ころんでもタダおきないって言葉がある。ボクの白内障はボクの頭からこんなアイデアをひきずりだした。ボクはなまいきにこのビタミンCの滝にカスケードモデルなんて名前をつけちゃたんだ。
よくよく考えてみると、このモデルにはスキがいくつもある。だが、ビタミンがふそくだとどうなるか、ビタミンをたっぷりとるとどうなるか、がわかるっていうんで、ボクの知らない人がこれをかつぎまわっているようだ。
このカスケードモデルに興味をもつ人には「分子栄養学序説」(現代書林)「健康自主管理のための栄養学」(太平出版)「ニセ医者養生訓」(長崎出版)などの本がある。
ここにちらつくボクのDNAレベルの栄養学は一九八〇年ごろできあがった。それのまえは分子栄養学だ。これと、ライナス・ポーリング(ノーベル物理学賞、平和賞を受賞したアメリカの物理学者。メガビタミン主義者)の分子矯正栄養学とはべつものだ。かれの考え方は経験的、ボクのは理論的なんだから。
分子栄養学は三本の柱にわかれている。カスケードモデルはその二本目だ。一本目をだすかどうかについては迷っている。ややこしいからきらわれやしないかって心配なんだ。
おさらいをしておこう。カスケードの第一段と第二段とが、ボクと家内とは逆になっていた。健康について、病気について考えるとき、見のがすことのできないものは体質だ。ボクたち夫婦の体質のちがいが、ビタミンのカスケードモデルに表現されている、とボクは思うんだが。
ビタミンCの仕事に、ステロイドホルモンの合成があることはまえにでている。ネズミはストレスがかかると大量のビタミンCをつくるって話があったろう。ストレスがあるとビタミンCの必要量がふえる。これは消費量がふえるってことだ。
ストレスがあると、からだはそれにまけてはならじと抗ストレスのステロイドホルモンをつくる。その名はコルチゾン、コルチゾールなどだ。これをつくる化学反応にビタミンCがいるってことだ。だから、ビタミンCがたりないとストレスにまけることになるんだな。
さてこうなると、カスケードの段がふえるから、めっぽうややこしくなる。
本原稿は、1994年4月1日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。