松田まなぶのビデオレター、第19回は「日本新秩序、まずは法の支配で中国牽制を」 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 TPP交渉が大筋合意となりました。今般の安保法制にせよ、TPPにせよ、日本が対米従属を強めることへの懸念の声が時として聞かれます。しかし、このままではアジア太平洋地域は中国が主宰する秩序形成へと向かっていきかねないことへの冷徹な現実認識か必要です。米中両大国の狭間にあって、真に独立自尊の道を拓くためにはどうすべきなのか。ここで日本が参考にすべきなのは、第二次大戦後の英国の知恵ではないでしょうか。安全保障でも経済でも、世界のスーパーパワー米国の背中に自覚的に乗っかる(ピギーバック)、そこからしたたかに自国の国益を引き出していく。その際、特に中国を意識した戦略を考えるキーワードとなるものとして、今回は「法の支配」を中心に論じてみました。

第19回「日本新秩序、まずは法の支配で中国牽制を」チャンネル桜、10月6日放映。
こちらをクリックすると、今回の松田まなぶの動画を見ることができます。


                            
中国の習近平は米国に対して「新型の大国関係」を提唱しています。すなわち、「太平洋には米中という二つの大国を収めるに足る十分な空間が存在する。」9月下旬に習主席は訪米し、オバマ大統領と首脳会談を行いましたが、習の本音は、これを確認したいということにあったとみられています。しかし、米国はこのワーディングには乗っていません。その理由は、この言葉で中国が何を意図しているかが分からないからです。

習主席は政権に就いて2.5か月後に訪米しました。これは胡キントウが2年半後、江沢民が4年半後だったことに比べ、米国を重視していることになります。米国を敵視していないことをアピールする点で、中国指導者としては新しい姿とされています。中国側としては、良好な中米関係や、習とオバマの親密な関係をアピールしたいという意図があります。それは国内向けのアピールでもあります。習が権力基盤を強化する国内対策として重要だからです。

中国人民が求めているのは「強いリーダー」であり、「人民の夢」を実現してほしいということです。太平洋を米国と二分割し、新しい外交スタイルで、世界一の超大国である米国と対等に向き合っている姿を人民にアピールすることで、これに応えようとしているのが習主席です。
ところが、現状では、米国との間にズレが生じています。中国の最近の軍事行動によって、米国の世論が変化し、かつとは親中派ともみられていたオバマのスタンスも変化しています。習政権誕生時はWelcomeだったオバマも、南シナ海問題が起こり、対中関係で毅然とした態度を示さねばならなくなりました。

最近ではサイバー関係で中国人を起訴するまでに至っている米国は、中国が国際レジームにのっとっていないとの意識を強め、これへの対応を実務的なやり取りの中で強化しています。現在の米国の中国に対する関心は「新型大国関係」ではなく、「法の支配」です。

今回の米中首脳会談では、習、オバマとも笑顔が無く、米中両国がそれぞれファクトシートを出したのみであり、共同記者発表とはなりませんでした。

「新型の大国関係」については、習がこれを再び持ちかけたことに対して、オバマは「中国がグローバルプレーヤーになることは歓迎する」との一般的建前でかわしました。代わりに、「国際ルールは守るべきだ」と、オバマは釘を刺しています。

「ツキジデスの罠」という言葉があります。それは、スパルタに対するアテネ、かつての英国に対するドイツの台頭といったように、既存の覇権大国に対抗するようにもう一つの大国が勃興すると、必ず戦争になるという意味です。

今回、両首脳間では「ツキジデスの罠には陥らない」というやり取りがあったようですが、それは中国としては「一緒に取り組んでいこう」というメッセージだったかもしれませんが、米国としては「一緒にルールを守っていきましょう」という意味でした。

 私たちが注目しなければならない現実として、軍事面だけではなく、すでに経済面において、中国のアジア太平洋支配が着々と進行しているということがあります。そのことを実感したのが、筆者が2011年10月に訪問したバヌアツ共和国でした。この南太平洋に浮かぶ島々から成る国への中国の進出ぶりの著しさには驚きました。

クルマといえば、数年前までは日本車ばかりだったのが、今では街中を中国車が走り回り、政府の公用車も全部中国車、政府の建物も中国が無償で建設し、銀行も中国が設立、現地でのビジネスチャンスを求めてバヌアツの政府などを官民挙げて大勢で次々と訪れる中国使節団、バヌアツの重要な国家プロジェクトに忍び寄る中国マネーの影…、ここにも中国が、という思いがしました。

バヌアツは地政学的にも重要な位置にあります。かつて冷戦時代には、ソ連が軍艦の補給基地としてバヌアツの寄航権を獲得しようとしたことを米国が阻止したということがありました。その後、冷戦体制崩壊もあって、フィリピンなどにも存在した冷戦時の米軍の西太平洋地域でのプレゼンスがどんどん後退することになり、中国が出やすい環境ができました。

バヌアツには、日本人が現地の関係者とともに20年かけて携わってきた植林事業がありました。原木がようやく育ち、質の高い木材を供給できる段階に至ったものの、日本からは必要資金が供給されず、そこに資金提供を申し出ていたのも中国でした。

日本はJBIC(国際協力銀行)にせよ、JICA(国際協力機構)にせよ、財務の健全性を優先する結果、融通が利かず、タイムリーに資金を供給する機能が強くありません。中国の台頭は、軍事面でも経済面でも、戦後の泰平の世を謳歌してきた日本に覚醒を迫っているように思います。

それに応える新たないイニシアチブとして、日本政府が打ち出すことになったのが「質の高いインフラパートナーシップ」です。次回は、これに触れてみたいと思います。