人類に訪れる「第四の波」その1~来たる技術的特異点に私たちはどう向き合うのか~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 近年ますます加速化する科学技術の進歩は、人類社会全体に大きなインパクトを与えつつあります。果たしてそれが人間本位の幸福な未来社会の実現に結びつくのか。人々の意識や社会の仕組みなどが的確に対応できるのか。そのようなテーマが私たちに突き付けられる時代に入っています。


すでに情報技術の面では、IоT、ビッグデータ、AI(人工知能)、スマートグリッド、自動運転、フィンテック、ブロックチェーンなどの言葉が人口に膾炙するに至っています。これらの言葉の普及も急速でした。そして、日本の経済社会にも急激な変化をもたらしつつあります。

 いま、米中の貿易戦争がエスカレートしていますが、その背後にあるのは、米中間での技術的覇権争いです。人材という面でみても、下図のように、AIに必要な人材は世界的に不足しており、その獲得合戦が繰り広げられています。現在の世界は、AIなどを中心に人類の未来社会を決定づけることになる新たな技術をめぐる、米中間の熾烈な競争を軸に動いているともいえます。

●転換期に直面する人類社会

 日本政府は未来社会のあり方として、「Society5・0」を打ち出しています。

これは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」であり、「狩猟社会(Society1・0)、農耕社会(Society2・0)、工業社会(Society3・0)、情報社会(Society4・0)に続く、新たな社会を指すもの」とされています。

 「Society5・0」で目指されている「人間中心の社会」とは、従来、独立・対立関係にあったもの、例えば、モノ×モノ、人間×機械・システム、企業×企業、人間×人間、生産×消費、日本の現場力×デジタル、などの融合化を、大量の情報を基にしたAI(人工知能)による自律的な最適化によって実現しようとするものです。

科学技術の進歩がもたらす情報社会の次なる社会のステージとして、日本政府までもが、技術と人間とが融合した未来社会を構想しているということは、人類社会が人類史を画するような大きな変革期に入っていることを示唆しているように思われます。

 ここで、この変革期について、人間と技術との関係の歴史という視点から捉えてみますと、太古の昔、人類が最初に火を手にした日を、技術的特異点(シンギュラリティまたはテクニカル・シンギュラリティ)とするならば、まもなく人類は2度目のシンギュラリティを迎えると言われています。

人類が地球上に誕生し、火や道具を用いるようになってから長い年月をかけて発展してきた人類文明は、これから22世紀に向けて大きな変質を遂げていくでしょう。

そこに訪れるのは、これまで想像もできなかったような社会の姿であり、人々の生き方ではないかと思います。21世紀前半の現在に生存する私たち人類は、ちょうど、それに向けた大きな転換期の始まりの時代を生きているのだと捉えることができます。

●文明と情報革命

 この地球上のヒト以外の生物は、個体を変化させ、生命体として3億年をかけて進化してきました。これに対し、直立歩行し、火や道具を持ったヒトだけが、自らの肉体などの変化よりも、道具を使い、自らの外界を変化させる営みによって、わずか数十万年の間に、高速で移動し海を越え空を飛び宇宙へと向かう存在にまでなりました。


およそ地球に誕生した生命体とは、ヒト以外は、自らを取り巻く周囲の自然環境から直接的にエネルギーを摂取して自己の生存と種の保存を図る存在であるといえます。人類が他の生命体とは異なる大きな違いは、そうした営みに当たって、道具という中間機能を用いるところにあります。

火や器などから始まった道具は、やがて狩猟採集文明から農耕文明への転換を促しました。そして、人類の知恵によって道具が技術として高度化するにつれ、それによる富の蓄積がさまざまな中間機能の形態を生み出すようになり、多様で巨大な社会システムを中間機能として、人類は生存域を拡大するようになりました。

この意味での中間機能には、国家なども含まれます。これは、複雑多様な価値観を詰め込んだパッケージ型共生システム文明ともいえるものでしょう。

こうした中間機能の高度化による生産力の増大が、人類社会の歴史を規定してきました。

この共生システム文明の大きな転機になったのが、18世紀半ばから19世紀にかけて英国を中心に起こった第一次産業革命です。石炭火力と蒸気機関によって、人類は人手や家畜とは比較にならない動力を手にし、労働作業分担制により同じものを大量に作り出す術を獲得しました。

こうして「産業」を、人類が生存していく上での中核的な中間機能とする産業社会・産業文明の時代が到来します。そして20世紀前半には、米国を中心に、石油火力や水力によるエネルギーから産み出される電力や、流れ作業による大量生産技術に支えられた第二次産業革命が起こりました。

 文明評論家のジェレミー・リフキン氏によれば、現在の21世紀前半に起こっているのは「第三次産業革命」です。それは、エネルギー、移動手段、情報技術の分野を中心とする「限界費用ゼロ革命」がもたらすもので、これまでの社会のあり方を、集権的な巨大システムが支える競争型産業社会から、分散型システムが支える協働型コモンズへと移行させていくとされています。

これとも重なる未来予測として、かつて未来学者のアルビン・トフラーが著書「第三の波」(1980)で提唱したのが「情報革命」です。トフラーは、人類はかつて大変革の波を二度経験してきており、第一の波は農業革命(人類が初めて農耕を開始した新石器革命)、第二の波は産業革命であり、その次の第三の波として情報革命による脱産業社会(情報化社会)が押し寄せると唱えました。まさに今、この「第三の波」による人類社会の変革が現在進行中です。

