松田まなぶの論点 衆院国土交通委員会、太田大臣に対する質疑のポイント | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

~求められているのは仕組みづくりと設計~

〇キーワードは「設計」である。それは物理的な構造物の設計という意味ではなく、「システム」の設計。
・旧建設省は「トンカチ官庁」から政策官庁への脱皮が問われていた。
・日本の財政が先進国最悪なのだから、アベノミクス第2の矢、国土強靭化で、財政出動に先祖がえりしないような知恵と工夫が必要。
・アベノミクスはおカネを積んだだけ。大事なのはおカネが回る仕組みづくり。
⇒松田より当日の配布資料その1「名目公的固定資本形成(SNA)と建設国債発行額の推移」

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・後世に負担を残すのではなく、生産性を残すべし。
・今回は、社会インフラと財務との関係に絞って質問。

Ⅰ.おカネをかけずに仕組みづくりで強靭化
○国土強靭化でおカネをばらまいてもキリがなく、真の問題解決にはならない。
 おカネより前に仕組みづくり。
・「国土強靭化」について考えてみると、確かに、ハードな防災インフラの整備はある程度は必要であるが、多額のおカネを投入して、より強い堤防や防潮堤、より頑健な公共建築物などを造ってみたところで、それでも大震災が起きてしまえばどうにもならないというのが実態である。
・ハードでは守りきれないものは多く、本当に防災をしていく、あるいは、不幸にして大きなダメージを受けたときに復興していくということについて最も必要なのは、ハードの部分でなく、制度や仕組み、あるいは、そこに生きている人々の能力、組織の意思決定の方法など、ソフトの部分のほうである。
・今の平時にできるだけそのような仕組みの部分のところを組み立てておく。そこにはあまりおカネはかからない。

⇒松田より当日の配布資料その2「有識者からのヒヤリング」…後掲(参考)



(問) 現行の防災集団移転促進事業の枠組みでは被災地の住民の集団移転が現実にはなかなか進まないという事例にみられるように、「国土強靭化」の上で、財政資金を投入して物的インフラを整備すること以上に喫緊に取り組むべき課題は、復旧・復興の仕組みづくり、ソフトウェアの整備ではないか。国土交通大臣の取組み姿勢を問う。

Ⅱ.民間資金活用による未来への生産的投資
○日本の資金循環…民間資金の活用でポートフォリオ改善。
⇒松田より当日の配布資料その3「日本の金融資産と運用」

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〇官民一体でインフラ整備を計画・設計する場や仕組みが必要。
 公共財のうち、収益性のある部分を切り出して民間資金を導入するだけでなく、収益性のある部分をより多く切り出し、他との合わせ技でそれらを組み合わせることで収益性を全体として高めることが重要。民間事業者が投資判断できるようなスキームを構築する上で、官と民がすり合わせるプロセスが必要。
〇レベニュー債は、専ら、特定事業の収益から償還されるスキームであり、財政負担を残さない。事業について投資者側から厳しいチェックを受けることで規律が働く一方で、投資者からみれば自ら選択する価値を実現するための「思い入れ投資」の面もあるから、仮に償還が完璧でなかったとしても、満足が得られるという側面がある。自らが選択した価値に投資しようとするニーズに応えられる。
〇日本では、青森県が「みちのく有料道路」に関して債券発行しようとした際に検討されたが、結局、地元地銀による融資で済ませられた。

(問) 公共的事業分野に日本の金融資産ストックを活用する方策の一つとして、米国の自治体に普及しているレベニュー債を日本にも導入することを促進すべきではないか。

Ⅲ.公会計改革とインフラ整備
○今般、道路の維持補修分を入れて、高速道路の料金徴収期間を長くしようとしている。しかし、維持補修が必要になるのは前々からわかっていたことではないか。
・そもそもインフラ整備に当たって、維持補修を念頭に置いた計画を立てる発想が欠如していたことを露呈したものではないかとの不信感。
・今後、同じことが繰り返されるのではないか。
・そもそも料金徴収→いずれ無料化、というのはどのような思想だったのか。受益者負担という発想なら、維持補修を入れた料金設定が合理的だったはず。
・インフラ整備の考え方の「設計」になっていないのではないか。



