キミは、イヌやウシにビタミンCをやることを知っているだろうか。かれらがビタミンCをじぶんでつくれるのに、だよ。これは、自前の生産力にリミットがあるってことだ。
赤ちゃんだってカゼをひいたときなんかには、ビタミンCをほしがるかもしれないとおもうよ。
われわれにんげんも、ビタミンと似たはたらきのものをいくつもつくっている。ニコチン酸・パントテン酸・ユビキノンなどなどだ。こういうものがふそくすることがあるんだ。
ところで、病気や栄養の研究にはよくネズミがつかわれる。だが、人間とネズミとはおおちがいだ。ネズミはビタミンCをじぶんでつくれるんだから。
われわれ人間にビタミンCがどれほどいるかはだいじな問題だ。これはネズミが一日にどれほどのビタミンCをつくっているかをしらべればいいわけだ。
じっさいのデータをみると、ふつうの生活だと一日に二グラム、ストレスがあると十七グラムってことだ。これだけのものをネズミはつっくているわけだ。むろん人間の体重に換算してある。人間の必要量はここからだすのが合理的ってことになるが、二グラムのビタミンCはレモンでいえば四キログラムだ。がっくりくるね。
この数字をきいてキミはどうするか。きょうからは毎日レモン四キログラムをたべようと思うか。とにかく野菜や果物をもりもり食おうとするか。サルは森をはなれずに手あたりしだいにビタミンCをふくむえさにありついているんだが。
ここまで読んできたら、この連載のタイトル「どうぞ、お先に」の意味がわかったんじゃないかな。必要な栄養素をいるだけとりもしないでおいて栄養に気をつけています、なんていう人がいるけれど、そういう人にむかって、どうぞお先に、とボクはいいたいんだな。まさかそれを口にだすほどの無神経じゃないがね。
ここで心にとめてもらいたいことがふたつある。ひとつはビタミンCの必要量が状況によってちがうってことだ。ネズミのストレスのことがあったじゃないか。
もうひとつは必要量に個体差があるってことだ。それは一対百といわれている。キミは一日四十ミリグラムで、ボクは一日四グラムっていうようなぐあいだ。
本原稿は、1994年3月11日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。