4 毛細血管の形 〜DNAでなく散逸構造で決定!?〜 | 分子栄養学のススメ

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分子栄養学の確立者である三石巌によって設立された会社“メグビー”のブログです。

 前回はモミの木やランの話がでてきた。それどころかアインシュタインのクローンの話まででてきた。

 ボクの話は還暦の年からはじまっている。そのころのボクはクローンも分子生物学も知っちゃいない。フランシス・クリックの分子生物学成立宣言からまだ三年しかたっていない時点のことなんだからな。

 クローンの日本語は分枝系だ。一本の木の枝の細胞は、どれをとっても同じDNA(遺伝子といっていいことにする)をもっている。分枝系という訳語はそこからとったものだろうが、クローンとは同じDNAをもつものをいうんだな。人間でいえば一卵性双生児がクローンだ。

 子は親のクローンじゃない。両親のDNAをごちゃまぜにしたDNAをもつからだ。おまけに、受精のときに突然変異もおこしている。子は種ににてはいるが、どっちにもにていないところがあるだろう。キミは父親とも母親ともちがうんだ。

 ところで血管系の問題だが、大動脈や大静脈のような、それがなくちゃこまるような血管の位置や太さには大まかな設計図があるだろう。それをDNAがきめているってことだ。

 動脈でいえば、心臓にちかいところから、大動脈・小動脈・毛細血管ということになっている。この毛細血管の分布はDNAがきめているんじゃない、とボクはおもっている。これは散逸構造になっているというのがボクの考えだ。

 そんなこというくせに、ボクは散逸構造についてろくに知っちゃいない。これをいいだしたのはイリヤ・プリコジンで、かれがノーベル化学賞をとったのは一九七七年のことだ。これもボクの還暦のころの頭にはなかった。

 散逸構造とは、エネルギーの流れが安定して定常状態になったとき、しぜんにできあがった流れの道すじ、といったらいいだろう。

 それはちがうと専門家にいわれたら、ボクは何もいわずにあっさり引きさがる覚悟だ。

 散逸構造は物理学上の概念だがそれ以外にもつかわれるようになった。

 木の枝分かれの形、水の流れが枝分かれする形、道路がしぜんに枝分かれしてゆく形—こういうものを散逸構造とする説がある。毛細血管網の形をこのなかまに入れたらどうか。そうすればこれはDNAの指令によらずにしぜんにつくられることになるんだが。

 

本原稿は、1994年1月28日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。