PCOSモデルラットを用いた研究 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、PCOSモデルラットを用いた多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の研究です。

 

F&S Sci 2024; 5: 204(ブラジル)doi: 10.1016/j.xfss.2024.03.001

要約:メスウイスターラット40匹を次の5群に分けました:無処置、連続60日間の光曝露によって誘発されたPCOS群、PCOS+メラトニン群(PCOS+ML)、PCOS+メトホルミン群(PCOS+MT)、PCOS+メラトニン+メトホルミン群(PCOS+ML+MT)。60日後に卵巣を採取し、免疫染色を行いました。結果は下記の通り。

 

            PCOS   無処置   PCOS+ML   PPCOS+MT   PCOS+ML+MT

嚢胞数         5.5個 >  0個     0個       4.1個       6.0個

黄体数         0個  <  4.6個    4.5個      3.5個       1.8個

一次卵胞        20.9個 < 32.2個   23.8個      23.8個      23.8個

胞状卵胞        1.0個 <  4.5個    1.9個      0.4個       2.2個

間質細胞の面積     52% >  19%     35%      20%       20%

間質細胞の核容積    15.4  >  7.4     10.2      10.1        10.1

莢膜細胞アポトーシス  20% >  2.0%     2.0%     2.0%       2.0%

顆粒膜細胞アポトーシス 5.1% <  95%     92%      92%       90%

間質細胞アポトーシス  0.03%   0.05%    0.04%     0.03%      0.07%

莢膜細胞の増殖     0.02%   0.01%    0.01%      0.03%      0.02%

顆粒膜細胞の増殖    89%  > 1.5%     86%      88%       56%

間質細胞の増殖     2.2%  > 0.2%     34%      60%       40%

*PCOS群と比べ有意差あり

 

解説:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は不妊症、多毛症、無月経、肥満などの臨床症状を伴う疾患です。PCOSでは、間質細胞がE2やテストステロンに対する高活性を示します。メラトニンは体内時計を調節することが知られており、体内時計の乱れとPCOSとの関連が示唆されています。PCOSの動物モデルでは、メラトニンがPCOSを予防あるいは改善できることが示されています。PCOSはインスリン抵抗性と関連しており、メトホルミンがPCOSのインスリン抵抗性とテストステロン低下をもたらすことが知られています。また、ラットへの連続光曝露によりPCOSモデルが作成できることが報告されています。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、メラトニンとメトホルミンがPCOSラットの卵巣機能を改善する可能性があることを示しています。本論文はあくまでも動物モデルであり、すぐにヒトに当てはめることができるかどうかは定かではありませんが、今後のPCOS治療の足掛かりとして貴重な研究だと思います。