●巨大化した中間機能の不可視化

文明の進歩は、装置の巨大化、つまり、中間機能の肥大化を伴うものでした。かつて自らの手で操っていた「道具」は、個々のヒトの手を離れていきました。人々は日常生活でいかなる目的を達するためにも、巨大な設備、集権的な大組織、複雑な社会システムなどを媒介しなければならなくなるに至っています。

人類が持続的に生存圏を拡大していくために生み出した中間機能は、人々が豊かさと利便性を追求するうちに、物理的にも社会制度的にも巨大システムへと化していきました。そして今や、それなくして人類は生存不可能になっています。

ただ、社会システムを利用するユーザー視点で考えてみますと、少なくとも表面的には、こうした巨大システムへの直接的な依存を人々は意識しなくても済む世の中への移行が進んでいます。背後にある巨大システムのことなど考えることなく、人々が豊かさや利便性を追求、実現できるような形態へと、人間の営みや社会の姿が変革されていきます。現在では、生産活動をはじめ社会生活を営んでいく上で、人々が直接接触する中間機能は、目前にあるパソコン機器一台という風景がますます強まっています。

ただ、このような風景を裏側で支えるシステムはより一層巨大化しています。IT革命が進展すればするほど、こうした巨大システムが、リアルな実存とは異なるバーチャルな時空(情報空間、電脳空間)に依存する度合いが高まっているという事実を無視することはできません。人々が直接接する世界は現実界から仮想世界へとシフトし、リアルな世界への関与はバーチャルな世界を通して行われるようになっています。

つまり、人類が持続的生存を確保するための中間機能において、バーチャルな世界が肥大化しています。


●電脳空間への依存で増大する不確実性

問題は、肥大化するバーチャル世界や、これを抱える巨大システムそれ自体が、社会の利便性を高める一方で、人々や人間社会に脅威を与えるリスクも高まっていることです。すでに起こっているのは、人々が情報関連の端末機器と直接向き合うことが活動の中核を占める状況になっている中で、これとつながるネットワークシステムやバーチャル電脳空間に対する信頼性、安全性が問われているという事態です。その一端を示すのが、度重なる情報漏えいや、サイバー攻撃などであることは論を待たないでしょう。

そして将来的には、IT化の究極としてAI化が進み、人間や社会のあり方は確実に激変していきますが、2045年に到来するとも言われるシンギュラリティ―に至ったときに、その姿がどうなるかは未確定です。

これは、一部の特殊な例外を除くと、ほとんどの人々にとって、自らのコントロールが及ばないブラックボックスのような不可視的な世界が肥大化し、それが自らの意思、あるいは人間社会や国家や人類の意思とは離れた独自の動きをして、私たちに予想できない作用を及ぼす脅威が拡大していくことを意味するものだと思います。

個々の人間のコントロールを超えて肥大化するバーチャルな世界を抱えた巨大システムがもたらす不確実性や脅威を克服することは、私たち人類社会が科学技術の進歩を通じて次へと進んでいくために克服すべき課題の中で、とりわけ重要な柱となるものです。

●新たな社会へ、「第四の波」

「第三の波」の情報革命が行き着く先に訪れるのは、私たちの日常の意識から中間機能そのものが消え去り、限りなくゼロに近づいていく社会ではないかと思います。それは「デバイスゼロ革命」、「ネットワーク不可視化革命」を通じて達せられる「中間機能ゼロ社会」ともいえるものです。

その先には、ヒトそのものが進化する世界も想定されます。人類は自らの個体の進化ではなく、道具(→中間機能)を発達させることで生存を確保してきました。その人類自体が、今度は、自ら獲得してきた高度な中間機能と一体化することで、自分自身を変容させ、進化させていくプロセスが始まる可能性があります。

 これが人類にとっての理想郷をもたらすものかどうかは、この21世紀前半から、私たち人類が科学技術の急激な発展にどう向き合うかによって規定されてくることになります。社会のさまざまな制度や仕組み、人々の意識や価値観、政治や行政など、人類社会全体が、こうした変化への急速な対応を迫られていくことになるでしょう。

私は、この潮流が人類に与えるインパクトは「第四の波」とも名付けられるものではないかと考えています。

それは、情報革命がもたらした「第三の波」の帰結として到来する人類社会の次のステージとして位置づけられるものです。つまり、

  1. 情報空間と実空間が一体化していく中で、人間(生体)と実空間(外界)との関わりが、中間機能を意識しない、より直接的な感覚を通じてなされるようになる。これはIoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンターなどがネットでつながることでもたらされるとされる「第4次産業革命」とも連動するものである。(「道具を持たないヒト」へ。)

  2. 人間自身が高度な情報空間を組み込んだ中間機能と一体化することで、新たな進化を遂げる。(「道具と一体化したヒト」へ。)

    この「第四の波」は、これを、人間の生体と外界との関わり方の変化や、生体内部の高度化として捉えれば、「生体革命」と称することも可能かもしれません。

    次回、その2では、想像力を膨らませて、その具体的な姿の一端を素描してみます。

     

    詳細につきましては、松田学の新著「サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う」(創藝社、720日発売)の第1章「科学技術の進歩とサイバーセキュリティ」を、ぜひ、お読みください。

     

    松田学のビデオレター、第89回は「朝鮮半島とAI開発で繰り広げられる米中の覇権争奪」

    チャンネル桜626日放映。

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