増税派でも反増税派でもない増税抑制派~消費増税をめぐる議論のバージョンアップを~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 今回の参院選でも、今年10月からの消費税率2%引上げが与野党間の争点になりましたが、財政について何か議論をしようとすると、あなたは増税派か反増税派かと、二者択一の絵踏みを迫られるのが常です。特に、財務省出身者の私の場合、消費増税に関して政府が講じている施策を説明するだけで、財務省の回し者、緊縮財政派とのレッテル貼りがなされてしまいます。

 

●増税・反増税の二律背反では問題の本質は見えなくなる

しかし、この問題はそもそも、今度の増税への賛否という二律背反で議論を始めた途端に、物事の本質が見えなくなるように思えて仕方ありません。なぜなら、巷では、増税派の権化とは財務省であり、増税反対とは財務官僚けしからん論と一体となっていますが、財務官僚とて人間。そもそも人間とは、与えられた環境条件のもとで合理的に行動するしかない存在だからです。

増税とか緊縮財政の立場を採る財務官僚という人間集団をやり玉に挙げて「けしからん」論を叫んでも、意味はありません。彼ら財務官僚たちをして、そうした財政運営に走らせる環境条件をこそ、議論すべきなのです。

現状においては、政府の中で、国の借金が増えることをできるだけ抑制することをミッションとする組織として設計されているのが、いまの財務省です。名前は「財務」省ですが、基本は「経理」省と言って良いでしょう。

確かに、財政均衡主義に走り、「木を見て、森を見ず」になりがちとされる財務省を超える存在として、経済全体の立場から政府の方針を議論する経済財政諮問会議が、総理大臣を議長とする形で設けられていますし、そして、そのもとに内閣府が財政運営の基本方針を策定する体制にはなっています。

しかし、内閣府官僚とて、年々の収支均衡を将来の理想に掲げつつ、「プライマリーバランス」を中間目標として設定する現在の財政運営の枠組みから抜け出すことは困難でしょう。なぜなら、それは官僚という、会社にたとえていえば従業員のレベルの仕事ではなく、より上位のマネージメントクラス、すなわち、政治のレベルで決められるべき問題だからです。

従業員は、経営層が決定した方針の枠組みのもとでしか仕事ができないのは、どの組織でも同じ。国の経営者たる政治家が、マネージメントに関わる重要な提案が従業員たちから出てこないと言い訳するのであれば、それは政治家たちの怠慢です。そうした政治家たちをまずは批判しない増税反対論者たちも、批判のピントがずれているといえます。

財務官僚を始めとする政府官僚たちの思考や行動の枠組み自体を組み替える、そして、消費増税なくしても国の財政が回り、日本経済が成長を取り戻すような新たな財政運営の仕組みやを構築する、それによって、財務省が増税を提案する余地を与えないようにする。

私は、増税派でも反増税派でもなく、上記のような意味で消費増税をそもそも不要化してしまう「増税抑制派」であると、自らを分類しています。

 

●財務省の置かれた環境条件と設計の変更を

大事なことは、財務省が置かれた環境条件自体を変革することで、これまで経理屋として設計されてきた彼らが、増税に向けて各界の説得に全力投球するよりも、省名である「財務」のプロとしての合理性に自らのレゾンデートルを見出すように促していくことではないでしょうか。これこそが、破壊する改革から「組み立てる改革」へのバージョンアップ。

少なくとも、財務省を予算査定権と国税査察権を振りかざす強大な権力機構と批判し、その解体を主張するよりも、こちらの方が、よほど生産的な改革論になるでしょう。ちなみに、私はかつて大蔵官僚として査定の仕事も国税の査察の仕事も経験しましたが、言われているような強権を恣意的に発動して政財界やメディアを操作できるような実態はありません。

生産的な議論かどうかという点でいえば、今度の10月の2%アップはもう勝負がついており、それに反対しても現実は動きません。もはや、その次をどうするかを論じるほうが、よほど生産的でしょう。

私が考えているのは、財政運営そのものを、国家マネージメントシステムとしてバージョンアップさせる改革論です。下図をご覧ください。

現状が、財務官僚たちを増税に走らせることになる「プライマリーバランス財政」だとすれば、そこからのバージョンアップとして、マイルドな案から、よりラディカルな案まで、5つばかりのバージョンを考えています。

 

