10月の消費増税を契機に財政運営改革への第一歩を~60年投資国債の提案~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

来年度政府予算の概算要求が8月30日に締め切られ、一般会計予算の総額は今年度当初予算比で3%増の105兆円程度と過去最高規模になるようだ。いつもながら、予算が増える最大の要因は、社会の高齢化とともに膨らみ、いまや一般会計の3分の1近くを占めるに至っている社会保障費。その財源は消費税収の全額を充てても大きく不足している。

先般の参院選でも争点となった本年10月1日の消費税率10%への引上げは予定通りに実施されるが、世界経済は不透明感を増している。前回2014年4月の8%への税率引上げは、あれだけ個人消費や景気を落ち込ませた、本当に実施するのかという声も消えていない。

●もはや避けられない今回の消費増税と景気の問題

ただ、前回と異なるのは、今回の消費増税による増収額(5.7兆円-軽減税率分1.1兆円)のうち、新たな給付増(社会保障給付の増加や教育無償化)に3.2兆円が回り、増税のうち7割が給付の形で国民に還元されることだ。それは前回の引上げ時は2割に過ぎなかった。

それは民主党政権下で決められた自公民の三党合意「社会保障と税の一体改革」のスキームだった。消費増税での増収分の8割が社会保障給付の増額ではなく、従来の社会保障に回ることで、その分、従来の財源が次世代の負担(赤字国債など)から現世代の消費税負担へと置き換わる。それが現世代にとっては国民負担の純増となり、景気を悪化させた。

今回このスキームを変え、増税分のほとんどが返ってくるようにしたのは、安倍政権の新機軸である。10月1日は増税の始まる日というより、給付がスタートする日…、私と松田政策研究所の動画で対談をした自民党の甘利選対委員長が、参院選の選挙向けに強調していた通りである。加えて、来年6月までの時限措置としてのポイント還元などの財政支出が2.3兆円。今回の国民負担増を打ち消してお釣りが来る計算になる。

逆にいえば、今回の消費税の増税によって新たに発生する国民負担の純増は、4.6兆円-3.2兆円=1.4兆円に過ぎないことになる。消費税収の4割弱は地方に回ることを考慮すると、国の毎年度の赤字国債の発行が減少する額は、1兆円を下回る計算になる。赤字国債の今年度発行額が約26兆円、発行残高が614兆円であることを考えると、今回の消費増税は財政再建にはほとんど寄与しない。

そうであっても毎年度入ってくる恒久財源の確保のため、政府は今回の増税の円滑な実施に何でもあり、小売店でのポイント対策やレジ対応への支援策も含め、必死のようだ。

確かに、全体的な数字の上では景気への影響はゼロでも、教育無償化など給付増の恩恵を受ける人は国民の一部であるのに対し、「買物の1割もが税金に!」は国民全員が直面する事態であり、消費マインドに大きく響くとされる。また、気づいている人が少ないのが公明党が押し込んだとも言われる軽減税率の問題だ。

もともと、非課税である医療では価格転嫁ができないとして病院側が「損税」として問題視してきたものだが、今回、食料品を売っている業者は売上で8%しかとれないことになる。仕入れの中には10%になるものも多く、中小零細事業者には特に資金繰り面で大打撃になると指摘する向きもある。

また、海外要因も大きなリスクである。高まる米中貿易戦争、金融市場のリスクオフ状態、不安定な株価、ドイツ銀行問題、米FRBの利下げ局面入りでの円高懸念、ジョンソン政権誕生による「合意なき離脱」…波乱要因目白押しなのが国際情勢だ。リーマンショック後、日米欧中の中央銀行の資産は3.7倍まで膨らむ一方、世界のGDPの伸びはここ10年間で1.4倍に過ぎず、金融緩和で増えたマネーは実体経済よりも債務膨張に…、世界の株式時価総額を2.9倍まで押し上げ、高リスク市場にもなだれ込むなど、危機の芽は拡大してきた。

いまやヘッジファンドが所有する人工知能(AI)どうしが勝手につながり合って相場を動かす世の中でもある。資産の売り抜けで自分たちだけが儲けようとする連中が何を材料に投機を仕掛けるか分からない。それで生じるショックはリーマン級以上かもしれない。

