注記の書き方 | matsui michiakiのブログ

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横浜市立大学名誉教授
専門は19世紀フランス社会経済史です

注記の書き方 ― なにを注記にまわしたらよいか
   
以下は、大学入学試験の小論文で考慮すべき事柄ではなく、大学卒業論文や大学院修士論文や博士論文で必ず踏まなければならない文章作法上の重要な要件である。このことも意外に知られていないため、敢えてここで紹介しておくことにする。
 
原則
■     本文で書くには内容が細かすぎるとか、執筆者の個人的な見解であるとかの理由で、本文中におくと文の流れを悪くするときは注にまわす。昔の本などにしばしば見られる例だが、本文中に(  )を設け、その中で説明する――これを「割注」という――方法もある。しかし、これでは文の流れが悪くなる。それを避けるため、別の部分に注を集めるのである。
 
■     注を設ける目的は、後進の者が該論考を追跡し、執筆者の問題設定・資料選択・資料分析・推論などが適正におこなわれているかどうかを吟味できるようにしておくところにある。注の有無は、それが学術論文であるかないかを分ける指標となる。
 
■     注には脚注、節注、章注、巻末注の別があるが、パソコンでワープロ機能が進化し自動的に番号がふれるようになった現在、脚注のほうがよいだろう。なぜなら、脚注であれば、読者は同ページの下ですぐにそれを見ることができるからだ。
 
■     注と本文の分量の割合をどうするかについてだが、注は最大でも本文の3分の1程度にとどめたほうがよい
 
■     本文は原則的に10.5ポイント文字で、注は9ポイント文字を使う。なお、論文では注の文字をゴチック体や飾り文字などにする必要はない。
 
(1)事項の出典を示す場合―この場合が最も多い―
①著者、②書名、③出版地(和書のときは出版社)、④出版年、⑤総ページ数、  ⑥出所のページの順になる。なお、⑤は省いてかまわない。
 
 雑誌または著書から引用する場合:著者名→論文名→収録雑誌(著書)名→巻・号→出版地→出版年→総ページ数→出所のページの順になる。
 
 和文または和訳本を使う場合:原著者(カタカナ表記)→翻訳者→書名→~[以下、上記に同じ]
 
 和文書籍は『 』で、論文は「 」で標記する。標記順は「論文」のほうが先である。洋書の場合、書籍はイタリック体で、論文は明朝体で標記する。標記順も同じく論文が先になる。
 
 出典の特定のページを示すのがあまりに多い場合は、出典名を先に掲げ、「主に『 』に典拠した」と注記する。
 
  使用頻度が特に高い出典を標記するときには略記法を用いてかまわないが、その場合は必ず、目次の前に「凡例」のページを設け、「凡例」として略記法を解説しておかなければならない。
 
(2)用語解説をしたほうがよいと判断される場合
     一般にはなじみの薄い語や専門用語は注で詳しく説明する。短い語句での言い換えで済む場合には割注でもかまわない。
     俗語・方言・差別語を文章で使うのは避けたいが、どうしても原語にそのような記述がある場合や、特殊なニュアンスを表わすため使わざるをえない場合には注記でその旨を断わっておく。
 
(3)あまりにも細かすぎる例挙・例示の場合
     短い例挙・例示は割注ですますが、長くなるときは別注にまわす。
     本文中で例挙・例示する場合は2~3例ですまし、それ以上になるときは別注にまわして詳しく説明する。
 
(4)本文中におくと文の流れが悪くなる、話の脱線に類する事柄
     学術論文での脱線話は原則的に避けたい。しかし、敢えてこれを示すほうが読者の興趣を引き、深い印象を与えることが期待できると判断される場合は、別注で紹介する。
     脱線話はあくまで短いものにとどめたい。読者の感興をまったく引かないこともあり、脱線話は本来的に文章の品位を落とすものであるからだ。
・     ・ エピソード類も脱線話に入るであろう。
 
(5)筆者の私的見解で本文中に述べるのにふさわしくない場合
     本文で述べるにはまだ論証が不充分と思われる私的見解は仮の結論または今後の検討課題というかたちで別注において解説する。
     ただし、論証不充分とはいえ、当論文の核心部分にあたるときは、その旨を断わったうえ、本文で説明する。というのは、読者のなかには注記を読まない人もいるからだ。
 
(6)学会論争の類で、細かく紹介すると文の流れが悪くなる場合
     これは上記(1)に次いで重要な注記である。すなわち、研究が高度な内容になればなるほど論争の類は多くなり、それがその分野における研究レベルを引き上げるのに寄与する。それゆえ、論争に関する説明は学術論文で推奨さるべきものである。しかし、本文であまりに細かくふれると、文の流れが悪くなり、何が本筋であるかわからなくなる惧れがある。だから、本文では簡潔にすまし、細かい点を注紀にまわすのである。
 
(7)特定の著者や見解を特に取りあげて細かく論評する場合
   ・ 上記(6)とほぼ同じ理由による。本文中ではいくら重要な論点だからといって論敵をこき下ろすようなことは避けたい。それが、学術を心がける者どうしのエチケットである。
 
(8) 参考資料へのアクセス方法など、研究上の裏話の類
  ・ 研究の“楽屋裏”を示すことは後進の徒にとってきわめて示唆的である。こうし
      た話の公開(とくに失敗談)は読者を飽きさせることがない。また、資料へのア
      クセス法が明らかになれば、後進の徒にとってどれだけ有用であるかは測りしれ ない。