散逸構造とかクローンとか、なじみのないことばをだしてきて何をいおうとしているのか。健康をめぐるエッセーを書くんじゃなかったか。
この疑問にそろそろ答える義務がありそうだ。
毛細血管がDNAの指令によらず、血液循環につごうのいいようにしぜんにつくられたものだ、と仮定すると、これは合目的なもの、と考えることになる。合目的とはなんだ。その組織に栄養や酸素をおくるのにつごうよくできてるってことだ。
組織は栄養や酸素をいるだけもらわなかったら、目的がかなうようにはたらくことができないじゃないか。
ここでの問題はボクの目だ。遺伝的に目のたちがわるかったとしても、それは毛細血管網のせいじゃないってことになりそうだ。
ボクは、はじめのほうでは血管網っていっておいて、ここへきて毛細血管網ってことばを変えたことに気がついていたかな。
毛細血管の上流には小動脈がある。これの設計図はたぶんDNAにあるだろう。毛細血管となると設計図なしだからどうにでもなるんだ。切れたりつまったりすれば、たちまち新しいのができる。ここのところは合目的なんだな。
小動脈と毛細血管とのさかいめには括約筋(かつやくきん)がある。これは血流の関所のようなもんだ。ここで血流量を調節しているわけだ。
ボクの目には弱点があるはずだが、それが血のめぐりの問題じゃないってことをいいたかったんだ。これで友人のK医師が「血管網の特性じゃないか」といったことをひっくりかえしたつもりだ。
ついでだからいっておくが、毛細血管に血液をおくりこむところの括約筋をゆるめる働きは自律神経でコントロールするのがたてまえだ。
だが、血管拡張剤でも、ニコチン酸でも、イチョウの葉の成分フラボノイドでもこれをゆるめることができる。これで視野があかるくなる。視力の回復にイチョウ葉エキスがやくだつのもあたりまえだろう。
ボクは白内障といわれたとき、それがビタミンのけつぼうによることを知っていた。教え子たちとやっている勉強会でみた本にあったんだ。
そのころビタミンCをわざわざのむ人間などはいなかった。それなのにボクだけが白内障になったのはなぜか。目の弱点の遺伝とはいったいどういうことか。
これが問題だ。
本原稿は、1994年2月4日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。