空白のほにゃららヨン | マクガフィン探索記

空白のほにゃららヨン

空が明るくなってきたと同時に気温が下がり、僕は首をすくませた。

既に僕らの後ろにも100人くらい並んでいた。

列が何度か整理され、その度に前後の間隔が狭くなった。



そして、太極拳が始まった。



ちょっ、嘘じゃないよ。マジでマジで。
ぐぐったら一発だから。ラゾーナの日曜の朝は太極拳から始まるんだから。


でもそんなことその場に並んでいた連中は知らなかった。

何事かとクスクス。僕は寒くて鼻水垂らしていたからグズグズ。


こちらを気に掛けつつもいつものかどうかは知らないメンバーで太極拳が始まった。

あはは、なんて見てたけど、ふと気づくと並んでる連中もチラホラ参加してた。

僕はオシッコを我慢していた。



やがてスタッフたちがいっぱい来て、うわーつって、紆余曲折、東奔西走、なんやかんやあってCD予約券を買うための列が出来て予約書くための紙が配られた。


んで、ここへ来て僕はビビった。

僕の穢い手をあんなにも綺麗な子に何度も握っていただくというのは図々しい!
おこがましいにも程がある!恥を知れ恥を!!
てか一度で死ぬわ俺!二回目まっすぐ立ってられる自信ねえわ!崩れ落ちる自信あるわ!

って。



だもんで、初回版B一枚、とだけ記入した。六時間並んで。

O氏と森田くんは二枚とか三枚だったかな?


でもその時は本当に楽しみな気持ちしかなくてウキウキだった。
というか、まだアイドルと握手できるなんてこの段階でも信じてなかった。

そしたら森田くんが小声で囁いた。


「前の人、80枚ですって」



ええええーーーーっ!!!!??



「マジかよ!すげえな!」

つい大声上げちゃったからすぐに慌てて両手で塞いだ。

「あいでゅーあいって……!」



世の中は広いなと思った。一ヶ月後にはなんとも思わなくなってたけど。

まあ、その人の80枚によるかどうかはわからないけどCD予約券は売り切れた。



で、無事握手券を入手したバカ三人。
さて、これからどうしようとなり、僕がでかいモニターを指差した。

「あの真上だったら絶対見てくれるよ」


今思い返すと何とも愚かな失敗であったことか。
あの段階ではステージ前のブロックしか形成されてなかった。
通路を挟んで後ろのブロックのどこかの前の方はまだ余裕で取れた。
しかし経験の浅さ故、そんなことには頭が回らなかった。

まあ、今更悔やんでも仕方ない。
それに失敗ではあったが、個人的には正解だった。


そして五階のモニターの真上を陣取った。

上から見てたからどんどん人が増えていくのがわかって面白かった。
ライトセーバー背中に差した人やら旗立てた兜帽子に甲冑エプロンの人やら、ド派手な格好した人が一般の家族連れのお客さんにおもっくそ振り返られたり。

本当あっちゅーまに人が増えていき、広場をぐるりと囲むガラス柵は埋めつくされた。

僕はその前の月に同じ場所でTMレボリューションのフリーライブを観たけど、そんなん比べものにならないくらい人がぎっしり詰まってた。
テンション上がって、何度かその場でピョンピョン跳ねた。無駄に通路を小走りした。


O氏がどっか行って、森田くんがトイレに行った。
そしたら、その空いたスペースに金髪グラサンいかついアンちゃんがベビーカー押しながら入ってきた。もちろんビビった。

しかし、ここで彼らの場所を取られるわけにはいかない!
10数時間の付き合いとはいえ、彼らはたしかに仲間なのだ!

自らにそう言い聞かせ、僕は僕を鼓舞して声をかけた。

「あ、あのー、そこ、人来るんで」

「おう」


……おう?
ど、どうしたらいいんだ。これは想定外だ。

と、戸惑っているとアンちゃんが尋ねてきた。

「すげーなこれ。誰来んの?」

「ももいろクローバーZっていうアイドルグループです!」

「え?なに?」

「ももいろクローバーZっていうアイドルグループです!」

「はぁー、アイドルねえ。すげーな」


彼は首を何度も傾げながら去って行った。


やった!やったぞ!!

僕は胸に小さな達成感を覚えていた。