
「闇金ウシジマくん」の真鍋昌平による原作、脚本・根元ノンジ、監督・土井裕泰、ドラマが得意なTBSによる制作協力、となかなかの布陣。ここに柳楽優弥が主演ときたら、観ないわけにはいかない。
柳楽優弥は地上波、配信問わず最近時魅力的なキャラクターを演じている。
「ガンニバル」の阿川大悟、「ライオンの隠れ家」の小森洸人と、キャラクターの作りこみが凄い。そして本作の九条間人。それぞれどの役も人間的な魅力にあふれている。日本で最も好きな俳優の一人だ。
社会的弱者の弁護を一手に引き受けると書くと、人権派弁護士というワードが頭に浮かぶ。しかし九条はそんな言葉に疑問を呈する。「人権派っていうけど、弁護士はみんな人権派ではないですか?」
そんな九条が弁護するのは、社会的弱者といってもいわゆるヤクザ、半グレなど反社勢力まで含む。誰でも一律33万円で弁護を請け負うのだが、そんな彼を世間では悪徳弁護士と呼ぶ。
法律というものは、劇中で九条が言うように「誰にでも平等」であるべきだ。
弁護士が検事や判事と違うのは、悪人にも唯一寄り添うことのできる存在であること。道徳と法律は切り離して考えないといけないというのをわかっていても、一般的には悪事を働いたものを弁護する必要があるのか?となる。
だが、法律というのは極めて万人にとって中立なものであり、ある側面では有利に働くものが別の側面では不利に働いたりする。九条が言うセリフにそれらが凝縮されている。
「弁護士はある人を救ったら、ある人が不幸になる」
それが法律というものだ。タイトルの「九条の大罪」にある「大罪」とは何か?それは、最終話で九条が弁護士でバディの烏丸真司(松村北斗)に対し言うセリフ、「悪人も誰かが弁護しないといけない。その結果、誰かが不幸になるとしたら、自分がその罪を引き受ける」と言う覚悟を告げる。それが九条にとっての大罪なのだ。
なぜ九条がこれほどの覚悟を抱くまでになったのか、は本作では明かされていない。
弁護士生命と自らの命を懸けた九条の生き様こそが、このドラマの真のテーマであると考える。
ただ本作は法律ばかりが前面に押し出されているわけではなく、法律というものが人の立場によって姿や見え方が変わるのと同じように、本作のクセ強なキャラクターたちもまた、見る角度によって評価が変わることに気づく。
表向きは自動車整備工だが、その正体は半グレを束ねるカリスマ的存在の壬生憲剛(町田啓太)。
愛娘(田辺桃子)を半グレに殺され、執念の捜査を続ける刑事・嵐山義信(音尾琢真)。
九条の兄で絶対正義を信じるエリート検事・鞍馬蔵人(生田斗真)。
皆、自分の信じる正義を貫こうとして生きているのだが、それは他者から見た時に果たして正しい生き方なのか。
世の中は善と悪できれいに区別できるものではない。誰一人として同じ人間がいないということは、まったく同じ考え方や価値観も存在しないということ。だからこそ法律が存在し、人々を最適解へと導く光となる。
そういった概念をベースに、各話では人間社会の答えの無いエピソードが綴られていく。
1話「片足の値段」
後味悪い話ではあるが、このお話で九条という弁護士の本質が少し見え隠れする。
2・3話「弱者の一分」
曽我部というやや精神薄弱な青年とその父親の物語。二人とも強者に食い物にされる社会的弱者であるが、九条の粋な優しさで親子を地獄の淵から救い出す。 出演:黒崎 煌代、水澤伸吾、原田泰雅
4・5話「家族の距離」
おそらく現代社会の片隅でたくさんの人が遭遇している問題、親の介護で苦労してきた一人の女性に、九条が優しく手を差し伸べる。 出演:渡辺真起子
6・7話「消費の産物」
家族の愛から見放された少女がAV業界で生きていくことを決めたが、人権派弁護士の手に寄ってその道を絶たれた結果、殺人をおかしてしまう悲劇。これこそまさに誰かにとっての正義は誰かにとっての不幸になるという、この作品のテーマが色濃く表れているエピソード。 出演:石川瑠華、香椎由宇、長谷川忍、うらじぬの
8話・9話「事件の真相」
嵐山刑事が主人公のお話。彼の正義もどこか狂気に満ちている。その正義は誰も幸せにしない可能性がある。しかし法律では裁けない悲劇があるということに、人間的な感情が邪魔をする。 出演:田辺桃子、森田想
最終話「暴力の連鎖」
すべてが明らかにならないまま、お話が終わってしまう。シーズン2に期待ということか。
その他出演者は、岩松了(この人の存在感は稀有)、後藤剛範(来ました、今後こういう役が増えるかも)、水沢林太郎、吉村界人(もうヤラレ役と言えばこの人!)、田中俊介(狂暴な役が凄い)、光石研、仙道敦子、ムロツヨシ(ヤクザ役、いいです)と、豪華なのだが、過剰キャストになっていなくて、それぞれが持ち場で光っているのは作り手の手腕だろう。
石川瑠華、森田想ら若手女優の熱のこもった演技、渡辺真起子の円熟の演技も見どころ。
中でも石川瑠華は、本作出演の女優さんの中でも光っていた。

石川瑠華。彼女は以前から注目していたが、このエピソードでは圧倒的な存在感を見せつけた。
彼女をの良さを上手く引き出す監督に早く出会ってほしい。
また池田エライザ演じる薬師前仁美は、松村北斗演じる烏丸とともに、悪意にまみれて殺伐とした登場人物の多いこの物語において、極めて普遍的な良心の持ち主として、観る側の不安感を中和してくれている。

池田エライザ。薬師前仁美というキャラは、きっと彼女なりに色々考えて作りこんだのであろう。
ただの脇役ではない、物語における良心という希望の光を体現している。
町田啓太の半グレ役も見もの。シュッとした男前で時代劇でも映える彼ならではの悪の美学が光っている。
音尾琢真の演技も素晴らしい。人間には様々な顔がある、というのを実に泥臭く見せてくれる。
最終話で烏丸が「(これから困難に立ち向かっていく九条にとって)私は必要ですか」と問うた言葉に対し、「必要、ありません」と一呼吸おいて返した九条。
この一呼吸に、九条の逡巡があったと見る。烏丸のことを認めているからこそ、これ以上未来のある若者を危険な世界に置くわけにはいかない、という九条の優しさがそこにはあった。
九条のそっけない返事を聞いてすぐに「わかりました」と答え、これまでの礼を伝えて去っていく烏丸。
若いから、なのか。それとも九条の気持ちを理解した彼なりのアンサーだったのか。
シーズン2が楽しみである。