マクガフィン探索記 -6ページ目

空白のほにゃららゴ

リハーサルが始まった。
やはりれにちゃんはいない。

四人のももクロちゃんが登場して怒号に包まれるラゾーナ。
この時点で「すげーすげー!」つって僕は笑ってた。

場当たりするメンバーを見ながらうるせーことうるせーことw


しかし僕はこの時ためらっていた。
大声でメンバーの名前を呼ぶことを。

前日は最前だった。
前に誰もいなかった。
後ろからメンバーの名前を呼ぶ声がそらもううるさかった。

だから何の気兼ねもなく叫べた。


でも今日は違う。
とにかく遠かった。そして一般のお客さんが見ている。
大きな声で女の子の名前を呼ぶのが恥ずかしかった。

叫びたい。でも恥ずかしさが邪魔して口は開いても声が出ない。
それを何回も繰り返していた。
言葉は何度も喉の奥に飲み込まれていった。

なんか妙に焦った。




その時だった。


横の森田くんが柵を掴み、身を反らせて息を吸い、バネのように前へと上半身を持っていって叫んだ。

「ああぁぁぁぁぁりぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいーーーーーんッッ!!!!」


その横のO氏も叫んだ。

「れにちゃあああああーーーーん!!!!」

れにちゃんはいないのに。





「しぃぃぃぃおりぃぃぃぃぃいいいーーーーーん!!!!」

気付くと僕も叫んでいた。


恥ずかしさはその瞬間、跡形もなく消えた。
その瞬間から今現在も見当たらない。
今でも探しているんだけどどこに行ったんだろ。


あの瞬間を僕は忘れない。
あの瞬間、僕はドルヲタになった気がする。

ありがとう、森田くん。
ありがとう、O氏。




はい、リハ。一曲歌いました。

キミノアト。ど頭ソロの音程を安定して外す夏菜子。
ここでまた笑ったなー。全然悪い意味じゃなくてね。


リハ終わりで一旦サヨナラ。

「あーりん行かないでー!!」

森田うるせえよww


で、本番。

さっきの四人が省エネスーツ姿で出てきて、かわいい!

つってたら

夏菜子「特別ゲストがいます。この方です。どーぞー!」

って招き入れたら、れ、れにちゃん!!!


「れにちゃん!れにちゃん!れにちゃん!」

O氏が騒ぎ出す。
なんか三人で声合わせて「れにちゃーん!」って叫んだ気もする。


まあ、その後のライブはももクロChanにて確認してください。
いやぁ、最高でした。
遠かったけど最早全然関係なかった。

れにちゃん元気になって良かった。

心からそう思った。


空白のほにゃららヨン

空が明るくなってきたと同時に気温が下がり、僕は首をすくませた。

既に僕らの後ろにも100人くらい並んでいた。

列が何度か整理され、その度に前後の間隔が狭くなった。



そして、太極拳が始まった。



ちょっ、嘘じゃないよ。マジでマジで。
ぐぐったら一発だから。ラゾーナの日曜の朝は太極拳から始まるんだから。


でもそんなことその場に並んでいた連中は知らなかった。

何事かとクスクス。僕は寒くて鼻水垂らしていたからグズグズ。


こちらを気に掛けつつもいつものかどうかは知らないメンバーで太極拳が始まった。

あはは、なんて見てたけど、ふと気づくと並んでる連中もチラホラ参加してた。

僕はオシッコを我慢していた。



やがてスタッフたちがいっぱい来て、うわーつって、紆余曲折、東奔西走、なんやかんやあってCD予約券を買うための列が出来て予約書くための紙が配られた。


んで、ここへ来て僕はビビった。

僕の穢い手をあんなにも綺麗な子に何度も握っていただくというのは図々しい!
おこがましいにも程がある!恥を知れ恥を!!
てか一度で死ぬわ俺!二回目まっすぐ立ってられる自信ねえわ!崩れ落ちる自信あるわ!

って。



だもんで、初回版B一枚、とだけ記入した。六時間並んで。

O氏と森田くんは二枚とか三枚だったかな?


でもその時は本当に楽しみな気持ちしかなくてウキウキだった。
というか、まだアイドルと握手できるなんてこの段階でも信じてなかった。

そしたら森田くんが小声で囁いた。


「前の人、80枚ですって」



ええええーーーーっ!!!!??



