現在中国事情~「米中冷戦」下での中国社会の実相と習政権~松田学のレポート | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 米中間で貿易戦争と技術覇権闘争が激しく展開される中、5月31日から上海を訪れ、現地の経済界の方々と情報交換をしてきました。米国との摩擦でかなり悩んでいるのが現在の中国。日本はどうするのか気になるようです。

●孤立する中国?国民の価値観は多様。

安全保障と最先端技術で世界トップであることだけは絶対に譲れないのが米国の立場。これらの分野で中国が米国にとっての脅威となっている最大の要因が中国の政体レジーム。ならば、共産党一党支配体制が転換するまで終わることがないとされるのが「米中冷戦」。

情報技術をも駆使して国民一人一人まで監視しているとされる中国、まさにペンス副大統領がハドソン演説でやり玉にあげた「オーエル的」な監視社会のもとで、中国の一般国民はさぞや抑圧されていると思いきや…、これによって犯罪や暴動が一挙に減り、安心安全な社会になったとして、国民の多くが習政権を評価しているとのことです。

逆にグローバルスタンダードでの改革を望む中国の経済界や知識層は、むしろ米国側に立っており、一部は米国と通じているなど、中国国内も一枚岩ではないようです。

この構図は文革を思わせる、権力の集中を強め、毛沢東を理想とする習近平独裁体制のもとで、米中分断による世界のブロック化や中国の孤立化が進めば、中国は一国主義の社会主義共産革命に走り、かつての文化大革命の再来となる…、成功者や知識人は弾圧され、「下放」に…。日本にはこんな見方をする識者もいます。

ところが、上海で話をよく聞いてみると…、今の中国で再び文革のような動きが起こることはないとのこと。文革の頃、中国は皆が貧しかった。今は豊かであり、再び貧しい状態に落ち込むことへの警戒心のほうが国民の間には強い。かつては党の言うことを聞いた国民も、今は価値観が多様化した…、と。

豊かな上海だからということもありますが、市街を歩いていても、街の雰囲気も走るクルマも人々の表情や動作なども、もはや欧州などの先進国と変わらぬ光景。豊かさの中で守りに入り、大きな変革は望まず、価値観の多様化した成熟社会の様相を呈しているのは、日本とも共通かもしれません。

 

●農民工と身分社会?

さはさりながら、中国社会は格差が激しく、農村から都市へとあふれ出てきて市民としての戸籍も基本的な権利保障も与えられていない大量の「農民工」の存在が象徴する身分社会だ…。こんな見方も日本の知識人の間には多いようです。

農民工は中国の正式統計では、2017年の数字で2.9億人(2億8652万人)。前年比増加率は1.7%、前年から1年間で458万人の増加です。うち男性が65%で、短大以上の学歴者は10.3%。

彼らは元々、土地を持っている農民として、失業しても、失業の統計には入っていません。その実態は、そもそも農業のことなど分からない人たち。都市に流入していますが、失業しても農業に戻るという人たちではありません。地元に帰ると、ビジネスがあることになっているそうですが、どんなビジネスかよくわからないとのこと。

中国政府が経済で最も心配しているのは最近の経済成長率の鈍化などではなく、失業率。中国経済では国有企業が大半となっているのは、それで失業率を抑えられるからだとのこと。

農民工の出身元である中国の農村の状況は、というと、農業は儲からないのに対し、都市は何十倍の収入があり、働き手の出稼ぎで農村に残るのは老人と女性と子供だけ、これでは農民は生活も守れない状況にあるのは確かなようです。

中国人の不安は、老人であれば医療、若者たちは教育費や不動産購入費。これらは農業では賄えません。

いま、中国では農地が減少しています。そもそも農地がどれぐらいあるか、実態も不明。農村戸籍を持つ人々には農地が分配されていますが、実際には、彼らが所有しているはずの土地がどこにあるかもわからないとのこと。ちなみに、分配された土地からの収入は年間で概ね1万円程度だとのこと。

社会主義の国ですから土地は公有のはずですが、都市の土地は国有であり、農村の土地は農村が管理しているようです。現在は、都市から農村の戸籍に入るのは困難になっていて、農村も国の指令で土地を国民に分配させないようにしているそうです。

つまり、現在は農村の戸籍を新たに持てなくなっており、例えば、上海市域の農民は上海の都市市民へと戸籍を移すことは簡単にできるものの、その逆はできなくなっているとのこと。

その背景には、農民になると土地を持つことになるのに対し、都市市民になって土地を手放すと、国家や市政庁の土地になるということがあるようです。国も市政庁も土地はお金になるから欲しい…、中国の重要な財政収入は土地の使用権の売却収入です。

どうも、中国が身分制度というのはウソだとのこと。農村戸籍の者でも差別されないそうです。中国は身分社会というよりも、むしろ実力社会。その実力を量るのは金銭。金銭社会といってよいそうで、金持ちが社会的に評価される国です。

