一枚の写真があります。
もう25年ほど前の写真。
ギターを弾く人の指。
さだまさしさんの指です。
さだまさしさんのコンサートツアーのパンフレットを作るにあたって、
あるカメラマンの方に、初めて撮影をお願いしました。
齊藤文護(さいとうぶんご)さん。
当時、広告写真などで活躍されていて、業界ではとても有名な方。
紹介してくれた知り合いは、
「大先生!」
と呼んでいたので、まだ若かった私としては、
「気難しい方だったりして…」
と構えてお会いしたのですが、とんでもない。
笑顔が本当に素敵で、気さくで、お会いした瞬間から打ち解けられるような方。
どんなお願いや、相談をしても、
「いいっすよ!」
「面白そうですねえぇ。」
「いいですね、やりましょう!」
と、全肯定で受け止めてくださいます。
ガハハと大声で笑いながら、重たいカメラをかかえて、フットワーク軽く歩かれる。
一緒に仕事をさせてもらうだけで、楽しく、
きっといいパンフレットが出来そうな予感がすぐにしてきました。
パンフレット用の写真をスタジオで撮影する日。
さださんにギターを持ってもらったり、ヴァイオリンを弾いてもらったりと、いろんなカットを撮る予定でした。
照明のセッティングが終わって、さださんに入ってもらいます。
「さださん、齊藤と申します!今日はよろしくお願いいたします!」
齊藤さんがあの笑顔で挨拶されます。
「さだです!こちらこそ!齊藤さん、ひとつ、いい男に、お願いします!」
「もちろんです。さらに!いい男に撮らせてもらいます!」
なんて具合に、もう呼吸がそろっているお二人。
まずは私が、
「じゃあ、まさしさん、最初はギター持って、そこに座って、まずはなんとなく弾いていてもらえますか?」
とお願いすることから撮影が始まりました。
ギターを弾くさださんに、齊藤さんはたまに近づいたりしながら、シャターを押し続けます。
スタジオ照明が作り出す綺麗なシルエットの中で、とてもいい感じに撮影が進みます。
ワンカット目は、すぐに終了。
私がさださんに、
「じゃあ、ギターはいったんもらいますねえ。」
と近づこうとした時、齊藤さんが、
「あ、ちょっと待ってください!私いいもの見つけて!さださん、そのままで、指、撮らせてください!」
「指?」
齊藤さんが、さださんに近寄って、さださんの左手にレンズを向けます。
「弦の跡、くっきりなんですね。それいいですねえ。」
と齊藤さん。
「ああ、もう指先カチカチなんですけど、僕のギターの弦は一番硬いのを使っているんで、何年弾いてもこうなります。」
とさださん。
「いいなあ、かっこいいなあ、指が語ってますねえ。ミュージシャンの指ですね。いただきます!」
「指を撮られたのは初めてかなあ(笑)。」
そんな風に生まれたのが、この写真です。
その頃すでに、デビュー18周年を超えて、コンサートもソロになってから2,000回に達しようとう時。
ギターを弾きながら歌を綴り、旅を続け、唄い続けてきた、ミュージシャンの指先。
一枚の写真が数知れぬ物語を語っているかのように思えました。
この一枚の写真を見て、コンサートパンフレットも、そして新しいコンサートツアーも、素晴らしいものになると確信しました。
齊藤さんはそんな風に、
普通は見逃してしまいそうな素晴らしいこと。人や、世の中の。
それを見つけて、私たちに見せてくれる、素晴らしい写真家です。
そんな齊藤文護さんの写真展が開かれています。
2月19日まで、
有楽町のマロニエゲート銀座2(旧・プランタン)の4階で。
昨日私も行って参りました。
(この写真もありませんし、さださんの写真展ではありません・笑)
「なんか、急な話で、写真展することになっちゃって、即席なんですけど(笑)」
と、齊藤さんは言われますが、一枚一枚に息を飲みます。
(流れ星!「たまたま撮れちゃって」って、齊藤さんは笑うけど…)
(いつでも誰でも受け入れてくれる笑顔!)
また、壁一面に、ごく普通の人たちが、ただ笑っている写真が並んでいたりします。
涙が出そうになるほど、素敵な笑顔ばかり。
「僕はねえ、みんなが持っている、素晴らしいこと、しあわせ、世の中にある、素晴らしいこと、それを撮りたいんですよ。」
まさに、写真を通して、この世の中すべてを「ほめる方」なんだと思いました。
齊藤さんは毎日21時まで、お弁当持って詰めているとおっしゃっていました。
ぜひ、齊藤さんの作品と、齊藤さんに会いに、
おでかけくださればと思います。
今日もイイ日に。