「風の吹く街」と天国からのダメ出し | メメントCの世界

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「風の吹く街」と天国からのダメ出し

 

 来年一月22~29日に横浜市ランドマークタワーホールで開催の「風の吹く街・野毛坂ダウンタウンストーリー」横浜夢座公演の脚本。演出を担当します。

 既に、顔合わせや記者発表も行われ、脚本も稿を重ねています。

 稽古開始は12月8日の日米開戦の日です。特に意味はありませんが。

 

 この仕事の声が掛かったのは、安全区/Nanjing を見に来た座長の五大さんから、まず演出を頼まれ、その後に脚本も頼まれました。私が演出の声を掛けられるのは音楽劇が多いのですが、これも音楽劇です。

 五大路子座長の横浜夢座は、横浜をテーマにオリジナル芝居を作り続けています。私もちょうど10年前に、福田善之先生の演出で「猫、或いは夢の女」という作品の脚本と音楽を担当させてもらいました。書き始めたのは次男が生まれて3か月の頃で、丁度、「ダム」で新人戯曲賞を頂いた後でした。福田さんは私が斎藤憐さんの教え子だったのもあり、演出を引き受けてくれました。

 執筆はかなり大変で、歌舞伎座や文化座で演出をしていた福田さんは忙しく、あちこちの現場にダメ出しをもらいに行って脱稿しました。書いていた頃はまだ次男を産んですぐだったので、死にそうでしたね。でも母が元気だったので、乳児の面倒を頼めました。あれから十年、次男は四年生です。その猫の公演で再開した杉嶋美智子、大内史子とメメントをその年に結成しました。今では母は老い、父は要介護4です。

「猫」は夏目漱石と横浜で割腹自殺をした女浪花節をめぐる話です。オリジナルで関東節の浪花節まで歌詞を書き、二葉百合子先生に曲を付けてもらい、曲師の方にビクターのスタジオで三味線を録音させてもらいました。「なにがなにしてなにとやら」という二葉先生の声の入ったMDは宝物です。芸の道の凄さを思い知らされた瞬間でした。もしも五大さんがずっとあれを練習してくれていたら今頃、五大さんは浪花節語りになっているはずですが、そうでもないので、きっと練習はしてくれてないでしょう。自分で練習してればよかった。「猫」は未だに忘れがたい幻想的な作品ですが、本番中はずっと袖でピアノを弾いていた為、前から観たことがありません。残念です。

 

 今回、五大さんは一年以上かけて、野毛の街をほっつきまわって闇市の事を聞きまくり、資料をためて私にドバっと渡してくださいました。その中で、一番惹きつけられたのは「無秩序の秩序を作った男・肥後盛造」という話でした。それを五大さんに言ったのは、野毛にある餃子で有名な萬里という中華屋さんの店長の福田豊さんです。この福田さんは何と、斎藤憐さんの同級生でした。憐さんは北朝鮮から6歳の時に引き上げて来ました。福田さんも同様に中国生まれで引揚できて福田さんのお母さんが野毛で餃子の店を開いたのです。

 劇作家協会戯曲セミナーの第一期生だったわたしは憧れの斎藤憐さんに師事し、舞い上がって、馬鹿みたいに脚本を書きまくり送りつけて嫌われました。「もうお前のものは読まない!!」と切れられて、最後には「これだというのが書けたら送ってこい」と言われてセミナーは終わったのです。でも、私としては新人戯曲賞の「ダム」の公開審査で斎藤憐さんには、「これだというもの」を読んでもらう事ができてギリギリ間に合いました。檀上で、ダムを推して下さった憐さんの言葉を忘れることはありません。憐さんと最後に会ったのは、青年座の住田女史の急死に伴う偲ぶ会です。ポツネンと会場で一人座っていた憐さんと話したのが最後でした。私は憐さんに気に入られてもいないので、出来の悪い方だったと思いますが、「ダム」という作品の真価を戯曲賞で認めて頂いた事が、その後に私の進む路の大きな助けてとなりました。

 

 不思議な縁ともいえる福田豊さんからは脚本を書く前にもいろいろなアドバイスを頂きましたが、こないだ第四稿を読んで頂いて、「死ぬことは生きることだ」という言葉をもらいました。何だか斎藤憐さんが言ってるみたいだと思えるような言葉ばかりアドバイス頂いたのでした。福田豊さんは「憐は気違いだ」と言います。でも、憐さんと時間を共有していた福田さんにもその狂気のような熱情があるように思えました。天国からのダメ出しを中継してもらって、更に原稿のブラッシュアップに励みます。野毛坂振興協会での記者会見で、福田さんは商店街代表でこう挨拶しました。

 「来年1月20日は、トランプ氏がアメリカ大統領に就任します。トランプ大統領が生まれる二日後の22日にこの芝居の幕が上がるのは、混迷の現代にとって何か「道しるべ」になるんじゃないかと思います。無秩序の闇市から市民が秩序を作って立ち上がって行くこの芝居は、これから世界がぐちゃぐちゃになる時、大変、意味があると思います」

 

 音楽は栗木さん。初めての方ですが、とても楽しみです。そして芝居のメインテーマは、「誠之助の死」をコーラス曲に書いてくれた中村華子さんが作曲します。どんな名曲が生まれるでしょうか。

 出演俳優も渋くて豪華です。若手も頑張ります。「プロキュストの寝台」で活躍してくれた劇団BDPの漆原志優さんが再登場し美空ひばりならぬオソラツバメ役。館山の子どもミュージカル・トゥルーカラーズからも、遠藤よもぎさんが、五大さんの娘役でそれぞれ出演致します。是非、お楽しみに!

 制作発表の記者会見の後、五大さんと出演俳優は戦後の紛争をして野毛の街へ繰りだして、歌を歌いながら宣伝活動を繰り広げました。何てまあ尽きないパワーなんでしょう。秋から病気続きでへとへとですが、天国の斎藤憐さんが見ているぞ!と自分で暗示と発破をかけた私でした。ご期待ください。