 

●お金よりも「幸せ」の追求を…でも、幸せとはお金です。

そもそも中国社会はお金が第一の社会です。あのファーウェイの中国での評価や社会的地位は、その技術力だけで獲得されたものではなく、現に、お金を儲けているから。

ただ、習近平はこうした風潮を良しとしておらず、金銭よりも「幸せ」が大事だと説いて、金銭至上主義を戒めているそうです。しかし、中国人からみると、では具体的な「幸せ」とは何なのかとなれば、分からない、中国人の幸せは、やはりお金だということになってしまう。

確かに、習は貧富の差を縮小しましたが、中国で最貧困と言われる層は14億人の人口のうちの2,000万人に過ぎません。上海、深セン、北京の人々からみると、自分たちのお金を彼らに移すようなもの。それをみんな不安に思っているということです。

現在の米中摩擦に臨む心構えとして、習は毛沢東の「長征」の精神を説き、中国軍が米軍を押し返した朝鮮戦争を引き合いに出しているとのこと。これも国民に実感がなく、「長征」などは、むしろ大きな犠牲も生じたもの。皆が気にしているそうです。

 

●技術育成よりもお金。儲かるかどうか。

上海には、優遇措置を講じて外国に学ぶための開発区が設置されています。そこで展開している産業としては、自動車が有名で、ドイツ企業が多いとのこと。これからは水素車だということで、今年8月にはトヨタが入るそうです。医療機器、ロボット、半導体なども重視されているとのこと。

土地の汚染対策の技術などでもドイツが進出しており、やはり、ドイツの中国への思い入れは相当なもの。このところトランプが何かといえばドイツをいじめてきた背景には、ドイツの中国への肩入れがあるそうですが…。

イスラエルも農業技術を導入し、これを中国が買っています。ただ、農業技術については日本には勧めないとのこと。農業は中国で儲かっていないので、あまり熱心には取り上げられないからだそうです。

この開発区で企業に投資すれば優遇措置を受けられますが、それよりも、優れた部品や製品を入れてもらって、それを中国で売って儲けることの方に関心があるようです。日本企業がここに来ても技術を盗まれる心配はないとのこと。中国は自ら技術を取得したり育成したりすることには関心があまりなく、開発は日本の本国でやってもらい、製品さえ持ち込んでもらえばそれでよいとのこと。

技術や生産現場は人真似や借り物でも、利益さえ上げればよい、利益を上げるなら技術や生産現場を考えるが、儲からないなら自分で技術を開発するような面倒なことは考えない…。以前、日本の「すり合わせ型」技術の特性の説明として、「道場」を挙げた説明を聞いたことがあります。日本では生産現場とは道場のようなもので、大事なのは稽古、利益は稽古を重ねた結果としてあとからついてくるという、生産現場第一主義の発想です。

これとは対照をなすのが中国流ということを、改めて想起させてくれました。

 

●中国は本当に情報技術覇権をとる国になるのか

そういえば、私が長年、自らを「不肖の弟子」とみなして師と仰いできた横山禎徳氏(社会システムデザイナー)が、過日、私の講演を聴いて、こんな興味深い指摘をされていました。

…歴史的にみて中国は、国家権力主導のもとで独創的なものを生み出せないできた、今回も情報技術覇権争いで、また同じ失敗を繰り返そうとしている、これに対して日本国民は天才だらけの国であり、政府による資金投入などで中国に対抗する必要はない、むしろ、日本の力は自然発生的な創意工夫にある、狭い空間と予算の制約のもとでこそ新しい知恵が生まれる…

 ちなみに、上海で、「国家主導で研究開発を進める中国は、AIなどの特許数で米国を上回るなど、いまや世界のトップを走っている」などと持ち上げても、経済人たちからは「私たちの多くは、そうした特許など中身はいい加減にものだと、日頃から話している。中国が脅威だなどと、なぜそんなことを考えるのか」と、怪訝そうな反応でした。

もしかすると、中国のレジームチェンジを待つまでもなく、米国が潰したいと考える政体も、建国100周年の2049年には米国を抜いて世界一の超大国になるとの習近平の野望も、それ自体が中国の技術覇権を困難にしていくのかもしれません。

もちろん、油断は大敵。

いずれにしても、私たち日本はもっと、自国の優位性を活用できることに注力したほうがよさそうです。情報技術でいえば、それは恐らく、ブロックチェーンでしょう。すり合わせ型の現場力、和と協調の精神は、ブロックチェーン革命とも親和性があります。

もし、中国に対する優位性を獲得できる日本の道を考えるとすれば、それは、さまざまな分野の社会的課題解決の現場でブロックチェーンの実装を進め、世界標準をとっていくという営みではないでしょうか。