●血管と血流
血液の通路である血管には、動脈、静脈及び毛細血管の3種類があります。
心臓の拍動によって押し出された血液は、「動脈」の中を流れて、体の末端まで送られます。
動脈は枝分かれして細くなり、全身に網の目のように配置される「毛細血管」へと続きます。
体のそれぞれの組織・器官は、付属する毛細血管網によって養われています。
血管と聞くと、動脈や静脈を思い浮かべることが多いかも知れませんが、全身に張り巡らされている血管の99%を占めるのは毛細血管です。
心臓を出たばかりの動脈を流れる血液のスピードは秒速約50㎝なのに対し、毛細血管は約0.1~1.0mmといわれています。
動脈の1000分の1のスピードでゆっくり流れながら、周辺の細胞に酸素や栄養物質を届けています。
また、毛細血管の内径は、赤血球の直径とほぼ同じか、それよりも小さいのが普通です。
そこで赤血球は変形し、血管壁に密着しながら流れます。
赤血球膜と血管壁が触れあう面積が大きいことは、酸素と二酸化炭素のガス交換に有利です。
「静脈」は、末梢からの血液を心臓へと返す通り路になっています。
●内皮細胞のはたらき
動脈と静脈、そして毛細血管は、その役割に適した構造をしていますが、いずれもその管の内側には、「内皮細胞」がタイルを貼ったように並んでいます。
この「血管内皮細胞」については、血液と接する物理的な壁としてしか認識されていない時代が続きましたが、「血管生物学」の発展によって、多彩な機能があることが分かってきています。
特に、毛細血管の内皮細胞の配列は、組織・器官によって、
「かなり密着したもの」
「隙間のあるもの」
「小さな穴を持つもの」
などがあり、それぞれの場所での物質の透過性を維持しています。
例えば、脳では内皮細胞には穴はなく、内皮細胞同士がぴったりとくっ付き合っています。
この場合、必要な物質(グルコースなど)は、輸送タンパク(グルコーストランスポーター)で運び込みます。
このような仕組みは、脳を守ることに役立っています。
また、腎臓の糸球体を構成している毛細血管には大きな穴があり、それが基底膜を通ってろ過され尿になります。
肝臓や脾臓の血管でも、内皮細胞にたくさんの穴が開いています。これらの臓器の機能には、血液の自由な移動が必要なためです。
内皮細胞は、このように組織と血液の間での物質の移行を調節します。
さらに、血液の凝固を抑制したり、血管を拡張させたりして、血栓を作らないようにも働きます。
また、リンパ球や好中球やマクロファージなどの免疫担当細胞との相互作用によって、生体防御の役割も担っています。
●炎症対策の必要性
内皮細胞は酸化ストレスや免疫反応により傷付くので、日常の栄養対策が必要です。
酸化ストレスとは、体内の抗酸化と酸化とのバランスが崩れた状態をいいます。
呼吸によって取り込んだ酸素は、外部からの様々な刺激(紫外線、放射線など)を受け、反応性の高い「活性酸素」に変化します。
活性酸素は、白血球などが取り込んだ細菌を殺菌するためなどに作られますが、過剰な産生は細胞を傷害し、様々な疾患をもたらす要因となります。
活性酸素は、DNA鎖を切断し、遺伝情報を変えてしまうことにより、異常なタンパク質を作ります。
また、タンパク質に化学変化を起こし、活性を低下させたり、脂質に損傷を与えて細胞膜をもろくしたりして、細胞の機能を低下させます。
生体は、活性酸素を消去するための防御システムを備えており、活性酸素を分解する種々の「酵素」を持っています。
代表的な酵素として、SOD(スーパーオキシドジスムダーゼ)やグルタチオンペルオキシダーゼが知られています。
生体内の多くの酵素は、その働きを発揮するために、タンパク質以外の成分を必要とします。
SODは銅・亜鉛・マンガン、グルタチオンペルオキシダーゼはセレンが構成成分となり、酵素の機能を活発にさせます。
しかし、SODなどの合成能力が低下している場合や、活性酸素の発生量が増大している場合には、外から抗酸化成分を摂取して不足分を補うことが大切です。
ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、カロチノイド、フラボノイド、ポリフェノールなどは、活性酸素を安定化させる抗酸化成分です。
三石巌の著書によく出てくる「スカベンジャー」とは、英語で“掃除屋”を意味し、活性酸素の除去に働く様々な抗酸化成分のことを指しています。
スカベンジャーは、それぞれ体内で働く場所や働き方が違うので、できるだけいくつかの種類を組み合わせて摂ると、体内の抗酸化ネットワークを強固にすることができます。
本格的な夏を迎える前に、抗酸化対策をしっかり行い、血管や血流を健全に保ちましょう。
<参考>
「細胞のはたらきがわかる本」(岩波ジュニア新書)