このごろはカタカナ言葉がおおくなった、なんて腹をたてるひとがいる。ボクはそんなことにはおかまいなしに先週、『カスケード』なんてやった。『段々滝』のほうがよかったらそれでもかまうことはない。ちゃんぽんでいくか。
ま、とにかく頭のなかにビタミンCがながれている。空想の世界のはなしだよ。
そのビタミンCは、水のように上から下へとながれている。それが階段のようなところをながれおちている。この段々滝は英語でいえばカスケードだ。カスケードって看板をかけたビアホールをみたことがあるけれど、これは階段というよりハシゴのいみだろう。
これは余談だ。
ビタミンのカスケードでは、ひとつひとつの段々に穴があいている。上からなだれてきたビタミンはその穴にすいこまれる。よぶんがあればつぎの段までながれおちて、そこでまた穴にすいこまれる。そこでまだよぶんがあればつぎの段までながれていってすいこまれる。そしてきまった仕事をするんだな。
わかりきったことをいうなって。ごもっとも、ごもっとも。ボクは、ビタミンCがたっぷりあれば、段々に穴があっても、大雨のときのように、滝はいちばん下の段までながれおちるってことをいいたいだけなんだ。
そんなことはわかっているっていうならボクは安心だ。いわんとするところが理解されたとおもうからだ。
キミも知ってのとおり、この穴はビタミンをすてるためじゃない。仕事をさせるためだった。
ボクのばあい第一段はカゼをふせぐ仕事、第二段は白内障をふせぐ仕事だ。ビタミンCのとりかたがたりないとしても、いちばん上の段にはいくらかながれてくる。それが穴におちてカゼをふせぐ仕事をするだろう。それなら、ボクはやたらにカゼをひかないですむわけだろう。まがりなりにでも、だよ。
ボクが家内ほどカゼにやられなかったわけが説明できるんじゃないかな。
ボクのばあい、ビタミンCの滝は第二段までおちてくるだけのよゆうがなかった。それで白内障にやられたってわけさ。家内のばあいがこの逆だった。
ビタミンCの仕事はこのふたつだけじゃない。だから、ここで第一段といったのは上のほうの段のいみ、第二段といったのは下のほうの段のいみにすぎない。
本原稿は、1994年3月25日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。