●財政拡大は不可避、「投資国債」を

金融政策も現実には手詰まりだ。マイナス金利を深堀りすれば、銀行は預金者から管理手数料を取らなければ、融資を増やそうにもコスト的に見合わなくなる可能性がある。現状のように金利がゼロに張り付く「流動性の罠」の状態では、市中マネーを増やす上で金融政策は効かない。2%インフレ目標を達成するためには、経済学の教科書にあるように、横に寝ているLM曲線ではなく、IS曲線を横に動かす総需要対策しか手段はない。

つまり、国債増発で財政支出を増やすことで市中マネーを増やすしか選択肢がない状態にあることは、何もMMT(現代貨幣理論)の論者たちから説教されなくても、昔からケインズ理論が主張してきたことである。

しかし、実際には、予算を積んでも人手不足で消化しきれず、近年、多額の繰り越しが発生しているのが、これまで景気対策の中核だった公共事業費である。今回の概算要求では、IoT、AI、5G…など、むしろ、日本経済に成長フロンティアを拓く情報技術関連のミクロ対策が並んでいる。

参院選での与党勝利によって、民主主義のルールでは国民も消費増税を容認した形になった以上、その賛否の議論よりも、増税のマイナス効果を克服して余りある政策を可能にする財政の仕組みをどう構築するのか、こちらの方こそを議論すべき段階ではないか。

この際、財政運営のあり方そのものをバージョンアップしてみてはどうであろうか。その先には筆者が提唱する「松田プラン」も控えているが、まずは国債発行の適格対象を柔軟化することから始めてみることを提案したい。

現行の財政法第4条は、国が借金することを禁止した上で、その例外としてインフラ整備など資産を形成する支出の財源として公共事業、貸付金、出資金に使途を限定する形で、国会の議決による「建設国債」の発行を認めている。これは「4条公債」と称され、これ以外の国債(赤字国債)は財政法が禁じる「特例債」と称されている。

これを改正し、バランスシートの発想から、前記のような「Wise Spending」を将来世代への資産形成になる支出とみなして、そうした資産とつじつまの合う負債として広く「投資国債」へと建設国債の概念を広げ、起債の対象へと取り込むことが考えられる。何もトンカチ事業だけが資産ではなかろう。科学技術の振興や人的資本への投資なども立派な資産になるものだ。日本の対外純資産残高は300兆円をゆうに超える世界ダントツ一位を何十年も続けている。これは国内での資金運用不足、投資不足の裏返しでもあり、資産の裏付けのある国債なら、むしろ増発することがマクロ的には合理的である。

消費増税を相殺する一時的な措置ではなく、消費増税が恒久的な負担増であるなら、今後将来にわたって恒久的に消費増税を打ち消す以上の高い水準での政府投資を維持できるようにする財政運営の仕組みの改革を、今回の増税を機に、アベノミクスの次なる一手として講じてはどうか。

●当面の財政運営改革措置としての「60年国債」

ここでさらに。この投資国債の発行の仕方として「60年国債」を提案したい。60年は償還期間として長いように思われるかもしれないが、すでに日本政府は40年国債を発行しており、他国ではアルゼンチンのように100年国債を発行している国もある。特に現在のような超低金利状態における超長期国債の発行は、国にとっても有利な選択になる。

筆者が掲げている「松田プラン」は、2019年3月末で470兆円にのぼる日銀保有国債を、満期が到来するたびに償還期間の定めのない永久国債に徐々に乗り換え、これを民間からの求めに応じて政府との諸手続きをスマートコントラクトとして実装した「政府暗号通貨」で償還することにより、赤字国債を消滅させるとともに、日銀の膨らんだバランスシートを自然な形で縮小させ、国民に利便性の高い新たな法定通貨を供給しようとするものである。これで市中マネーが増えるものではなく、インフレや財政規律の懸念はない。

ただ、現実には「永久国債」=劇薬との連想が強く、筆者自身が総理官邸できちんと説明でもしなければ、政策当局者の拒否感が強いだろう。政府暗号通貨も、現在では「リブラ」や中国人民銀行によるデジタル通貨の発行が話題になっているが、現状では日本の政策当局の理解を超えているものと思われる。

そこで、その前段階として、より受け入れやすい案を考えるべきだとの国際エコノミストの今井澂氏からのご提案を受けて提案するのが、以下の案である。

すなわち、日本が世界で唯一、国債残高の60分の1を毎年度、一般会計から拠出する「60年償還ルール」という「減債制度」を営む国であることと、アベノミクスで日銀のバランスシートが大幅に拡大した状態にあることを活用して、政府が税金で償還しなければならない借金としての国債の残高を増やすことなく、政府投資増大の財源として発行する「60年投資国債」を提案したい。

