春ドラマで最初にこれは観ないと、と思った作品がこれだった。
黒木華の久々の連ドラ主演作、蛭田直美の脚本、関テレ・佐野亜裕美プロデューサー、とこれだけ安心材料が揃えばもう名作の予感。そして期待通りのできあがりとなっていた。
黒木華という女優さんは絶対に映画映えする人だと思うが、ドラマでも安定感がある。コメディもシリアスもそのミックスも、難なくこなし、華のある役も地味な地味子もちゃんと演じ切る。そばにいて一番安心するタイプの女性というキャラが、今回の主役である星野茉莉にドンピシャにハマっていた。
黒木華。一度お会いしてお話してみたい女優さん。「凪のお暇」が最高でした。
蛭田直美は、おそらく一番好きな脚本家だろう。最近では坂元裕二より好きかもしれない。「これは経費で落ちません!」「しずかちゃんとパパ」「舟を編む」など、どれも心に残る作品であり、油断しているとほろっと泣かされる。彼女の作品はどれも弱者や敗者に対する優しい眼差しに満ちている。それというのも彼女自身が生まれつき左耳が聞こえない、という人生を歩んできているからだろうか。
彼女の作品は「ことば」にハッとさせられることが多い。「舟を編む」でも今回の作品でも、演者が語る一言にぎゅっと心を掴まれることが多い。「しずかちゃんとパパ」では、ろうあ者の父と娘の間での会話は手話だが、字幕の言葉に何度泣かされたことか。
「銀河の一票」でも、月岡あかり(野呂佳代)たちが口にする言葉に、うるっと来ること多数。
作中、様々な人間によってリレーのように引き継がれた「きれいごとではなく、きれいなこと」という言葉も胸に刺さる。
蛭田直美は言葉のマジシャンのような脚本家だ。それは坂元裕二のような軽妙で洒脱だが、深いというものとはタイプが違う。
不意に胸にグサッと突き刺さるけど、決して痛くて辛くはない。麻酔のようにふわっと優しい気持ちになれる。
そんな彼女の脚本を演じる役者さんも、そういうタイプがキャストされている。多部未華子、吉岡里帆、池田エライザ、そして黒木華。見事である。
そして関テレの佐野亜裕美プロデューサー。キー局のフジのドラマがかつての栄光はどこへやらの凡庸な作品しか作れなくなっている中で、関テレプロデュースのドラマは力作ばかり。今回も敬意を表してネットチャンネルではフジではなく、敢えて関テレチャンネルで視聴した(自己満足だが、、、)。
本ドラマを観ている中で、TBSのドラマ「御上先生」でキーワードとして語られていた、「個人的なことは政治的なこと(The personal is political)」と言う言葉を思い出した。大物政治家・星野鷹臣(坂東彌十郎)の娘であり秘書の茉莉が、父からクビと絶縁を言い渡されて路頭に迷い、スナックのママをしている包容力の塊のような月岡あかりと出会うドラマの1話。あかりのスナックに行き、そこで常連客と対話するシーンで、政治とは一人一人の問題であり、一人の人間の問題を解決するためにあるのが政治である、という本ドラマのテーマが提示される。
政治は決して「大衆」という不確かなもののためにあるのではない。一人一人の人間の人生、生活に繋がるものでなければならない。無論、それは理想論に過ぎないのかもしれないが、そもそもの政治の根っこを忘れてしまっては政治というものの存在意義を失ってしまう。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」がベースにあるという本作品だが、すべての人が幸せになるという理想は、たとえ実現するのが相当難しいとしても、政治に携わる者にとって捨ててはならないものなのだと。
最終話で茉莉の幼馴染で星野鷹臣の秘蔵っ子である政治家の日山流星(松下洸平)の選挙演説シーン、茉莉が母(本上まなみ)からもらった宝物のライトを高くかかげ照らすと、聴衆が次々とスマホのライトを照らしてゆき、やがてそれは宇宙の銀河のような美しさとなって広がっていく。一つの光がたくさん集まり明るい銀河となるこのシーンは政治の本質を映し出していた。大衆は決して不確かな存在ではなく、一人一人の人生、生活の集合体なのだ。
最後の最後に、物語のテーマを美しい表現でさりげなく提示する蛭田脚本に思わず涙してしまった。
これはジーンと来ました。
黒木華の主役としての存在感に加え、バイプレイヤーとして大活躍の野呂佳代が準主役でも輝きを放った。次は主役もできるのではないか、と思うほどの表現力を備えている。
松下洸平はいつまでも青臭い役が似合う役者であってほしい。秘書を演じた倉悠貴も松下を喰うほどの存在感を発揮していた。
また、関テレといえば名バイプレイヤーにスポットを当てるのが上手いことで有名だが、「エルピス」での岡部たかしに続いて、本作では岩谷健司の起用が素晴らしかった。好きなバイプレイヤーだったが、この作品を機にただのバイプレイヤーではなく、その上のクラスで活躍してほしい。
その他出演者は、三浦透子、岩松了、木野花、小雪、堀部圭亮、渡邊圭祐、シシド・カフカら良い役者が脇を固める。
また「侍タイムスリッパ―」が素晴らしかった山口馬木也がすごできの秘書役で出演。侍から現代風イケオジに変貌していたが、すぐに彼とわかった。
ゲストには伊勢志摩、望月歩、宮地真緒、根本真陽ら。
根本真陽は月岡あかりが養護教諭だったころに関わった、物語のキーになる少女を演じている。最初観た時になかなかいい演技する子だと思って調べたら子役の頃から注目していた彼女だったと知ったが、すっかり大きくなっていて気付かなかった。
演技力と存在感は本物なので、これからの活躍に期待。
また本作はレジェンド的な存在のアニメ声優さんが出ている。日髙のり子、梶裕貴、最終話にちょい役で富永みーななど。
茉莉とあかりの選挙の手伝いで、獅子奮迅の活躍をする介護士役で出ていた伊能昌幸は存在感あり。見たことあるなと思ったら、阪元裕吾の「ベイビーわるきゅーれ」で出ていた。京都芸術大学卒で坂元裕吾、黒木華と同窓だ。独特のキャラクターでアクションもできるので、今後活躍を期待。
政治がテーマだとなかなかとっつきにくいかもしれないと、キー局は手を出さないところをさすが関テレ、素晴らしいスタッフで極上のエンタテインメントに仕上げてきた。
オープニングテーマはNHKの「あなたのブツがここに」を彷彿させる、関西的なノリのダンス&ミュージックで、この演出も重いテーマを軽やかなムードにしており秀逸。
毎週ブツ切れにして観るよりも、これはできれば一気見したかった。そんな完成度の高いドラマでした。