かっぱのテキト~お気楽裁判傍聴記 -6ページ目

コラム② 癒しと裁きの交差点―奈良地裁

  某日五月晴れ、今までホームグラウンドを奈良地裁に置いていたのだけど、遂に大阪裁判所を初体験。奈良地裁とは比較にならないほどに扱ってる件数が多く、しかもいくつもの案件が同時に開廷している。奈良地裁なんて、法廷はせいぜい5室ほどしかないし、この日ももともとは奈良地裁で傍聴するつもりだったのだけど、なんと刑事裁判の開廷予定がなかったのだ。この予想外の出来事が後押しとなり、初めて大阪に足を運ぶこことなったのである。

  大阪裁判所の正面玄関を入ってすぐのところに、その日の開廷スケジュールが地裁・高裁・家裁別にファイルされて置かれている。もちろん規模の小さい奈良裁判所には、こんな気の利いたファイルはない。各スケジュール表がそれぞれの法廷前の掲示板に貼りだされているのみで、傍聴人が足を使って全ての法廷を巡回し、チェックするのである。一見、面倒くさそうだが、法廷は5つしかないし、1階と2階を行き来するだけで事足りるので、労力らしい労力を要しない。だからスケジュールファイルは不要なのである。しかしながら、初めて訪れたときはそんなことを知る由もなく、「初めての傍聴」的なハウツー本で前勉強をして乗り込んだ僕は、当然ながら奈良にもスケジュールファイルがあるのだろうと思いこみ、ないものを探すはめになった。キョロキョロとあたりを見渡しながらエントランス付近をうろつく姿は、あまりにも怪しすぎたことだろう。実際に、僕がペットボトルを法廷に持ち込んでいたのを見ていたロビーの案内係が、わざわざ法廷内までやってきて、「開廷したら飲食だめだよ」と教えに来てくれた。完全に傍聴ビギナーだと看破され、目を付けられていたのである。

  それにしても、取り扱い件数が多いというのは、選り取りみどりに見えて、かえって面倒である。罪状や被告名といった限られた手がかりだけでは、どれが「アタリ」なのか見当つけることすらできない。だからといって、スケジュールファイルを前にしてうだうだと悩んでいると、後ろにファイル待ちの列ができてしまい、そのプレッシャーに襲われることとなる。そんなこんなでテキトーに選ぶも、メモっておいた部屋番号が間違っていたらしく、さまよう羽目に陥った。結局、予定とは違う案件を傍聴。それに比べて、奈良地裁は楽なもんである。なにせ刑事裁判に限るのなら二択である。場合によっては一択。そもそも迷いすら生じないのだから。
かっぱのテキト~お気楽裁判傍聴記-no.2-2 かっぱのテキト~お気楽裁判傍聴記-no.2-1
  ここまで大阪裁判所の体験談を書き連ねた結果、対比される形で、奈良地裁の小ぶりっぷりが浮き彫りとなったわけだが、ここで一言宣言しておきたい。僕は奈良地裁が好きである。僕のようなど素人にとって、大阪裁判所は情報量が多すぎて、あっという間にオーバーフローを起こしてしまう。その点、奈良地裁は考える必要がない。施設の雰囲気も小型であるがゆえにアットホームである。さらに敷地内の芝生には奈良公園のシカがたむろってることもあり、癒し効果も抜群である。ただし、敷地内に遊びに来てるシカを撮影しようとしてはいけない。たとえ裁判所の内部を撮るわけでなくとも、たとえ屋外で撮ろうとしても、敷地内での撮影は禁止なのだから。ヘビーな案件を傍聴して帰る途中、入り口付近にやってきて、芝生をモグモグと食するバンビの一団と遭遇。あまりにも愛らしい、その姿に癒され、写メを撮ろうとしたら、「ちょっと、ちょっと。まだ敷地内だからダメだよ」と守衛から注意を受けた記憶は、まだまだ日が浅い・・・。シカを撮ろうとして注意を受ける。これぞ奈良地裁ならではのビギナーズ・ミステイクである。

  初めて傍聴する人には大阪よりも奈良の方をお勧めする。初めての体験で、ただでさえも緊張してるのだから、迷う要素が皆無の奈良の方が安心である。そして傍聴で疲れた心には癒しパワー満点、愛くるしいシカを。癒しと裁きの交差点・奈良地裁!きゃあああ最高!奈良、最高!たまに刑事事件を扱ってないときがあるけど、それはご愛敬。取扱件数の少なさも込みで奈良地裁ラブ!

  このようにお気に入り裁判所を見つけるのが、傍聴の第一歩なのかもしれない。