かっぱのテキト~お気楽裁判傍聴記 -4ページ目

第6号法廷 怪盗イニシャルP

  自分は窃盗事件を傍聴するのが好きである。開廷表には罪名「窃盗」しか記されておらず、果たして被告人は何を盗んだのか?そして、なぜ犯行に及んだのか?は、公判が進むに連れて明らかになっていくのが面白いからだ。この日も、窃盗事件を傍聴することにした。というか、それ以外に選択肢がなかったのだけど。さすが奈良地裁!

  被告人が例のごとく戒護係に連れられて入廷してきた。もちろん両手には手錠に腰縄。初傍聴の時、手錠が銀色ではなく黒いことに驚いたのをよく覚えている。被告人Pは55歳。ホワイトジーンズにジージャン。茶髪で襟足が長い。サーフィンの似合いそうなダンディな男だった。例えるなら岩城滉一を萎ませた感じである。さて、この岩城滉一似の男はいったい何を盗んだのか?検察官の起訴状朗読および冒頭陳述によって明らかにされていく。

  やっぱりこれだけダンディなのだから、それなりのものを盗んでるんだろうなあと勝手に妄想し興味津々でいると、検察官から「女性の下着7点」の窃盗を二件、起訴されてる旨が読み上げられた・・・。単なる下着泥棒だったのかと、自分の妄想をいとも簡単に否定された思いで、腹立たしさにかられていたわけだが、しかし、これはまだまだ序の口だったのだ。

  Pは立件された2件以外にも、下着泥棒を実に30件も犯していた。しかも、ほんの数ヶ月の間に・・・。週に2、3回のペースとなるわけだから、もはや日課レベルである。盗品である下着はPの自宅のロフトから発見されたそうだ。その数、実に1300点!!検察官の口から連呼される「多量の下着」。しかも、公判が進む中で「1400点」「1500点」とどんどん増えていく下着の数。あまりにも多すぎて、誰も正確な数字を把握してないんじゃないかろうか・・・。この事件、実はネットニュースにもなったそうで、帰宅して調べてみると・・・体育館いっぱいに敷き詰められた下着の画像が添えられて「押収数3000点」。3000点!!驚愕である。もはやどの数字が正しいのか判断しかねるが、驚異の4桁越えは間違いないところだろう。Pには息子や娘もいて、彼らも新聞どころかネットでも話題となり、恥ずかしいと言われたそうだ。当然である。もはや岩城滉一似のダンディな男とは到底思えず、僕の中で彼をパンティーマンと名付けた。察していただいたとおり、被告人PのPとはパンティのPである。

  さて、もはや国内屈指の下着コレクターレベルの域に達する被告人Pであるが、彼は少年時代から窃盗を繰り返しており、窃盗で逮捕歴が4回もある。しかし、いずれも生活苦に困った末の金品窃盗である。つまり生粋の下着泥棒というわけではない。では、何が彼をそうさせたのか?きっかけは彼女と別れたことである(妻は離婚したのか、鬼籍に入ってるのか分からず)。彼女と別れて数ヶ月経過したのち、性欲のはけ口を目的に、初めて下着泥棒に手を染めることとなった。その後、自転車で通ってるときに目についたら盗むのを繰り返した。しかし、それだけでは、数ヶ月で4桁越えは到底無理である。では、どうしたか?Pは夜逃げしたアパートに忍び込み、一回に4,500枚も盗み出すという荒稼ぎしていたのだ。そしてつもりつもって、あの驚異の数字を叩き出したのだ。

  今回立件された2つの事件について戻ろう。一つはなんと同僚に家に盗みにはいったのだ。しかも、同僚だと分かった上での犯行。なんて大胆な。もう一つは、父親の墓参りの行きがけの駄賃で下着泥棒。なんて罰当たりな。この日のPのスケジュールは「父の墓参り→山菜採り」の予定だった。しかし、墓参りにいく途中にある家のベランダに干された女性下着が目に入り窃盗を決行。下着をポケットに詰め込んだまま、墓参りへ行くこととなったので、「下着泥棒→父の墓参り→山菜採り」という常識では考えられないスケジュールとなった。しかしながら、P曰く、やましさから山菜採りを中断して帰宅したそうだ。自分なりに情状酌量をアピールするP。だがしかし、「やましいなら墓参りの途中で帰りなさい!」と弁護人から怒られる。ごもっともである。

  証人としてPの姉が出廷していたが、今回の逮捕は要介護者である母には伝えてないそうだ。当然である。同じ窃盗でも下着泥棒となれば、ショックの度合いが段違いである。度重なる窃盗逮捕の末に、今回の一件で、援助はこれが最後だと、姉に最後通牒を突きつけられたP。パンティーマンの明日はどっちだ?って、考えるまでもなく、パンティー無き刑務所である。