参院選の結果をどうみるか~またもお預けとなった選択の機会。国政のバージョンアップを~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 選択のチャンスを国民に与えられない政治。今回の参院選の結果も、これを如実に示すものでした。投票率は50%を割り込む低水準。魅力的なメニューのないレストランにお客さんは立ち寄ろうとしないでしょう。

 政権復帰後6年半経っても相変わらず、与党が示すメニューは、民主党政権時代の悪夢に戻さない、安定政権を持続する…。安倍総理の口癖の「新しい国づくり」はいつ始まるのか?

 対する野党からは、年金への愚痴と、財源案なき増税反対(財源案を具体的に示したのは共産党だけ)、9条改定の阻止といったネガティブキャンペーンが並び、食べたらきっと美味しいと思えるポジティブなメニューはありませんでした。

 ならば、「れいわ」か「N国」…?

 

●改憲と消費増税に対して下された有権者の判断

 今回、明確な争点になったのは10月からの消費増税でしたが、そもそも増税は積極的に賛成されるメニューではありません。比例の得票数で自公は48.5%と、増税反対を掲げた野党・諸派の49.0%を下回りました。しかし、増税を掲げている自民党は今回は苦しいとの事前予想が一部にあったにも関わらず、与党がここまで勝てたのですから、有権者は今回の増税については容認したとみてよいでしょう。

 もう一つの争点とされた憲法では、9条改定反対を掲げた野党の得票率は33.9%と3分の1を超えましたし、参議院全体では3分の2を失う結果になりました。ただ、両院で改憲勢力が3分の2を超えていたこの3年間、国会での憲法論議はそれ以前より停滞していました。国民民主のように9条改定には反対でも、改憲自体には反対ではない勢力もあります。大勢に影響はないでしょう。

 国民は安倍政治がいまの路線で進んでいくことを選択したことになります。

 私も選挙期間中、某候補者の選挙戦に出向いたりしましたが、野党は専ら、安倍政権は信頼できない、暴走?にストップを、で票を集めようとしていたようです。しかし、では、どうするのか、日本を任せられる現実的な答を心底から期待している支持者はそう多くなかったように思います。

 対する与党は、これまでの実績を誇示して政権の安定こそ国益だと訴えましたが、果たして国民が感じている本質的な課題に真摯に向き合っているのか、納得と共感が得られるようなネクストジャパンを示し得ていたのか?と言われれば、疑問です。

 全国比例の場合は、周囲から言われるままに、自分の組織への利益誘導なども期待しながら自民の候補に入れ、政党選択の色彩がより強い選挙区については、野党よりはずっとマシ、というのが、自民党に入れた多くの有権者の本音だったのではないでしょうか。

 

●バージョンアップを迫られることになった野党

 いずれにせよ、今回は安倍総理の大勝利だったいうのが結論かもしれません。

 と言うのは、今回、安倍総理は初めて、憲法改正と消費増税を打ち出して選挙に勝ったからです。何事も投票による多数決が民主主義のルール。憲法改正をすること自体は国民の賛意を得られたと解すべきですし、消費税については、これで野党各党は、もはや消費増税阻止を選挙で使えなくなりました。

 野党は憲法も消費税も反対しなければならないというのが、これまで何十年も続いた野党パラダイム。今回、このパラタイムから解放されたことは、野党にとっても良い結果だったとも解せられます。

 野党は、改憲の具体的な中身の論議をすることに追い込まれましたし、今回の消費増税でもまだ不足する社会保障の財源をどうするのか、本来は、消費増税の次なる喫緊の課題であるはずの、日本の社会保障の具体的な仕組みの再構築について、いかなる対案を提示するのか、野党には現実を直視した政策論が問われることになります。

 

●「れいわ」・「N国」現象から何を読み取るか

 今回の参院選でもう一つ、注目すべきなのは、投票行動の中で有権者による能動的な意思表示が、政党要件を満たしていなかった「諸派」に対してなされたことです。全国比例で「れいわ新選組」は228万票と社民の105万票を上回って2議席を獲得、「NHKから国民を守る党」は99万票で1議席を獲得、両者とも得票率で2%を上回り(れいわは全国比例で4.6%)、政党要件を満たすことになりました。

 こうした現象は、現行の非拘束名簿式が導入された01年以降で初めてのことです。

 これら諸派のやり方や政策などには色々な批判もあるでしょう。しかし、こうした現象が起こったのは、国民に選択肢を示す上で既成の政党が機能不全に陥っていることを示すものといえます。欧州などでも、既成政党の間隙を縫ってポピュリズム政党が台頭する現象が見られます。

 諸派の躍進について、もう一つ、着目すべき点があります。それは、既存のメディア(テレビや新聞などの大手メディア)が全くと言ってよいほど取り上げなかった中で、これら諸派がインターネットやSNSを通じて大きな盛り上がりをみせたことです。

 諸派だけでなく、自民党でもネット著名人たちが全国比例で大量得票しています。山田太郎氏然り、組織票が不十分なので苦戦していると選挙期間中には伝えられていた和田政宗氏も、ネットでは有名人です。

 すでに海外ではSNSが政治を動かしていますが、日本でもこれらツールの国政選挙における可能性がいよいよ、現実化してきたようです。選挙のあり方が、アナログからデジタル空間へと大きく変化していくという意味で、決して侮れない現象でしょう。

 

●本質的な課題に迫ることができていない日本の政治

 ただ、全体として今回の参院選は、本来は政党や政治家として持つべき「答」を持ち合わせていない者どうしの政争に過ぎなかったのではないでしょうか。

 徳島文理大学教授の八幡和郎氏が指摘するように、平成の30年間で、日本のGDPはたった1.6倍、これに対して中国は34倍、米国は4倍近く、欧州も3倍近く…。日本は経済が最も伸びない一方で、国民の平均寿命が最も延びた国なのだから、年金が苦しくなるのは当たり前…。少なくとも、国民一人当たり生産性の上昇という課題にもっと真正面から取り組まねば、答は出てこないでしょう。

 世界の主要国の中で最も成長できなかった国、日本…、対外純資産残高でみても日銀のバランスシートでみても世界で最もおカネを積んでいる国でありながら、それを国民の豊かさや安心に最もつなげられなかった国、日本…、世界有数の国民性や伝統を誇りながらも、このままでは衰退が加速するだけ、そして、国民の命も十分に守れなくなる国、日本…。

 根本的な再設計に向けた国民選択がこれだけ問われる局面にありながら、国政選挙は相変わらず、対症療法的なパッチワークをめぐって賛成か反対かの応酬に終始するレベルにとどまっています。

 社会システムアーキテクトの横山禎徳氏は、少子化も年金などの将来不安も、それらは「課題」ではなく、「現象」に過ぎない、その背後にある中核課題をみつけるべきであり、現象の裏返しでは答にならない、としています。少子化への「対策」、低年金への「対策」…これらを並べても答えにはならない。課題に迫れず、答を描けないのが日本の政治。

 やはり、国政のバージョンアップが必要です。

 今回の参院選の結果も踏まえ、これからも松田政策研究所を中心に、政治に次々と議論をぶつけてまいる所存です。

 

 松田政策研究所では、今回の参院選について、八幡和郎氏と松田学が対談を行いました。こちらをご覧ください↓