韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫 央明翁主の秘密ー私は世の中の人全員を騙している | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
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 連載第33回 君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~

韓流時代小説 罠wana*魅入られて~日陰の王女は愛に惑う

(原題「化流粧師パク・ジアン~裸足の花嫁~」)

ーその美しき微笑は甘美な罠か?

どこから見ても美少女のジアンには、秘密があったー。

「すべてのものから、僕が貴女を守る」
「あなたと出会わなければ良かった。あなたを傷つけたくないから、身を引こうとしたのに」

 

附馬とは国王の娘を妻に迎えた男性を指す。

いわゆる王の娘婿である。難関とされる科挙に

最年少で首席合格を果たしたナ・チュソン。

将来を期待されながらも、ひとめ惚れした美しき王女の降嫁をひたすら希う。

約束された出世も何もかも捨てて、王の娘を妻として迎えたにも拘わらず、夫婦関係はよそよそしかった。

妻への報われぬ恋に身を灼く一人の青年の愛と苦悩を描く。ー彼女はその時、言った。
 「私と結婚したら、後悔しますよ」。果たして、その言葉の意味するところは? 官吏としての出世も何もかもをなげうって王女の降嫁を望んだ一人の青年。しかし、妻となった王女は、良人に触れられることさえ拒んだ。ー
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 けれどー。チュソンには、どうしても王女の頑なさに不安を感じてしまう。
ー本当に、後悔しますよ。
 最後に彼女が発した言葉が耳奥でありありと蘇った。
 あの科白にはチュソンへの警告が含まれていた。とはいえ、脅すとか、嫌悪しているとか、負の感情はまるで感じられなかった。むしろ、チュソンを気遣い、真心から案じているような響きさえあった。
 だが、何故なんだろう。どうして、彼女は警告したのか?
 チュソンは改めて今日の会話をまた思い起こしてみる。けれども、どこにも疑問の手がかりになりそうなものはなかった。
 チュソンは独りごちた。
「違う、そうじゃない」
 今日の彼女とのやり取りには、恐らく取っかかりはなかったはずだ。あるとしたらー。
 彼は眼を瞑り、思案に沈んだ。
 ふいに、幼い女の子の声が耳許で聞こえた。
ー嘘つきだから。
 チュソンは眼を開けた。そうだ、十年前のあの日、自分は彼女に勇敢だと褒め称えた。小さな身体で物怖じもせず、セナを庇った勇気を褒め称えたのだ。
 あの時、彼女は自分は嘘つきだと言った。
 チュソンはまた眼を閉じ、はるかな記憶を手繰り寄せる。
 次いで、彼女は言った。
ーあなたには判らない。
 そのひと言の意味は今もって知れない。自分を嘘つき呼ばわりする理由なのか、はたまた、彼女自身を理解できないと言ったのか謎である。
 だが、そこは問題ではなく、大切なのは次だろう。
ー幾ら善人ぶってみても、私は世の中の人すべてを騙して生きているんだもの。その罪は一生続くんだよ。
 確か、こんな科白ではなかったか。
 あのときはチュソンも幼く、深く意味を突き詰めて考えることはなかったけれど、わずか八歳の女の子が口にするには妙な科白だ。
 善人ぶるとは、どういう意味なのか。世の中の人すべてを騙して生きているというのは、先の〝嘘つき〟と同じ意味なのだろう。
ーその罪は一生続く。
 判らない。チュソンは両手でわしわしと頭をかいた。これまでたくさんの科挙で出されたという難問を解いてきたが、チュソンにとっては頭を抱え込む程度ではなかった。学問の師すら解けない難題をいとも易々と解いてみせたものだ。
 だが、王女の謎の科白だけは読み解けない。
 恐らくは、と彼は考えた。彼女は何か重大な秘密を抱えている。
 その秘密というのが他人には話せないもので、自分を嘘つきだ偽善者だと言わせているのだろう。
 彼女の秘密というのは、何なのか。
 自分の危険も顧みず渦中に飛び込んでゆく彼女のことだ、偽善者や嘘つきといった言葉からほど遠いのは判る。にも拘わらず、一生続く罪を犯しているとまで言わねばならない哀しみと不幸を彼女はずっと背負ってきた。
ーあなたには判らない。
 彼女に言われた時、チュソンは咄嗟に思ったものだ。
ー知らないというなら、僕はあなたのことが全部知りたい。
 今でも、その強い想いは少しも変わらない。

 あの頃から彼女の心は大きな二つの感情のあいだで危うい均衡を保っているように見えた。無邪気な年相応の少女らしさ、年よりはるかに老成した諦め、虚しさ。
 彼女の愛らしい顔に時折、落ちる翳りは相反する二つの感情のなせる技だったのではないか。
 今日、彼女自身から生母の不幸な死に方を聞いて、翳りの理由は王の娘として生まれながらけして幸福といえなかった生い立ちにあるのかと考えた。でも、どうやら自分は間違っていたようだ。
 彼女が見せる翳りは、生い立ちが原因ではない。もっと別の何かが彼女を追い詰めている。
 八歳の彼女が見せた哀しそうな表情を見て、彼は決意したのだ。
ーあなたの笑顔は僕が守りたい。
 あの時、彼は彼女と同じ八歳だった。子どもだった自分は彼女を守るどころか、探そうにも探せず、結局、諦めた。
 もう二度と彼女には会えないと諦めていた矢先、宮殿で再会したのだ。もっとも、姉姫と投壺をして遊んでいる時、彼はあの美しい妹姫をパク・ジアンだとは思いもしなかった。
 一度は諦めた初恋は、まもなく考え得る最高の形で実ろうとしている。
 彼女と我が身は縁が無かったように見え、その実、しっかりとした縁で結ばれていたともいえる。ならば、神仏が与え給うた縁を今一度ここで、しっかりと結び合わせたい。
 彼女を全力で守ってゆく。
 チュソンは固い決意を漲らせながら、頭上の藤棚を見上げる。純白の花、薄紫の花、花また花が藤棚を飾っている。物言わぬ花たちは何を考えているのだろうか。それとも、やはり花たちもこの時間、深い眠りについているのだろうか。
 夜もかなり更けてきて、夜気はいっそう冷え込んできたようだ。
 チュソンは足音を立てて使用人を起こさないよう、気配を殺して自室に戻った。