松田まなぶの論点 アベノミクスは持続可能か、TPPで日本の国益実現を | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

衆院内閣委員会(2014年3月5日)甘利明・大臣に対する松田まなぶの質問内容

◎アベノミクスの持続可能性について
第一の機関車:まずは円安。しかし、円安進行中しか効かない。そろそろ一巡。
 第二の機関車:財政。いまはここにバトンタッチ。しかし、そもそもが持続可能な政策ではない。これまでは消費税率引き上げ前の駆け込み需要。消費増税のあとは反動減。
 第三の機関車が見えていない。「第三の矢」の成長戦略は中長期の効果。本来は需要増。第一の矢がマネー面で促進するはずだった、しかし、第一の矢にも根本的な設計ミス。

(問)アベノミクス第一の矢「異次元の金融緩和」は、短期金利を操作する従来の金融政策とは異なり、長期金利の上昇を抑えるものであるが、短期金利がこれ以上下がらない低水準にある状況では、イールドカーブを寝かせることになり、銀行にとっては利鞘の縮小となって、銀行融資を抑制する方向に働くのではないか。結果、マネーサプライを増やすことにつながらず、政策として矛盾しているのではないか。経済再生担当大臣の所見如何。

○予算委員会での私からの基本的質疑への黒田総裁の答弁が長期金利への配慮としてネットニュースで流れたが、これは、いわゆる「金融抑圧」の示唆。
・金融抑圧とは、政府の利払い負担を軽減するために名目金利をインフレ率以下に抑え込む政策。デフレ脱却に差し掛かると、これしか選択肢がなくなる。
 ⇒2%成長達成が見えても、金融抑圧によって、さらにインフレ率が上がるか、バブルに。
・第一の矢のもう一つの矛盾は、金融抑圧か財政が回らなくなるかのジレンマに直面すること。




(問)また、インフレ率2%の達成は、いずれ、それに相当する長期金利の上昇を伴うものであることに鑑みても、アベノミクス第一の矢は当初から自己矛盾なのではないか。経済再生担当大臣の所見如何。

◎経済成長の姿は描かれていない。
・政府試算は「経済再生ケース」として、2020年度以降名目成長率は3%台後半、実質成長率は2.3~2.4%、かなり高めの成長率を想定。
・しかし、実質成長率2%台半ば近くの成長軌道が本当に実現するのか。
  足元で労働力人口増加率は▲0.5%(2012年)。
  ⇒一人当たり生産性上昇率は年率で2.5~3%以上を継続しなければならない。
・実績(労働時間当たり実質GDP)…2000年代は大体1.5%程度。これが1~1.5%ポイント以上上がる根拠はあるのか。
・生産性上昇率を日本経済が最も好調だったバブル期並みがずっと続くと想定して初めて2%台半ば近い成長になる。(政府の経済再生ケースの試算は83~93年の絶頂期の生産性上昇率を想定)。

(問)政府試算(「中長期の経済財政に関する試算」)の経済再生ケース(2020年代には2%台半ば近い実質成長率)について、担当大臣として本当にリアリティーがあると考えているのか。

・単にがんばる、めざすというのではダメ。夢を描くのは良いが、現実性のある夢でなければ無責任。
・そもそも日本経済はランニングマシン状態。
 豊かな国の経済成長はハードルが高い。生活のゆとりや環境への配慮(中国はしなくてよい)、安全性への配慮(日本は非常に高くなった)、倫理道徳への配慮、日本の場合、過去の債務処理の負担。
・やはり、高い成長の夢を描いてそれを前提とする政策は無責任。
・試算では、「内外経済がより緩やかな成長経路となる場合」として参考ケースを出しているが、そちらのほうが現実的。
・夢が実現したらお釣りが来る、政府の役割とは「雨の日には傘を貸す」こと。

○アベノミクスのポイントは賃金アップ
・しかし、賃金は一国全体ではマクロ経済環境によって決まる。
  実質賃金は主として、①労働生産性、②日本経済の交易条件、③労働分配率の3つの要因で決まる。
  ②の交易条件の低下によって日本全体として所得が海外に流出したことが、①の労働生産性の上昇を大きく打ち消して、実質賃金の上昇を抑えた。
・交易条件の低下とは、数量で経済活動をがんばっても、儲けが少ない、交易条件の低下で日本の景況感はパッとしないことがずっと続いている。

