●はじめに~個体差による栄養学~
三石巌は、著書の中で、「ビタミン必要量の個体差への対応が体質上の弱点をカバーする」と述べています。
遺伝条件は、一人ひとりに適したビタミンの摂取量を決めており、また同一人物でも環境条件や身体の状況によって変動します。
健康状態を自主管理するためには、どんな状況にはどんな栄養素がどれだけ必要なのかという知識を身に付けることが大事です。
ビタミンの摂取量は、平均値を基準にした従来型の推奨値から、個体差によるオーダーメード栄養学へと転換しています。
葉酸も人によって体内で利用できる効率が異なることが分かっています。
●葉酸とは~ビタミンB群の仲間~
葉酸は水溶性で、ビタミン B群に属しています。ビタミンB12と共に造血ビタミンとして位置付けられていましたが、心疾患や脳血管障害、さらには認知症との関係が明らかになり、これらの病気の予防因子として注目されてきた経緯があります。
食品では、緑葉野菜や豆類、果物などに多く含まれます。動物性食品では、レバー(牛・豚)に豊富です。
アメリカでは、1998年から、米・小麦粉・シリアルなどの穀物への葉酸の強化が義務付けられています。
その結果、脳卒中死亡率や胎児の神経管閉鎖障害(脳や脊髄に生じる先天異常)が減少したと報告されています。
現在、穀類への葉酸添加を法律で義務付けている国は増え続けており、82ヶ国に及びます。
日本でも、神経管閉鎖障害リスク予防のためには、通常の食事のみでは十分ではなく、サプリメント等からも摂取することが推奨されています。
日本人の約15%が葉酸不足を生じやすい遺伝子の持ち主であるといわれますが、その場合でも、葉酸の摂取量を推奨量(240μg/日)の約 2倍 (400μg/日)にすることで、リスクを下げることができると報告されています。
また、今日では、多くの国が摂取推奨量を400μgとしています。
●葉酸の構造と作用~疾患との関わり~
葉酸は、グルタミン酸、プテリジン環、パラアミノ安息香酸が結合した化合物です。葉酸の構造には、アミノ酸の「グルタミン酸」が入っていますが、1個のグルタミン酸が結合したものを「モノグルタミン酸型」、複数個結合したものを「ポリグルタミン酸型」といいます。
ポリは“多”または“複”の意味を示す接頭語です。
一般食品中の葉酸の大半は、ポリグルタミン酸型で、サプリメントや加工食品に添加されている葉酸の多くは、モノグルタミン酸型です。体内での利用効率は、ポリグルタミン酸型が50~60%(体内で分解する過程が必要なため)、モノグルタミン酸型は約85%と推定されています。
腸管吸収された葉酸は、テトラヒドロ葉酸に変換され、核酸成分を合成する補酵素として働きます。
そのため、細胞の分裂・増殖の盛んな臓器ほど、葉酸欠乏の影響を受け易く、造血機構や消化管粘膜、皮膚などの機能低下により、食欲不振、下痢、口内炎、貧血、不眠、健忘症などが起こるといわれます。
<巨赤芽球性貧血>
葉酸は、ビタミンB12とともに、赤血球合成に作用し、どちらか一方でも不足すると、巨赤芽球性貧血を起こします。
巨赤芽球性貧血は、血液中に成熟していない大きな赤血球(巨赤芽球)が存在することが特徴です。
この状態が続くと、赤血球が減り、貧血になってしまいます。
尚、ビタミンB12は主に動物性食品に多く含まれ、胃の中で胃液に含まれる内因子と結合し、肝臓などで貯えられます。
そのため、胃を全摘した場合や萎縮性胃炎の人、菜食主義者などは、ビタミンB12の不足に注意する必要があります
<ホモシステイン代謝>
葉酸は必須アミノ酸のメチオニンがホモシステインを経て、メチオニンに再合成される際にも必須です。
不足すると、再合成が進まず、ホモシステインが血液中に増えてしまいます。
ホモシステインは、血管や脳、骨において活性酸素を発生させるため、動脈硬化やあらゆる疾患(高血圧、心筋梗塞、脳卒中など)のリスクとなります。
図のように、ビタミンB12とビタミンB6も代謝に関与しており、この3つに不足を起こさないことが大事です。
ビタミンB群は8種類ありますが、一種類だけでは効果を発揮しにくく、お互い助け合いながら働きます。
そのため、複合体で摂ることに意味があります。
また、ビタミンがその役割を果たすためには、十分な良質タンパクが必要です。
これはすべてのビタミンについてもいえることです。
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<参考書籍>
基礎栄養学(羊土社)
栄養学の基本がわかる事典(西東社)
あなたの健康寿命は「葉酸」で延ばせる(ワニブックス「PLUS」新書)