ビタミンEの化学名「トコフェロール」は「出産の力を与えるアルコール」という意味で付けられた名前です。
ビタミンEは妊娠ビタミンと呼ばれており、「抗不妊作用」を持っています。
その抗不妊作用はビタミンEの種類によって大きく違います。
今回はビタミンEの働きの1つであるα-トコフェロールの抗不妊作用について取り上げます。
血液及び組織中に存在するビタミンの大部分はα-トコフェロールです。
α‐トコフェロールには抗不妊作用以外にも抗酸化作用、血流促進作用、抗炎症作用、抗血小板凝集抑制作用、免疫賦活作用、ホルモン調整作用など多くの働きをしています。
また、厚生労働省が策定している食事摂取基準ではビタミンEについてα-トコフェロールのみを指標に表しています。
不妊の現状
厚生労働省が2020年に報告しているデータによると、日本では、不妊を心配したことがある夫婦は35.0%で、夫婦全体の約2.9組に1組の割合になります。
また、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は18.2%で、夫婦全体の約5.5組に1組の割合になるそうです。「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」より
世界では成人人口の約 17.5 % (世界の約 6 人に 1 人) が不妊を経験していると言われています。日本WHO協会HPより
性ホルモンとビタミンEの関係
ビタミンEは、血液、心臓、肝臓、骨格筋など様々な器官に分布していますが、特に副腎や脳下垂体といったホルモンを産生する器官への分布が多いことが特徴です。
性ホルモンは副腎皮質、精巣(男性ホルモン)、卵巣(女性ホルモン)から分泌されますが、脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンが標的臓器にたどり着くことで性ホルモンの分泌が促されます。
ビタミンEはすべての内分泌器官に蓄えられており、欠乏すると精巣、卵巣、副腎などが萎縮したり、変性したりすることが知られています。
また、性腺刺激ホルモンや性ホルモンの合成代謝にビタミンE、ビタミンCが深くかかわっていると考えられています。
女性の月経のリズムを整えることは妊娠だけでなく女性の健康にも繋がります。
月経周期は主に卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)によって制御されています。そして、それらのホルモンの分泌を促す性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)からも支配を受けています。
ビタミンEは月経周期に関わるホルモンの分泌に深く関与し、ホルモン分泌を整える働きも担っています。
看護roo!HPより
不妊とビタミンE
ビタミンEは妊娠ビタミンと言われており、男女ともに妊娠に必要なビタミンです。
古くから、不妊症の女性にビタミンEを投与すると不妊が解消する症例が報告されています。
女性がビタミンE不足・欠乏状態になると胎児に栄養を送る胎盤にビタミンEが届けられず、胎盤が発達できず胎児吸収が起こることが動物実験で示されています。
さらに、ビタミンE、ビタミンCなどの抗酸化物質の減少や抗酸化に働く酵素の活性低下が男性不妊に相関していることも知られています。
不妊の栄養対策
(女性の場合)
卵子を生む場所である卵巣と、胎児を育む子宮を健康に保つことが重要です。
しかし年齢とともに、卵巣や子宮などの各臓器の萎縮は起こりますので、卵巣や子宮の機能維持のために、良質タンパク、ビタミンB群、ビタミンC、ミネラル(カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛)などの栄養素の摂取が不可欠です。
また、細胞分化の正常化に関わるビタミンAは、卵子を作っていく際や妊娠して胎児を成長させていく上でも必須になります。
ビタミンEは、性ホルモンの分泌を調節し正常に保つ働きや、卵子の細胞膜を傷害から守る働き、さらに胎盤の形成に重要な役割を果たしています。性ホルモンの分泌は卵子の成長や排卵などにも影響しますので、不足のないように摂取されることが大切です。
さらに、冷え・ストレス・運動不足などによる血行不良は、卵巣や子宮組織の働きを悪くする大きな原因になります。
(男性の場合)
精子が作られる精巣も、加齢とともに萎縮し、機能(受精の能力など)が低下傾向になると言われています。
精巣がこれ以上萎縮しないように維持していくためには、組織の材料である良質タンパク、ビタミンB群、ビタミンC、ミネラルなどの栄養素の摂取が重要です。
精巣にはビタミンA、ビタミンE、亜鉛、セレンが高濃度に含まれ、機能を維持しています。特に精子を活発にするにはセレンが重要です。これらの不足は、機能の低下に繋がるため、不足のないように気を付けましょう。
ビタミンE摂取の上限量
厚生労働省が策定している食事摂取基準では成人男性で750〜900㎎/日、成人女性で650〜700㎎となっています。
(参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586561.pdf
ビタミンEは性ホルモンの正常な分泌に必要なビタミンです。
また、これからの季節では皮膚を紫外線から守ったり、メラニンの合成を抑制したりとうれしい働きをたくさん受け持っています。
ストレスに対抗する為に必要なビタミンのひとつでもありますので、日常的に摂取し、不足が起きないように備えておくことが大切です。
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参考
阿部皓一(2020)食品と容器,61,116-121
吉岡保(1985)ビタミンEと産婦人科疾患、ビタミンE-基礎と臨床-,福場博保,美濃真監修,pp479-487(医歯薬出版,東京)
Jishage K et al(2001)J Biol Chem,276,1669-1672
Huang C,Cao X,Pang D,Li C,Luo Q Zou Y,Feng B,Li L,Chang A,Chen Z(2018),Oncotarget,11,24494-24513