(問)近年の日本経済の問題として交易条件の悪化が指摘されているが、この問題についての政府の認識如何。

〇交易条件の悪化⇒円安局面でもかつての円安局面ほどには実体経済の回復を伴っていない。円安⇒輸出数量増⇒設備投資、の流れが、株価上昇と連動していた姿はなくなった。この面から経済を捉えると、日本経済の実力は大きく低下したように見える。
  アベノミクスは従来型の日本の成長パターンにとらわれている。そこに成長戦略のピントのズレがある。第3の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」
⇒民間投資を軸に置いている。これは投資主導経済パラダイム。輸出主導経済パラダイムでもある。中国がそう。
  非製造業やシニア消費などが持続的成長のカギになっている。
  大切なのは、消費主導経済への転換であり、そのビジョン。アベノミクスは設計の誤り。地に足の着いた成長にならない。
  新たな消費ニーズをとらえることこそ、消費主導経済におけるイノベーションの中核。民間投資はその結果として起こる。減っていく人口にどれだけおカネを使ってもらうかがカギ。日本には巨額の金融資産がある。それをどう支出に回すかがポイント。

◎G20声明と日本の政策
・今回のG20(20か国財務大臣・中央銀行総裁会議、2月22~23日、豪州シドニーにて開催)の声明をよくみると、「今後5年間で、我々全体のGDPを現行の政策により達成される水準よりも2%以上引き上げることを目指し」とある。これは2兆ドル以上の増加ということ。200兆円。
・つまり、これは、①日本そのものに適用すると、現行の政策により達成される望ましい姿が「経済再生シナリオ」なのであるから、そこで想定されている5年後の実質GDPよりもさらに2%高い水準を達成することを意味するが、現実的ではない。②世界ではなく、G20諸国についてであるから、そこにおける日本経済のウェイトからみても、現行の政策以上の対応について日本に大きな期待が寄せられる可能性がある。
・今回はドイツが標的と言われるが、財政規律を重んじるドイツがそう易々と応じるとは思えないし、中国もリーマンショック後の56兆円の景気対策で傷んでいる。



(問)G20声明で「今後5年間で、我々全体のGDPを現行の政策により達成される水準よりも2%以上引き上げる」ことを目指すと謳われたが、これがいずれ、日本に対して追加的政策コミットメントを迫ることになる懸念はないのか。それは政府試算の「経済再生シナリオ」との関係ではどうなるのか。

・私が大蔵省の官僚だったときの経験では、1986年東京サミットでマクロサーベイランスが合意され、当時はG7の国々の間で経常収支、財政赤字などの各国のマクロ経済の数字に基づいて、お互いに相手の政策に対して、友好的な圧力をかけ合うことになった。
・今回の合意は、それに向かうのか。いまやG7ではなくG20ベースでサーベイランスをしなければならないとの認識か。しかし、経済状態が大きく異なるこれら国々の間で実際にできるのか。
・今回はドイツを標的にしているとはいえ、日本も、かつてG7などの場で欧米から追加財政刺激に対する要請が繰り返されてきたわけであり、そのような事態にはならないとは思うが、念のために申し添える。

◎TPPと日本のマクロ経済
〇日本経済の交易条件の悪化については、GDP(国内総生産)ベースだけでなく、それに海外からの要素所得などを加えたGNI(国民総所得)ベースでも、実質では交易損失でマイナス。
・交易条件悪化をTPPでどう克服するかが課題。
・そのためには、例えば、海外に日本の商品などを高く売るブランド戦略に知的所有権ルールの確立が大きく寄与する。日本はこれから投資国家にもなっていくのだから、それを円滑化する国際ルールづくりが必要だし、海外での儲けを円滑に国内に還流させる上での障害も除去していくことが必要。

(問)経済再生とTPPの両者を担当している大臣として、TPP交渉と日本の交易条件改善との関係について、どのように考えているか。

・私は一昨年の3月に「TPP興国論」を上梓したが、狙いの一つは、TPPに対する誤解を解き、その意義を国民の前に明らかに示そうということだった。大臣には、これをやってほしい。
・その後、著者としてあちこちに引っ張り出されてきたが、TPP反対論者には、事実誤認の米国陰謀説や、仮説に仮説を重ねた空想的な暴論が多かった。
・本書を出版した背景の一つに、当時、「TPP亡国論」という本など、あまりに内容がおかしな亡国の書が売れていたことがあった。これに「興国論」で対抗しなれば国を失うと思った。
・例えば、反対論者は「TPPは日本のデフレを加速する」などと主張していた。

(問)反対論者の、TPPは日本のデフレを加速するという主張について、大臣はそんな主張が成り立つ理屈があると思うか?

・経済をわかっている人なら、デフレとは何かを理解している人なら、このような主張はしない。TPPは日本の製品輸入を増やすことにはならないので、もし、外国からの安い農産品輸入が増えることになるなら(それが本当かどうかもわからない)、むしろ、農産物価格の低下は日本の家計の実質購買力の増加なるので、デフレ克服にはプラス。TPPで、海外からの日本製品への需要も拡大。

◎21世紀の国際経済秩序づくり
○いま、日本には世界の秩序形成に日本の国益を反映できるチャンスが到来している。特に、本年2014年は、いろいろなものが世界で動きだし、日本にとって、それらとの交渉をどうするかが突き付けられる重要な年である。
・資料をご覧いただきたい。
  TPPは世界のGDPの6割を占めるAPEC地域でFTAAPという国際経済秩序に向かうものだが、他方、米国とEUとの間でTTIPが動き出している。
  世界の国際秩序形成には、TPP、米・EU・日、RCEPという3つの極ができていて、日本はそのいずれにも入っている。


