早い時間は暇な日が多いらしい




「オレのファンだ、という美人は?」




「ファンだかどうかはわからないけど
まだ来てないわよ」



ヒトミはオレの前にコースターを置きながら笑う



「何か食べる?」




「ああ、頼むよ」




「今日は宮崎から地鶏のいいのが入ってきたの
親子丼なんてどう?」



「いいねえ~三つ葉はあるかい?」



「もちろん♪」




ダイニングバーで親子丼?



これがこの店の融通無碍なところだ



「食前酒は新潟の〆張鶴の純米吟醸をぬる燗でどう?」




「ますますいいねえ~」




日本酒の純米や純米吟醸に燗つけなどトンデモないっ!



と、眉をひそめる人もいるが
美味い酒はどう飲んでも美味いのだ




〆張鶴の純米吟醸のように淡麗で飲み口の軽い酒を、湯煎でぬる燗にすると

少し温めるコトにより、華やかな吟醸香が一層引き立ち
食前酒にも最適になる




お試しあれ



(この章続く)


ホールを出て、パーラメントに火をつける



3月下旬の風は冬の刃が影を潜め、夜でも春の柔らかさが感じられる




この街



地方の政令指定都市の中心にある歓楽街


パチンコ店やゲーセン、スナックにキャバクラ、ヘルスにソープ…etc


ありとあらゆる風俗店がひしめく街だ


公営ギャンブルも、電車で20分足らずの距離に競馬場と競艇場


そして…非合法な賭博をやるハコもいくつかある



この街は人の世俗な欲望に極めて寛容だ



もちろん



相応の代償は払わなければならないが




この街でクスブリ始めて
4年



クスブリ



それは



真っ当なカタギでも稼業人でもない



中途半端なグレーなアソビ人



何かをやるワケでも


出来るワケでもなく



消える前の煙のようにブスブスとクスブっているヤツ…



クスブリのギャンブラー



それがオレ





オレはこの街の猥雑な匂いが気に入っている



いずれこの街に呑み込まれてしまう日が来るとしても



それはそれでいい



明日のコトを考えるなら



クスブリのギャンブラーなんてやってない



(この章終わり)


コーヒーを飲み干して、レストスペースのソファーから立ち上がる


シマへ戻る途中、歩きながらざっと台の釘を流し見ていく



…非道い釘ばかりだ



仕事を終えたリーマンやOL達、大学生?

この時間まで打ってて家庭は大丈夫なのか?
と、コッチが心配になるような主婦?まで



この時間、この店の台稼働率は80%を超えている


1日中打っても、期待値マイナスが一目瞭然の非道い釘に、夜の8時を超えた時間から惜しげもなく『現金』を注ぎ込む……



プロからすれば有り得ない愚行…



…いやダメダメ



パチンコ店の経営は、フツーの客が支えている



だからこそオレみたいなのが、その隙間でシノいで行ける



一瞬、脳裏によぎった甘ちゃんな考えをアタマを振って追い払い
自分の台に着いたオレは、台上のコールボタンを押す



顔馴染みの店員がやって来た



「ジンさん、今日は早い終わりですね」


いつも閉店間際まで打つオレのスタイルを知っているその店員は、ハコを台車に乗せながら話しかけてくる



「早めに飲りたくなってね」



「これだけ出せば豪遊スね」



「いや、今日は全部貯玉で頼むよ」



「え!?全部ですか?」



店員が台車を押す手を止めて聞いてくる



「ああ、全部だ」



仕事量を超えた出玉を換金しても、それは一時預かり金のようなものでいずれ打ち込む羽目になる



この店は貯玉再プレーの手数料が無料の上、個数制限無しのハウスルール


利用しない手はない



ジェットカウンターに18ハコを流し終える


カウンターの個数表示は、35,000個を少し超えていた


33玉交換なので換金すれば10万円オーバーになる


店員にメンバーズカードを渡し、全て貯玉にしてもらう



(この章もう一回だけ続く)