●財政運営のバージョンアップ、5つのステップ

以下、これについて、ごく部分的ではありますが、簡単な解説だけ行っておきます。

まず、現状の枠組みでは、社会の高齢化で増え続ける社会保障給付は、毎年度発生する支出ですから、そ財源は毎年度入ってくる恒久な財源で賄わざるを得ずません。現状では、消費税収の全額を社会保障給付に充てても半分程度ですから、赤字国債を将来世代への「負の遺産」と捉えれば、消費税率を上げていかないと、世代間の不公平は著しく高まる一方である…という論理に、財政当局が縛られてしまいます。

そのもとで、今回の増税に際して、安倍政権は、景気への影響がないようにするために、増税分のうち新たな給付の増額の財源に充てる部分を、2014年の増税当時の2割程度から、今回は7割程度まで、教育無償化などを講じることで拡大しています。さらにポイント還元などの1年間に限定した「臨時特例の措置」で、当面の家計の負担増をチャラにしています。しかし、それが精いっぱい。

大事なのは、ここから先をどうするかです。

バージョン1は、国債発行の全体の額は変えずに、その中身について、消費増税によって毎年度の赤字国債の発行が減る分だけ、今後の毎年度の建設国債の発行額を増やし、それを継続していくというものです。景気悪化を相殺する措置を臨時特例の一時的な措置ではなく、これも恒常化させる案です。建設国債は将来に資産を残すための借金ですから、他の支出と区分した投資的な勘定として、バランスシート管理の対象とします。複数年度にわたる発生主義の複式会計をここに導入し、将来世代へのツケである赤字国債を減らす代わりに、投資的経費に充てる国債は積極的に発行し、メリハリある財政運営を実現します。もし、国債発行を現状よりも増やす場合、その上限は、バランスシートにおける資産負債管理のつじつまが合う範囲までということになります。ちなみに、日本の対外純資産残高は300兆円を超え、世界ダントツ一位です。マクロ的にみれば、国債発行総額を減らさなければならない必然性は薄い状況です。

バージョン2は、バランスシート管理を超えて、MMT(現代貨幣理論)の考え方を導入し、インフレ目標の達成までの間は国債発行を増やして、市中マネーを直接増大させるという方式です。しかし、これでは、インフレ目標達成後は、ドーマー条件の問題が生じて、金利が成長率を上回ることにより、いずれ、国債発行額の膨張を止められなくなるという問題があります。

バージョン3は、日銀保有国債を永久国債に乗り換え、日銀に国債保有を固定化させる方式の導入です。これにより、現状でも、国債発行残高の半分が消えますので、上記の金利負担は判断で済み、ドーマー条件の制約は突破されます。現行の60年償還ルールという減債制度も、日銀保有国債の永久国債化で国債そのものが消えますから、その分については、償還財源の積み立ては不要になります。それで浮いた財源で財政支出を増やすことができるようにもなります。

バージョン4は、スマートコントラクトを実装した便利な政府暗号通貨の導入により、上記では拡大したままとなってしまう日銀のバランスシートを自然な形で縮小させる案です。日銀保有国債は、政府暗号通貨へと姿を変え、マネタイゼーションが進むことになります。

上記のバージョン3と4を併せて、私は「松田プラン」を提唱していますが、情報技術がさらに発展すれば、政府暗号通貨自体を民間が「マイニング」することで、消費税そのものを不要化させることが視野に入ってくるかもしれません。それをバージョン5として温めておきたいと思います。「無税国家」につながる可能性もありますが、今後の情報技術のイノベーション次第でしょう。

詳細は、7月28日に予定している「丹羽経済塾」や、8月30日に予定している松田政策研究所のオープンセミナーで解説いたします。ご関心のある方は、ぜひ、ご参加いただければと思います。

 

〇丹羽経済塾

【日 時】7月28日(日)17:30-19:30

【テーマ】マネー循環の新たな仕組みと財政運営~増税派も反増税派も超える『増税抑制派』からの政策設計~

【講 師】松田 学(丹羽経済塾会長)

【参加費】1,000円 ※学生は無料:受付でお申し出ください

【会 場】『防災教育中央振興会』:保険毎日新聞社ビル7F

〒101-0032 東京都千代田区岩本町1丁目4-7 TEL:03-3865-9299

交通案内 :日比谷線「小伝馬町」駅の駅舎を出てから北へ200M

地図 :http://ur0.biz/Ph18

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〇第3回松田政策研究所オープンセミナー

【日 時】8月30日(金)18:30~20:30

【テーマ】いまのお金とみらいのお金~消費増税、MMT、そして年金問題にどう向き合【講 師】松田政策研究所 代表

【セミナー詳細ページ】

https://matsuda-pi.com/seminar.html

【申込口】

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdsVjYF3NFzuWf6BeDq6rhA6Hcq7QhEWa-DaM_0_Mj_V8L8Gg/viewform