(クリックして拡大)
(内閣委員会での松田質疑の際に配布した資料より)

(問)日本は今年だけでも数多くの経済連携・FTA交渉のチャンスが到来。今般、TPP合意が遠のけば、それが日中韓FTAやRCEP、あるいは日・EUのFTAなど、他の交渉や日本の国際戦略にどのような影響を与えることになると考えるか。中国の対日交渉姿勢にいかなる影響を与えると考えるか。

・日・EU間など、今年度にチャンスのあるFTA交渉は目白押し。日本はRCEPとTPPで何をめざすのか。国際スタンダードづくりに最初から日本が入るという国際戦略から考えていかねばならないのがTPPである。

◎日本の開国ではなく、日本に開国してもらうのがTPP
・多くの人が誤解をしている。TPPで日本を「開く」のだと思っている。
・日本は一部の農産品が高関税であるだけで、すでに、私も現役官僚のころに多数、携わってきたが、欧米との経済摩擦を経て、少なくとも政府ができることに関して言えば、世界で最も開かれた、完成度の高い市場の国。
・TPPの日本にとっての意味は何か。それはズバリ、未だ閉鎖的な面があるアジア太平洋の新興国・途上国に、自国を開いていただくことにある。
・本来、TPP交渉は、日本にとって「攻め」の交渉の舞台である。残念ながら、一部の農産品を聖域化したことで、それができないまま行き詰まっている。



(問)日本の農産品について関税撤廃を10年以上の長期のタイムスパンで行うなら、守るべきものは守ることになるのではないか。逆にいえば、10年ぐらいの間に関税を段階的に引き下げることが可能なだけ生産性が上昇しなければ、そもそも日本農業の再生はないのではないか。この際、高関税品目は20年程度の長い期間をかけて、あるいは米国の自動車がそうであると同様、期限を決めずに撤廃、その間に農業の構造改革、再生を漸進的に進める、という選択肢は本来、あるのではないか。これを明確に示すことが「不都合な真実」を語る政治ではないか。それなくして課題解決は困難ではないか。

・TPP全体のとらえ方、国民へのアピールの仕方については、そもそも自民党の出発点が間違っていた。国政選挙で「守るべきものは守る」、聖域を守るという守りの姿勢が前面に出てしまった。
・本来は日本がほとんどの分野、項目で「攻め」の立場になれるのに、守るとの発想に立って、農民票を得ようとした。大きな制約になった。そのツケが、いまの交渉難航に現れている。
・日米が合意できないなら、TPP全体が進まない構図になっている。TPPが進まなければ、アジア太平洋秩序が中国が主宰するものになることの抑止にも支障。まさに国益を失うことになる。
(注)衆院選の公約・重点政策2012では、「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加に反対します」、Jファイルでも同じ。参院選の公約・参議院・選挙公約2013では、「守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益を守る最善の道を追求します」、Jファイルでは、「重要5品目等…などの聖域…を確保できない場合は、脱退も辞さないものとします」
・日本が「守るべきものは守る」としているのは、農業ではなく、関税と農協なのではないか。安倍総理は「瑞穂の国」と言っているが、日本の国益は「豊葦原瑞穂の国」であり、これを壊してきたのがこれまでのやり方での日本の農政。
・農業を魅力ある産業ではなくし、ヤル気ある若者世代の参入しない部門にした結果、高齢化と耕作放棄地。これこそ、豊葦原瑞穂の国を壊してきた。本当に守るべきものを守るなら、農業を魅力ある産業にするしかない。
・関税を守るのは農業を壊す。TPPで日本は農業の国益まで損おうとしている。国境措置という政策手段が、どこかで根本的に間違ってきた。

(問)世界を日本に開かせる。TPPの日本にとっての本質的な意義は自国の「開国」よりも、日本に対してアジア太平洋諸国を開いてもらうことの方にあると考えるが、実際に交渉に当たっての大臣の所見如何。

・人口減少社会を迎え、自国の繁栄基盤を広くアジア太平洋へと拡大しなければならない日本が、対外「投資国家」としての道を歩む上でも、いわゆる「パフォーマンス要求」を禁止することを含むTPPがもたらす国益は極めて大きい。ローカルコンテンツ(現地からの調達比率)、現地の資本参加、自国技術の開示などの規制や、マレーシアのプミプトラ(マレー人優遇政策)などの阻害要因をTPPで取り除いていかなければならない。
・TPPにはいかにも誤解が多い。その誤解を解くための説明の努力を政府はもっとすべきだ。
・大臣には、TPPの本筋をきちんとアピールし、これからの交渉で日本の国益をぜひ、実現してほしい。そのことを応援している。