抗生物質による慢性子宮内膜炎の治癒でCA125が低下:症例対照研究 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、抗生物質による慢性子宮内膜炎の治癒で子宮内膜症のマーカーであるCA125が低下することを示した症例対照研究です。

 

Fertil Steril 2024; 121: 1066(イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.041.

要約:2021〜2023年に卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)と慢性子宮内膜炎を共存する患者51名を対象に、ドキシサイクリン100mg1 日1回10日間投与しました。慢性子宮内膜炎が治癒した患者36名(A群、70.6%)と治癒しなかった患者15名(B群、29.4%)の血中CA125値の変化を比較しました(症例対照研究)。CA125は、慢性子宮内膜炎診断の1年以内とドキシサイクリン投与3か月後の月経周期7〜15日目に採血しました(基準値<35 m/mL)。両間の患者背景に有意差はありませんでした。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

         A群    B群   P値

治療前嚢胞直径  35.8mm 39.8mm NS

治療後嚢胞直径  35.5mm 39.9mm NS

治療前CA125値  58.6   69.6   NS

治療後CA125値  38.3 < 67.5  <0.001

NS=有意差なし

 

線形回帰モデルを用い、CA125値に寄与する因子を検討したところ、慢性子宮内膜炎の治癒(P=0.006)、チョコレート嚢胞数(P=0.015)と有意な関連を認めました。

 

解説:子宮内膜症と慢性子宮内膜炎が共存する確率が高い(38.5%~42.3%)ことが報告されています。また、子宮内膜症の女性の子宮内膜ではフソバクテリウム感染率が高いという最新の報告は、子宮内膜症の発生に感染や炎症の存在を示唆します。CA125は、子宮内膜や腹膜などの体腔起源の上皮細胞で発現する糖タンパクであり、子宮内膜症で増加します。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、抗生物質による慢性子宮内膜炎の治癒が子宮内膜症のCA125の低下と関連していることを初めて示したものです。本論文の問題点として、症例数が少ないこと、子宮腺筋症を考慮していないこと、子宮内膜症のない慢性子宮内膜炎の対照群がないことがあります。CA125は腹膜刺激により増加しますので、抗生剤による治療により腹腔内に入る細菌が減少し腹膜刺激が減少しただけの可能性もあります。

 

下記の記事を参照してください。

2024.6.27「☆子宮内膜症の発症に子宮内細菌叢が関与する