私はやっぱりチェロ奏者…。懐かしの東大オケ、私が現役団員だったときと同じ指揮者のタクトで、皆さんそれぞれ少しだけ?齢を重ねたようにみえる先輩、後輩、同僚とともに、何十年か前と同じモードになって、10月11日、「東京大学音楽部管弦楽団創立95周年記念演奏会」(於すみだトリフォニーホール大ホール)のOBの部に出演しました。私が乗った曲は、ラベルのラ・ヴァルス、レスピーギのローマの祭りなど、難曲中心に5曲。どうも大きな体の私がアクションをつけて弾く姿は少し目立っていたようです。政治はハーモニーだ!
最初の曲は、私が東大オケに「入楽」したときも常任指揮者だった早川正昭さんの指揮で早川正昭さん自らが1977年の東京大学創立100周年記念の際に委嘱されて作曲した「祝典序曲」。四度和声が醸す不思議な雰囲気、東大はこんな複雑な雰囲気なのかもしれません。
次は、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」で、フレーズはシンプルですが、和声、対位法、多様なパターンのリズム構成で魅力的なるも、チェロパートはまともに弾くと結構、難しい。その後は現役の方々がブラームスの大学祝典序曲。
後半は、ラベルのラ・ヴァルス。ワルツなのですが、ウィーンと縁の深い私が感じるのは、ウィーンナワルツをフランス風に茶化したらこうなる? とにかくリズム感と妖艶さが大事。速まるテンポの中でもワルツ感覚を保ちつつ盛大に盛り上がっていくべく、私も盛り上がりました。ラベルのオーケストレーションの巧みさにはいつも脱帽です。
そして、難曲のレスピーギ作曲「ローマの祭り」。クラシック音楽随一の残酷な曲と言われます。第一部のチルチェンセス、華やかなファンファーレで始まる古代ローマの野外大競技場で行われた競技、暴君ネロ皇帝がローマの大火をキリスト教徒のせいにして大虐殺するシーン。大群衆が興奮して大騒ぎする中、キリスト教徒が野獣に襲われて殉教していく。吠える猛獣の金管のうねりの中で私たち弦楽器は必死で殉教者を演じるわけです。その後、和声やリズムの目まぐるしい変化に富んだローマの祭りのいくつかの部を経て、譜面についていくだけでも必死なフィナーレへとなだれ込んで終わり。こちらは私が入楽した年から東大オケの指揮者をされている三石精一さんによる精力的な指揮でした。
私は以上の4曲のほか、アンコールの部でワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲」にも乗りました。学生時代は東大の入学式のたびに弾いていたこの曲も、卒業後、ドイツに住み、バイロイト音楽祭を始め欧州各地でこの楽劇を堪能した経験の積み重ねを経て弾くと、また一味違う。
卒業後も社会人のアマチュアオケはやっていた私も、政治の世界に身を置くようになってからは専ら室内楽で、定期的に練習に出なければならないオーケストラからは離れておりました。その意味で久しぶりのチャンスを楽しみましたが、日本のオーケストラについていつも思うのは、もっと奏者一人ひとりがリズムやメロディーに乗って「音楽する」ことをしてはどうかということです。楽譜をうまく弾けるかどうかに注意が向かっていると、せっかくの音「楽」が緊張の場になってしまいます。
楽しむということにおいて多様な自立性があってこそ、「音楽する」でまとまれば、全体が躍動的なハーモニーになる。政治も同じだと感じます。