韓流時代小説 王を導く娘~運命の夜は十六夜だったー彼(王)と私、流され辿り着く場所はどこなのかー | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 

月の姫【夢占の花嫁】~王を導く娘~(第六話)

  本作は、「復讐から始まる恋は哀しく」の姉妹編。

前作で淑媛ユン氏を一途に慕った幼い王子燕海君が見目麗しい美青年に成長して再登場します。
今回は、この燕海君が主人公です。

廃妃ユン氏の悲劇から14年後、新たな復讐劇の幕が上がるー。
哀しみの王宮に、再び血の嵐が吹き荒れるのか?

 

 登場人物 崔明華(貞哲王后)

        (恒娥)チェ・ミョンファ。またの名をハンア。町の観相師、18歳。あらゆる相談に乗る

         が恋愛相談だけは大の苦手なので、断っている。理由は、まだ自分自身が恋をしたことも

         なく、奥手だから。

 

        燕海君  24歳の国王。後宮女官たちの憧れの的だが、既に16人もの妃がいる。

        前王成祖の甥(異母妹の息子)。廃妃ユン氏(ユン・ソファ)を幼時から一途に慕い、大王大      

        妃(前作では大妃)を憎んでいる。臣下たちからは「女好きの馬鹿王」とひそかに呼ばれる。    

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 ☆本作には観相が登場しますが、すべてはフィクションであり、観相学とは関係のないものです。本当の観相学とはすべて無関係ですので、ご理解お願いします。

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前回までのお話はコチラからどうぞキョロキョロ

 

 


   運命の夜

 その夜、大殿のはるか上、夜空に浮かぶ月は煌々と輝いていた。夜が更けるにつれ、十六夜の月は輝きを増し、地上のものすべてを柔らかく照らし出す。
 その明るい月光に、今、ほっそりとした女の姿がくっきりと浮かび上がる。女は、たおやかな肢体を外套で頭からすっぽりと隠している。
 女の足下を女官が提灯で照らし、年老いた尚宮が先導している。三人は明るい月夜に逆らうがごとく、ひそやかに気配を消して進む。やがて、三人の姿は輝く月に照らされた大殿に吸い込まれた。
 国王の寝所の前には、常時、何人もの内官や女官が待機して不寝番を務める。ところが、今夜だけは様子が違った。
 雌雄一対の龍が浮き彫りにされた重厚な紫檀の扉の前には、ただ逞しい内官が一人佇んでいるだけだ。
 彼の名はヨ・シギョン。まだ三十代の若さにして内官を統率する内侍府の長に抜擢され、国王第一の忠臣である。美麗な国王とはまた異なった魅力がある男で、精悍な面立ちは口回りに髭がないのを除けば、彼が去勢した内官であるとは誰も気づかないだろう。
 外套で身を隠した女を案内してきたのは、大殿尚宮である。彼女はヨ内官長と一瞬、目配せし合った。内官長は素早く頷き、寝所の扉を開けた。
「入るが良い」
 謎めいた女は、内官長に一礼すると、開いた扉の隙間から寝所へと身をすべらせた。
 内官長と大殿尚宮はまた顔をチラリと見合わせた。今宵は、国王の信頼も厚いこの二人のみが宿直(とのい)を務めるのだ。
 小柄な女が寝所に消えてからほどなく、ヨ内官長は一度だけ背後を振り返った。
 この分厚い扉の向こうは、完全に王のための秘められた空間である。そこで今夜、何が行われているか。宿直を務める彼でさえ予測できず、また、それは何があったとしても知られてはならないことだった。

 明華は王の寝所に足を踏み入れた刹那、小さく息を呑んだ。考えていたより、内は、はるかに広かった。
 明華の暮らす粗末な仕(し)舞(もた)屋(や)がゆうに何軒も収まってしまいそうなほどだ。まずはその広大さに度肝を抜かれ、次に室の奥に置かれた寝台の大きさに眼を奪われた。
 巨大な寝台の周囲には、薄絹の帳(とばり)が張り巡らされている。薄い紗の幕を通して、人影が揺れていた。
 あの中にヨンがいるのは、疑いようもない。
 明華は自らを落ち着かせるために深呼吸し、ゆっくりと寝台に向かった。
 相手は国王である。ヨンが何か言うまで待つべきかと思ったけれど、このままでは緊張と重圧に押しつぶされそうだ。
「殿下(チヨナー)」
 明華は咄嗟に寝台の外から呼びかけていた。
「入ってくれ」
 すぐにいらえがあり、明華はいまだ外套を頭から被ったまま寝台の帳をかき分けた。
 ヨンは白一色の夜着で寝台に座っていた。
「何だ、まだそんなものを被っているのか?」
 今夜、明華が王の寝所に侍ることは極秘事項にされている。
 朝鮮には観象監という、れきとした部署がある。ここで祭事儀礼などをいつにするべきか、王室行事などもすべて吉凶を占った上で決まる。たとい国王といえども、観象監の決定を翻すのは難しい。
 観象監がある以上、王が町の一観相師を個人的に重用するのは公にはできないのだ。また、後宮の女でもない娘を王の寝所に入れることも外聞をはばかる。そのため、今夜、明華が王に召し出されたことは徹底的に箝口令が敷かれ、まず、その事実を知る者が限られている。
 ここに来る道中も明華は外套を目深に被り、けして誰にも顔を見られてはならないと言い含められた。
 明華は小さく肩をすくめ、外套を脱いだ。用心には用心を重ね、口の周囲には更に薄い布(マスク)を巻いている。これで万が一、誰かに見られたとしても、面体は判らないはずだ。
「人をこんな真夜中に呼びつけておいて、随分なおっしゃり様ですね」
 ヨンがひそやかに笑った。
「まあ、そう怒ってばかりいないで、こっちに来たら?」
 手招きされ、明華はツンとそっぽを向いた。
「夏の夜は短い。折角、共に過ごせる機会を得たんだ。意地を張らないで、こちらにおいで」
 明華は溜息をつき、寝台の端に浅く腰を掛けた。ヨンとは、かなりの距離がある。
「何故、こんなことをなさったのですか?」
 はきと言わずとも、ヨンには判るはずだ。五日前、明華は突如として、大王大妃に呼び出された。大王大妃の側近である沈尚宮がわざわざ下町まで訪ねてきて、明華は沈尚宮と一緒に王宮まで出向いたのだ。
 思いも掛けないことに、その場には王であるヨンもいて、その場のなりゆきで明華はヨンの夢占をすることになってしまった。
 だが、あれはー。
 明華はキッとして言った。
「なりゆきというよりは、確信犯ですよね」
 計画的犯行、つまり、ヨンは最初から明華に夢占をさせるつもりで呼び出したのだと判っている。
 ヨンの美麗な面に苦笑が浮かんだ。
「その話は五日前もしたはずだ。こうでもせねば、そなたと一夜過ごすこともできないからというのは事実だが、もちろん、それだけではない」
 明華はお手上げだというように首を振り、ヨンに向き合った。
「よく眠れないとおっしゃっていましたね」
 確かに彼の言う通りだ。今更、何故こうなったのかと同じ話を蒸し返しても意味はない。それに明華とて、あの場でたとえ嫌々ながらでも夢占をすると引き受けたのだ。
 五日前の帰り道でも、一旦引き受けたからにはプロの観相師として全力を尽くすと決めたのではなかったか。
 今更ながらにあの日の決意を思い出し、明華は一人で頷いた。
 ヨンが低い声で言った。
「夢を見るんだ」
「夢ーですか?」
 明華は寝台に上がり、彼の手前に座った。距離があっては話ができない。