電子ドロボーがきたら、からだは盗まれ役のサクラをつかうっていう話はおもしろいだろう。サクラってどんなものかってこと知りたいじゃないかな。それを秘密にしておくほどボクはずるい男じゃない。
からだのサクラだっていってもピンとこないからニックネームの変更だ。スカベンジャーとしておこう。この英語の意味は掃除屋だ。電子ドロボーつまり活性酸素をしまつしてくれるから、掃除屋がぴったりじゃないか。
このごろベータカロチンってことばがちらほらでてきたろう。あれはスカベンジャーのひとつなんだ。よくしらべてみたらスカベンジャーの種類は一万ぐらいあるだろう。そのひとつがベータカロチンだ。さわぐことはないさ。
ベータカロチンはニンジン、カボチャに色をつけている色素なんだ。東北大医学部のチームがあちこちの長寿村の人たちが何をくっているかをしらべたことがあるんだ。その答えはカボチャだった。年じゅうカボチャをくっていたってことさ。
おまえもカボチャをくってるだろうって、ボクにききたいんじゃないかな。ところがどっこい、ボクはそんなものたまにしかくっちゃいないよ。
カボチャがなぜベータカロチンをもっているか。問題はそこだな。
カボチャでもなんでも、植物ってやつはもろに日光をあびている。そこには紫外線があるってことを思いだしてくれないか。紫外線には波長の長いのも短いのもある。植物はそれをまともにあびているだろう。それはきびしいことなんだ。
キミはフロンガス問題を知っているんじゃないかな。オゾン層にあなをあけて紫外線をとおしちゃうってことを。
これがつまり波長の短い紫外線なんだ。それがヒフにあたると、そこにある水分子をわって活性酸素をつくっちゃうんだ。それでヒフがんができるってことをおぼえておくほうがいいだろう。
カボチャにがんができるかもしれんが、とにかく活性酸素はまずい。そこでベータカロチンをつくる。植物はカボチャだけじゃない。みんなそれぞれに何百種類ものスカベンジャーをつくっている。ビタミンCもビタミンEもそうだし、カロチン、フラボノイド、ポリフェノールとわんさかある。こんどはその話だな。
本原稿は、1994年5月27日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。