下図にあるように、財務省が財政規律の根源としている「60年償還ルール」も、国債残高を毎年度60分の1ずつ減らすに必要な税収が足りず、新規赤字国債の発行で定率繰入の財源が調達されている状況にある。「減債制度」は本来の減債の目的の上で機能していない。

ここで、「松田プラン」のような永久国債に代えて、日銀保有国債が満期を迎える度に乗り換えていく国債として、60年満期一括償還の「特殊国債」を考えてみてはどうか。これは後述のように、必ずしも将来の税負担で償還するものではないと位置づける。従って、60年償還ルールの対象外の国債になる。今後、毎年度の満期到来国債のうち、建設国債以外の赤字国債は概ね10兆円程度と試算されている。ならば、日銀保有国債はすべて赤字国債だとみなし、減債制度を日銀保有赤字国債から適用することとすれば、毎年度、10兆円の日銀保有赤字国債が60年特殊国債へと姿を変えていくことになる。これは60年償還ルールの外側にある国債だから、これによって減債制度の対象となる国債は毎年度、10兆円分、消滅していくことになり、これを続けている限り、減債制度の目的は10兆円分、これによって達せられているのだから、定率繰入は10兆円分、不要になる。

その結果、定率繰入のために発行が多くなっていた国債(今年度予算では14.7兆円)のうち10兆円の赤字国債の新規発行が不要になる。その分は、税金で償還しなければならない国債の残高(すでに前述の仕組みにより10兆円減少)を増やさない範囲で、国債を増発できることになる。その枠内で、こちらのほうは60年償還ルールを適用する形で償還期間60年の投資国債を発行して、科学技術の振興や人的投資などの「Wise Spending」のための財政支出を拡大してはどうか。

●財政資金の流れを実体経済のフローへ転換

従来であれば、日銀保有の国債の償還のために市中で借換債という新たな国債を発行していた。また、定率繰入で国債を償還するために新規国債を一般会計の歳入として発行していた。これらは国債というストック処理のために国の負債ストックを増やす「ストックからストックへ」という資金の流れだったが、上記のオペレーションによって、これが「ストックから実体経済のフローへ」という資金の流れに変換されることになる。

 

以上の効果を示すのが、次の2つの図である。

最後に、日銀に残る60年特殊国債の処理について触れてみたい。

そもそも資産を形成する手段としてトンカチ事業のみが資産と考えること自体が適当ではなかった。財政法4条には、出資金がある。恐らく、前記の「Wise Spending」の対象は、公的、民間、半官半民を問わず、何らかの法人によって担われるべきものが多いだろう。それら多様な法人への出資の財源として「60年投資国債」を活用することとすれば、60年といえば二世代にわたる超長期である。政府の投資先からは収益を上げ、配当を出したり株価が上がる先も出てくるだろう。それらは政府の賢い投資によって実現する国民経済的な果実でもある。

日銀が保有する60年特殊国債のほうは、こうした果実をもって償還すれば、これは日銀にとっても有利な資産運用だったことになる。

いずれ中国はAIとプラットフォーマーたちの有する個人情報とを結びつけた情報技術により、自由主義陣営が太刀打ちできない安全保障上の脅威をもたらすとされるように、日本が国民の安全と経済繁栄を確保するために、日本政府による次世代に向けた技術開発や人的資本の育成が急務である。景気対策の問題を超えて、そうした国家的な喫緊の課題を見据えれば、有為な政府投資を存分に行えるための財政運営のバージョンアップが、いま、強く求められているのではないか。

 

【参考】「松田プラン」の詳細は下記の拙著、ブログ記事、及び動画をご参照ください。

・松田学「サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う」(創藝社、18年8月)

・松田学他「米中知られざる『仮想通貨』戦争の内幕」(共著、宝島社、19年2月)

・松田学「いま知っておきたい『みらいのお金』の話」(アスコム、19年3月)

・「ブロックチェーン革命について(その2)~政府暗号通貨「松田プラン」の提唱~松田学の論考~」↓

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12441650632.html

・最新!松田プラン解説 紹介編↓