(問) 今般、維持補修分を加えて高速道路の料金徴収期間を長期化しようとしているが、維持補修の必要性は当初から分かっていたことであり、そもそも受益者負担による債務償還を設計するに当たって、減価償却の考え方が適正に織り込まれていなかったのではないか。
⇒やはり、複式会計で、減価償却などを入れて、予算編成時から持続可能な設計ということをしていく必要。これを欠いていたのではないか。

(問) 公共インフラの整備や運営に民間資金を導入する上でも、将来世代に残す純資産の価値を把握する上でも、複式会計による財務情報が計画段階から的確に開示されている必要があるとされるが、社会資本整備を担当する大臣として公会計改革についてどう考えているか。


(参考)有識者からのヒヤリング
齊藤誠・一橋大学大学院教授(談) 文責 松田学
(2013年12月)                      
 今、復興が大変遅れているのが、市町村の事業である。
 国は港湾や河川改修を1対1で原型復旧を進めていく。県が携わっている農地回復も、基本的に元に戻すという発想である。これに対し、市町村が携わっている事業は、住民の利害が大変複雑になっており、例えば集団移転が進んでいない。集団移転を支える防災集団移転促進法は、例えば、山奥に10軒程度の家があって、そこに土砂崩れが起き、そこは誰も住めなくなったから平野部に移転する際に、10戸に対して10戸の家を下のほうに作る、造成等の費用に関しては、いったん市町村や国のほうで立て替えるという建付けになっている。
 これを津波被災地に適用すると、例えば石巻は7,000世帯が津波によって全壊、半壊となり、3,000世帯程度が居住禁止区域になっているため、それを内陸や高台に移転していくのに3,000対3,000の発想であれば大変なことになる。
 結局、3,000のうち2,000はもう戻らないということになり、それを金銭で補助して、1,000についても同じ小さい行政区域の中で移すのは大変であるから、恐らく全員が持ち家を持つ必要もないと考えて、持ち家は1,000のうちの500程度とし、残りは復興住宅で集合住宅にする、あるいは、わざわざ造成しなくても、石巻には内陸に空き地や空家がたくさんあるので、それらを買い上げたり、借り上げていくほうがやりやすいということになるはずである。
 しかし、今の法律の仕組みでは、そのような柔軟な対応ができない。さらに、区画整理や地権の確認など、平時の仕組みで税務手続きをしなければならないが、国土調査が全く進んでいない石巻の場合、土地登記の実態がない。そこで、区画整理や買い上げの度に、隣接地主を呼んで立ち会いをさせ、線を引いて確定しなければならない。あるいは、地主が亡くなっているケース、相続手続き無料になっている区画では法定相続人がたくさんいるというケースなどもある。
 そのような場合、市が強制収用のようなことができる仕組みが存在しない。そこで、1戸1戸、対応するか、裁判所に持ちこんで司法の判断を仰ぐということをしなければならない。とても行政は回らないということになる。
 石巻のような場所ですらそうなのだから、それが首都圏で起こった場合はどうなるか、想像もつかない事態になる。結局、非常時における柔軟な区画整理や移転の仕組みや地権の確認に関して、有事立法的に地方行政に権限を委ねるようなことをしなければならない。前もって国土調査を着実に進め、国土調査が進んでいない所については自然災害が生じた際の簡易手続きを措置できるような法的な基盤を作る必要がある。
 これによって、市町村の住民の利害で板挟みになってなかなか進まないような事業も進むことができるようになる。行政も民間の主体も、非常時の行動規範やガバナンスが全くないことで、うろたえるだけになっている。そのときに権限がどう移動するのか、非常時においてはこういうことは許されている、命令系統をどう現地に委ねるか、今こそ懸命に考えて法律にすべきである。
 いわば、「復興や復旧のソフトウェア」である。
 今の安倍政権の発想は、国土強靭化で箱モノで強い街を作るという、巨額なおカネをかけながら、本当に効果がどの程度あるか分からない政策へとシフトしている。これは防災に限らないが、最低限のハードは必要だとしても、危機的、非常時的な状況の中で人々が適切に行動できるような規範やルールや制度、あるいは危機から回復していくときに人々ができるだけ適切な行動がとれるような制度基盤やシステムを作ることにこそ重点を置くべきである。これだけ大規模な集団移転がありながら、10軒の移転を想定した法律で対応すれば、全体として巨額のおカネがかかることになる。
 「非常時対応に関してのソフトウェア」を構築することに、政治がイニシアチブをとることを考えてみるべきである。