「マジかよ!すげえな!」

つい大声上げちゃったからすぐに慌てて両手で塞いだ。

「あいでゅーあいって……!」



世の中は広いなと思った。一ヶ月後にはなんとも思わなくなってたけど。

まあ、その人の80枚によるかどうかはわからないけどCD予約券は売り切れた。



で、無事握手券を入手したバカ三人。
さて、これからどうしようとなり、僕がでかいモニターを指差した。

「あの真上だったら絶対見てくれるよ」


今思い返すと何とも愚かな失敗であったことか。
あの段階ではステージ前のブロックしか形成されてなかった。
通路を挟んで後ろのブロックのどこかの前の方はまだ余裕で取れた。
しかし経験の浅さ故、そんなことには頭が回らなかった。

まあ、今更悔やんでも仕方ない。
それに失敗ではあったが、個人的には正解だった。


そして五階のモニターの真上を陣取った。

上から見てたからどんどん人が増えていくのがわかって面白かった。
ライトセーバー背中に差した人やら旗立てた兜帽子に甲冑エプロンの人やら、ド派手な格好した人が一般の家族連れのお客さんにおもっくそ振り返られたり。

本当あっちゅーまに人が増えていき、広場をぐるりと囲むガラス柵は埋めつくされた。

僕はその前の月に同じ場所でTMレボリューションのフリーライブを観たけど、そんなん比べものにならないくらい人がぎっしり詰まってた。
テンション上がって、何度かその場でピョンピョン跳ねた。無駄に通路を小走りした。


O氏がどっか行って、森田くんがトイレに行った。
そしたら、その空いたスペースに金髪グラサンいかついアンちゃんがベビーカー押しながら入ってきた。もちろんビビった。

しかし、ここで彼らの場所を取られるわけにはいかない!
10数時間の付き合いとはいえ、彼らはたしかに仲間なのだ!

自らにそう言い聞かせ、僕は僕を鼓舞して声をかけた。

「あ、あのー、そこ、人来るんで」

「おう」


……おう?
ど、どうしたらいいんだ。これは想定外だ。

と、戸惑っているとアンちゃんが尋ねてきた。

「すげーなこれ。誰来んの?」

「ももいろクローバーZっていうアイドルグループです!」

「え?なに?」

「ももいろクローバーZっていうアイドルグループです!」

「はぁー、アイドルねえ。すげーな」


彼は首を何度も傾げながら去って行った。


やった!やったぞ!!

僕は胸に小さな達成感を覚えていた。

空白のほにゃららサン

11月、南武線始発ホームは寒い。
しかしバカ三人はテンション高く、暑いくらいだった。いや嘘だけど。
僕の平熱は35.5℃だ。


交わす言葉も少なく、始発で川崎ラゾーナに到着。


そしてその場に広がる光景に驚いた。
既に50人ほどが地べたに座っていたのだ。
いや、正確には50ほどの影だ。
まだ五時前なのに。まだ真っ暗なのに。


って、まあ実はツイッター見てたんで知ってたんだけど。
そして知っていたことがもう一つ。

列が二つあるということ。


どうやらフリーライブ観覧待機と握手券付きCD販売列の二つ。
(実際は観覧待機はステージの前に陣取っていたから列ではなかったが)


「どっちに行きますか?」

始発に揺られながら森田くんは僕にそう尋ねた。


僕は悩んだ。悩んだ。

O氏も横で頭を抱えていた。


「俺は二人に合わせますよ」
最少年はあろうことか権利を放棄した。


「ぐう」
そう一言呻き、O氏は本当に頭を抱えていた。

一言で言うと彼は最前厨であった。
最前厨とはその名の通り、ライブを最前で観ることに必死な人を指す。

無理もない。彼は最前で観た初ライブでれにちゃんに魂を抜かれて紫推しになったのだから。

ももクロメンバーそれぞれライブでのレス(反応)の仕方は違う。
細かくはここでは省くが、れにちゃんはとにかく前の方にいる人へバンバンかましてくるのである。

だからこそ前日れにちゃん抜きのライブはO氏には堪えたのだ。


「もちろんライブ観たいけど、でも最前じゃないし、れにちゃんがいないんだったらなぁ……昨日の今日で出てこないだろうしなぁ……」

O氏は苦悩していた。
僕は彼の苦しみを一刻も早く何とかしてやりたいと思った。もちろん嘘だが。

「じゃあさ、CD並ぼう。僕、握手したことないからしてみたいし」


こうして字に起こすとなんとも幼い台詞だなぁ……。



そんな訳で僕らはライブ待機組を横目にCD列に並んだ。
今だと絶対ライブ待機するのだが、この時の僕は前回の記事にもあるように浮かれていたのだ。


僕をどん底から救ってくれたアイドル。

画面でしか見たことのなかった女の子たち。

昨日目の前で汗だくでキラキラしながら歌って踊っていた彼女ら。


そんな存在と握手だなんて!
僕ごときがあんなにも眩しい子たちに触れることができるなんて!!


そう思っていた。本気で。


「あと六時間ですね」

森田くんが呟いた。

僕は小さく頷いた。



すごくかっこつけた顔で。